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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』(179)

« Rugby à XV », HIPN., vol.2, pp.112-119.

 「15人制ラグビー」って,ラグビーって15人でやるんだから,「15人制」って要らなくない?と思っていたら,ラグビーには「7人制」もあるんだそうです.それに「13人制」の「ラグビーリーグ」というのも.それもオリンピックの競技にも入っているそうです.知りませんでした.今回はラグビーのお話ということで,フランス語の単語もラグビー関連のものがたくさん出てきたので辞書もたくさん引いたのですが,合わせてゲームのルールとかポジションも学びました.そもそも,元々そんなにスポーツを見る方でもなく,況ややる方ではまったくないので,何となくテレビやニュースで流れているとぼうっと眺めている程度で知っているような気になっていましたが,何事もちゃんと知ると奥が深い.構成や役割やルールも色々複雑なんですね.それじゃ,せっかく覚えたから今週末に河原でやってみようとか,スポーツ・キャスターになって,この知識をひけらかすとか,そんなの妄想以外のなにものでもありませんが,それでも,本話を理解するのに必要だったし,役に立ったことになるでしょう.本話も面白かったし.

 本話のイラストも(173), (174)に引き続き,『未刊行集 第2巻』のための書き下ろしとなります.線が細くてあか抜けてますが,個人的には雑誌掲載時のやややぼったいニコラが好きかも.

 またもや「パパがお金持ちで,いつでも色々たくさん買ってもらえる」ジョフロワがラグビーボールを買ってもらったことから,みんなでラグビーをしようというお話です.実際,少しはできましたが,始めるまでにみんなで揉めて,始めたらほんの少しだけ実践して,ハイ終わりといういつものパターンです.語りも相変わらずのパターンを踏襲しています.まず,ジョフロワが「僕らをびっくりさせるもの」があると勿体ぶる.「ジョフロワは秘密めかすのが好き」(p.112)なのです.それに,みんなに気を持たせといて,なかなか明かさず,いよいよ公開となると,必ず「最後に到着する」のです.「まったくイライラするよ」(p.112)まで同じセリフです.

 それでラグビーをすることになるのですが,私と同じように,クロテールもルールをよく知らず,数字に頭を悩ませてしまいます.メクサンはちゃんと「15人制」か「13人制」か?と聞いていますから,なかなか通です.


リュフュスが言った.「やっぱ15人制だよ.そっちがすげーからな.」

「でも俺ら,8人しかいないぜ.」と,ウード.

「そうだな.それじゃあこうしよう.ハーフがスリークウォーターも兼ねるんだ.」と,ジョフロワが言った.

「15だの,13だの,8だの,ハーフだの,スリークウォーターだの,そりゃ算数だな.」と,クロテール.

 それで僕らみんなで大笑いした.(pp.112-113)


 15, 13はすでに説明しました.8は一緒に遊んでいるニコラの数で,ハーフ(demis)はラグビーのポジションの名称で通常は2名なのですが,フランス語で「半分」の意味ですから,ラグビーを知らないクロテールが理解できなくて当然です.さらに,スリークウォーターもポジション名で通常4名.ところがこれもフランス語では「4分の3」という意味があるので,「ハーフがスリークウォーターを・・・」はクロテールには「半分な人たちが3/4をやる」と聞こえたのです.くどいようですが,私にもそう聞こえてちんぷんかんぷんでした.

 次にアルセストが自分は「ハーフかスリークウォーターか」と聞くと,リュフュスがこう答えます.


「お前はな,ハーフとかスリークウォーターってよりも,むしろ2バーイだろ!」(p.113)


 この冗談にみんなが笑います.もちろんデブをバカにされたアルセストと(「2バーイ」は2倍),未だ何も理解できていないクロテールを除いて.

 チーム分けでももちろん揉めます.それはともかく,今度はゴールの設置です.ジョフロワの提案です.


「それじゃあな.ゴールはあっちの車と鍋の間な.もう一つはあの砂利があるところと箱があるところの間.22メートルラインを引かなきゃな.(p.116)


 アルセストが22メートルもあるかとツッコミを入れ,クロテールは相変わらず数字で訳がわかりません.

 それからレフリー(主審)とタッチジャッジ(副審)を決めるのに,またもや時間がかかります.ジョアキムが「ズルをしないなんて,誰にでも簡単にできることじゃないしな」と.ビー玉でよくズルをするらしいメクサンに当て擦りをいいます.

 これでポジションと役割が決まり,ようやく試合ができるようになります.もうすでに本話の半分以上がすぎてるし.でも兎にも角にも,レッツビギン!イラスト1/3です.




あれっ?12人いるよ・・・.「車と鍋の間」は壊れた乳母車と鍋らきしもの?の間として,「砂利」がなくて,木箱と瓶が転がっています.でも,まぁ,そんなことはどうってことありません.背後には大都市のように高く大きな建物がズラリ.手前の空き地と対照をなしているのですが,それにしても,大都市のど真ん中に,こんな風に使われていない土地があるなんて21世紀の今となっては,ちょっと不自然かも.

 それから先にツッコんでおきますが,実はスクラムを組むのはもう少し後のことで,この時点ではジョフロワがキックオフをしただけです.だからこのイラストは次のスクラムの場面と合わせたtwo in oneの場面のようです.

 

それから僕らは空き地の真ん中に集まり,ジョフロワがキックオフのキックオフの一蹴りをした.でも,そんなに強く触れなかったものだから,ボールは転がって,リュフュスが握った.

「ハイっ,フリーキックね!」と,クロテール.

「何がフリーキックだよ.バカか?」と,ウードが言った.(p.117)


 始まってそうそう中断です.それはクロテールがサッカーと混同して,ボールを触ったらハンドでペナルティと勘違いしたから.ほんとーに進みません.ジョフロワがクロテールをなじる間に,今度はジョアキムが,メクサンがボールを持っていないのにタックルしてきたからペナルティだと騒ぎ立てます.でも・・・メクサンとジョアキムは同じチームだから,違反にならないだろと反論します.なるほど.でも,それじゃ,なぜメクサンはタックルしたんでしょ?

 二人のケンカは続き,ジョフロワが二人を退場にするよう提案します.それでようやく二人は泣き止んで,次はみんなで「スクラムを組む」ことに.えっ?いまさら?


それでメクサンとジョアキムはケンカをやめたんだ.だって二人とも,空き地から退場したくはなかったからね.それからスクラムを組むことにした.でも何度も何度もやり直さなきゃならなかったんだ.だって,最初のスクラムではみんながスクラムに入っちゃって,ボールを投げ入れる人がいなかったからなんだ.2度目はアルセストがスクラムから外れちゃったんだ.リュフュスがしかめつらをして見せているからボールを入れたくなかったんだ.

 それでようやく,,ジョフロワがボールをヒールアウト*した.それをクロテールが拾った.

「どうしよう?どうしたらいいんだ,俺は?」と,クロテールが聞いた.

「キックだ.キックしろ!蹴ればいいんだよ.早く蹴れ.このバカ!」と,リュフュスが怒鳴った(p.119)

*ヒールアウト:足の裏でボールを蹴り出し,味方のバックスに渡すこと.


 もう一度イラスト1/3を見てみましょう.

 ヒールアウトしたボールを蹴るのはクロテールですから,イラスト1/3で蹴っているのは,ではクロテール?さっきはジョフロワのキックオフの一蹴りかと思いましたが.

 つまりこのイラストでは,1)ジョフロワのキックオフ,2)スクラム,3)せかされてボールを大きく蹴飛ばすクロテール,以上3つの場面が1つに描かれているthree in oneのようなのです.

 お話に戻って,「キックだ,キックしろ」と言われたクロテールは,実は何をして良いのか最初,わかりませんでした.「キックだ」は原文でbotte en toucheでラグビーの専門用語なのです.初めからラグビーを知らないと公言しているんですから,クロテールがわからないのも無理はありません.それで,「このバカ!」と罵りながらも,リュフュスはわざわざ翻訳してあげたのです.

 

それでクロテールは目を瞑り,超すごいキックを一発放った.ウードはノックオン*だって言ったんだけど,クロテールはすごいタッチをしたよ.(p.119)

*ノックオン:ボールを前に落とすこと.ラグビーでは反則となる.


 「すごいタッチをしたよ」(trouver une touche formidable)は,ラグビーに精通していないので悩ましいところですが,どうやらタッチラインの先にボールを送り込むことのようなのですが,おそらくは,「タッチ」=ボールに触ることと掛詞になっているのではないかと思うのです.ですから,ここでは「素晴らしい一蹴り」をした,すごいキックだったよ,という意味でとれるのではないでしょうか.次のオチの部分にも同じ表現が出てきます.


残念だったのは,タッチラインを超えて,僕らはボールを失くしてしまったんだ.だって,空き地の囲いの向こう側に飛んでいっちゃったからね.通りですごい叫び声が聞こえたものだから,僕らみんな走って逃げたんだよ.(p.119)


 タッチラインを超えて,はるかに飛んでゆくラグビーボールが目に見えるようです.イラスト1/3のキックは確かに「素晴らしい接触」(touche formidable)で,いかにも遠くへ飛んでいそうです.

 最後に,皆さんも気になっているでしょうこと.上のイラスト1/3が複数の場面を一つにまとめたものとして,2/3と3/3がない?いえ,あるんです.ほら,この通り.








 サッカーボールと違って,ラグビーボールの特徴って,楕円形をしているから,どの角度に跳ね返るか予想がつかないところですよね.確かに.でも,そんなボールを相手に苦戦しているニコラたちの姿は文には現れないんです.それどころか,上で見たようにラグビーらしくまともにプレーしたのは,キックオフとスクラムと直後の特大キックだけでしたから.でも,ラグビーといえば,この2/3と3/3のようなイメージでしょう?

 上の説明にはどうにも繰り込めなかったのですが,でも,この予想のつかなさ加減が,サッカーほどには(多分)浸透していないラグビーのわからなさ,難解なイメージを上手に表しているように思えるのです.



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