« Les ouvriers », HIPN., vol.2, pp.100-105.
ニコラたちの学校に「工事のおじさん」たちがきて,校庭の工事をするお話,ではなくて,工事をさせてもらえないお話です.イラストは1枚だけなのですが(p.103),左側の走って逃げる子どもたちがpp.100-101の余白にたくさん切りはりされていて,非常に賑やかな印象です.
ニコラたちの学校で,いつも休み時間を過ごす校庭に,工事のおじさんが穴を掘っています.「機関銃のような機械でものすごい音を立てて」いました.ドドドドド・・・と,あのすごい音を出して道路に穴を開ける機械です.フランス語では「空気ハンマー」(marteau pneumatique)というんだそうです.あまりの音に,担任の先生も校長先生に抗議するのですが,校長先生が言います.「わかっとる.わかっとる.私も夏休みまで工事を延期してもらえないかと,担当部署に掛け合ったんだが,どうやら急を要するようなんですよ.校庭の下を通るガス管の修理をしとるんです.ま,しっかり.数日しかかからんそうですから.」(p.100)
というわけで,校長先生も全く当てになりません.否,結論から言うと,いえ結論(オチ)だけ見ると,この校長先生の願いは聞き届けられたわけで,さすがと校長先生の力量を褒めるべきか,それとも,『プチ・ニ』ではやっぱり冒頭の言葉が実現するといういつものパターンを読み取るべきか.
そういえば,工事とか工事現場とかって,やはり非日常空間を作り出しているからでしょうか,子どもは興味津々,つい近寄って見てしまうようです.大人になると,ただうるさいだけとか,どうせ年末の予算消化でしょとか,皮肉な眼差ししか向けませんが.マンガ版*の『プチ・ニコラ』でも,そんな工事に関心を持つニコラが描かれていました(マンガ版p.11).
*Sempé-Goscinny(Agostini), Le Petit Nicolas La Bande dessinée originale, IMAV éditions, 2017.『プチ・ニコラ』の刊本について,詳しくは以下の共著論文を参照してください.
マンガ版ではニコラが質問攻めで工事のおじさんをうんざりさせてしまうのですが,本話ではもちろんニコラだけではなく,クラスメートのみんなでおじさんたちの邪魔をします.ブイヨンさんがいくら注意しても,好奇心に駆られたニコラたちは,穴を掘る傍の囲い紐まで近づいてきます.↑のイラストでは,囲い紐はありませんが.
口火を切ったのはジョアキム.
「おじさんの使っている機関銃みたいなのは何?」
「これは空気ハンマーさ.やってみるかい?」工事のおじさんは笑いながらそう返した.(p.101)
ジョアキムはおじさんの言葉を真に受けて,囲いを乗り越えようとして制止されます.KYなのはニコラだけじゃなさそうです.横で見ていたクロテールもやりたがり,ジョフロワがチャチャを入れ,メクサンとウードもでしゃばってきます.それで工事のおじさんは仲間に怒られるわ,ブイヨンさんが駆けつけてくるわ.当然の展開です.
次はアルセスト.アルセストはおじさんたちの昼食の料理に目をつけて,今食べているバターパンと交換を申し出ます.するとリュフュスが味見をしたがり,またもやブイヨンさん登場.アルセストたちに注意をしますが,逆に工事のおじさんから,「授業ならもっと遠くでやって,俺たちに仕事させてくれねーかな?」(p.102)と注意をされてしまいます.それで逆ギレ.当然ですわな.
最後はウードの提案でボール球鬼ごっこ((61)参照)をしていて,ジョフロワがボールを穴に落とし,クロテールとリュフュスとウードが穴に取りに入り,工事のおじさんがキレてボールを遠くへ投げようとしているところで,おじさんの仲間が来て制止.おじさん同士で言い争いが始まります.そこへブイヨンさんと校長先生が合流.やっぱり怒鳴り合いが始まります.
僕らはね,工事から離れて遊んだよ.だって,ブイヨンさんと校長先生と工事のおじさんたちが何やら大声で叫んでいたから,邪魔したくなかったからね.そりゃあ,すごかった.おかげで休み時間が5分延びたんだ.残念だったのは,次の休み時間にはもうおじさんたちの姿が見えなかったことさ.(p.104)
やはりカオス状態になりました.どうしてニコラたちのクラスに関わると,大人はみんな騒いだりケンカしたりするんでしょう.
おじさんたちは,夏休みになったら工事を終えに戻ってくるって言ってたらしいよ.校庭に開けた穴を元に戻しもしなかったんだ.(p.105)
ね?!予言的中.校長先生の要望通り,「夏休み」に工事継続となったわけです.でも穴が残っているということは,落とし穴なんてないでしょうか.
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