« La mutinerie », HIPN., vol.2, pp.132-137.
題名が,自分の所属している組織などに対する「反乱,暴動」とは穏やかではありません.ニコラたちが反旗を翻しそうな組織といえば,自分の家,学校,空き地を奪う上級生などなど,子どもなりに色々考えられますが,今回は休み時間にニコラの行動に目を光らせている,憎まれ役のブイヨンさんに楯突こうというお話です.
ジョフロワが学校に「でっかいボール」を持ってきたのを見たブイヨンさんが,何か壊したり,人に怪我をさせたりするからと,そのボールで遊ぶのを禁止します.注意されたのが面白くないジョフロワはブイヨンさんの見ていないところでボールを一蹴り.何も壊さず,誰も怪我もさせませんでしたが,壁で跳ね返ってブイヨンさんの腕にぶつかってしまいます.カンカンに怒ったブイヨンさんは,「ボールを拾い,ジョフロワの腕を掴んで,3人揃って校長先生のところへ行ったんだ.」(p.132)「3人揃って」?ジョフロワとブイヨンさんしかいないはずなのですが.ここでは,ボールを人扱いしているようです.それでボールの当たったブイヨンさんは,生徒の一人に危害を加えられたくらい,大袈裟に騒いだと言いたいのでしょうか.それはともかく,授業が始まってもジョフロワは教室に戻らず,2日の停学処分にされてしまいます.
怒ったのはニコラたち.「ブイヨンには,そんな権利なかったはずだぜ」と,ウード.「ほんとだぜ!」と,同調するリュフュス(p.132).そこで翌日,ブイヨンが始業の鐘を鳴らしても従わず,ジョフロワの停学措置とボールの返却を要求することになりました.そのためにニコラたちは,「<仕返し団>」を結成し,計画を実行に移すことを誓って解散します.「<仕返し団>」については(82)でも登場しています.一つの名前をつけて,結束を固めようというもので,ニコラたちのただならぬ決意が伺えます.(88)では,クロテールが自分たちでつけた名前を覚えられないという思わぬ事態も生じてしまいますが.
翌日,張り切りすぎたせいか,ニコラは熱を出してしまいます.
僕はその夜,あまり眠れなかった.翌日の朝に何かすっげーことをしなくちゃならないとなると,いっつもそうなんだ.ママンが来て,「起きる時間ですよ」と言ったときには,僕はもう起きていて,すっごく興奮していた.
「ほらほら,起きなさい.お怠けさん.」
ママンはそう言って僕を見た.
「おかしな顔をしているわね.どこか変なの?」と,ママンが聞いた.
「あんまり,気分が良くないんだ.」
気分が良くなかったのは本当だよ.胸が詰まる感じで,お腹も少し痛くて,手がすっごく冷たかったんだ.ママンは僕の額に手を当てた.
「確かに,少し熱があるようね.」(pp.133-134)
「胸が詰まる感じ」は,原文でj'avais une grosse boule dans la gorge.で,文字通りには「喉に何か大きな玉がつかえていた」となり,風邪の症状を思わせます.慣用表現なので,実際に病気かどうかは,この箇所からだけではまったく判断がつきません.
パパも登場して具合を見ますが,やっぱり判断できない様子です.「学校で何か心配事があったりしないか?」(p.134)と,いつになく鋭いパパでしたが,とりあえずニコラは学校へゆくことにします.
学校へ到着すると,もうみんな揃っていました.この時点で,「クロテールは気分が悪そうで,アルセストは何も食べていなかった.」(id.)これは大事件です!何も食べていないアルセストが登場するとは!!!実は前日,大義に興奮していたニコラに,「クロワッサンを食べながら,一緒に歩いていたアルセストは大きなため息をついて」,一言「明日は大変なことになるなぁ・・・」(« Ça va faire une drôle d'histoire, demain »)と言っています.ニコラはこの言葉を「そうだ,アルセストの言う通りだ.大ごとになるさ.ブイヨンと僕ら,どちらが強いか思い知らせてやるんだ.」(p.133)と,都合よく解釈していますが,「大きなため息」は見逃せません.アルセストは騒ぎになったら,デザートが抜きになることを心配しているのです.字句通りにしか解釈できないニコラのKYぶりが発揮されている箇所でしょう.他方で,アルセストは騒ぎが(デザートが?)心配で,物が喉を(口を?)通らないほどなのです.
さて,集合場所にアニャンは来ていませんでした.そこでウードは「裏切り者」のレッテルを貼り非難します.
「あの裏切り者のアニャンがいないからな.教室に行っちまうやつはいないだろうさ.授業を始めるには,俺たちがいなきゃだろ?先生も俺たちがいなけりゃ,ブイヨンにどうなってるのか聞きに行くわな.それで先生に知れれば,校長先生のところへ行って,ブイヨンに抗議する.いいきみだぜ.見ものだな.」(p.135)
なかなか綿密な計画です.イラスト1/2を見てください.
ブイヨンさんの後ろで,拳を振り上げている子がいます.そのこを後ろから,メガネをかけた(ように見える?)子が引き止めています.その他の子たちも,2箇所で集まり,悪巧みをしている様子が伺えます.みんなブイヨンさんの方を睨んでいますから.
計画を聞いたクロテールは「でもどうやってやるのさ?」と質問をし,ウードが説明します.
「ブイヨンが始業の鐘を鳴らすだろ.俺ら以外のやつらは列に並ぶんだ.でも俺らはここに残る.冗談じゃねえ.そしたらブイヨンがなぜ列に並ばないのかと俺らに聞きに来る.そのとき言ってやるんだ.「ジョフロワの停学を撤回しろ.ボールを返せ.それまでは教室にいかないぞ」ってな.」(p.135)
なかなか勇ましい.↑のように,みんな💢っているのですから,自然と強い調子になっています.
それなのに,ここでまたクロテールが質問します.
「誰が言うのさ?」
「そ,そうだなぁ.知らねーけど,お前か,お前か,お前だろ.」と,ウードが答えた.
「俺?」と,リュフュス.「なんで俺なんだよ.お前が言い出しっぺだろ?」
「わかったよ.お前,裏切り者なんだな.そうだと思ってたんだ.」と,ウードが言った.(p.136)
「誰が?」の質問から,急にトーンが落ち始めます.イラスト2/2は互いに押し付け合う図のようです.
すでに元のイラストが小さいのですが,右の子の吹き出しの中にはブイヨンさんと左の子,左の子の吹き出しにはブイヨンさんと右の子の姿が描かれているようです.つまり,お前が言いに行け!と.
こうしていつものように,何かする前のケンカが始まります.誰が裏切り者で,誰が大将で,誰が誰に従うか・・・.リュフュスが抜け,メクサンが去り,クロテールとジョアキムが一緒にいなくなる.残ったのはアルセストとニコラとウードだけとなりました.アルセストの言い分では,ブイヨンに注意されていたのに,ジョフロワがヘマをしたと言うのに,何故に自分が「デザートなし」にならなきゃならないんだ,と.
あのバカがブイヨンにボールを投げつけたからって,俺が苺のクリーム添えを食べられないって言うのか?冗談じゃねー!(p.137)
その通りです.今回の経緯を見事に要約しています.こうして「アルセストはチーズ入りのでっかいサンドウィッチを頬張りながら走って行った.」(id.)これをみたウードは独り残ったニコラにも,「行っちまえ,お前も裏切り者なんだろ?」とけしかけるのですが,これはあんまりです.確かにニコラもあまり乗り気でなかったのは,朝の様子からわかりますが,それでもちゃんと来ているんですから.
でも「裏切り者」扱いされたニコラは怒りこそすれ,その場を立ち去りはしませんでした.それではどうしたか?
「俺が裏切り者だって?」と,僕は叫んだんだ.「お前と同じだ.裏切り者なんかじゃない.冗談じゃねーぜ.もう一度言ってみろ!」
始業の鐘がなって,僕らはケンカできなかった.でも,教室に入るのに列に並びに行きながら,僕はウードに言ってやった.
「次の休み時間に相手してやる.誰が裏切り者か,そのときわかるさ.」(p.137)
習慣とは恐ろしいものです.怒りながらも,つい並んじゃいました.それともニコラは,みんなが逃げ出したのをみて,始業の鐘を利用したのでしょうか.どちらにしても,やっぱり「裏切り者」なんじゃないでしょうか.それに,自分で面と向かってブイヨンに意見せず,人に言わせようとしていたウードだって,最初から裏切り者と言われても仕方ないのでは.
でも,まぁ,アルセストの指摘で,ニコラたちに大義がないのはすでに暴かれています.ボールを持ってきて人に当てたからって停学にさせる「権利がある」かどうかは微妙なところですが,注意されていたのにボールを蹴ったジョフロワが「バカ」なのは確かでしょう.みんなで揃って,そう言いに行けばよかっただけなんですが.
イキリたつと前後見境がなくなってしまい,後になって後悔する.そんなの,子どもたちだけではないでしょう?
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