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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』(174)

« Le bateau de Geoffroy », HIPN., vol.2, pp.78-85.

 「ジョフロワはすっごくお金持ちで,いつでもたくさんのおもちゃを買ってくれる」といつでもどこでも繰り返し刷り込まれているので,「ジョフロワの船」という題名を見ると,それがジョフロワ家が所有する本物の船の話なのか,おもちゃの船のことなのか,一瞬迷うどころか,悩んでしまいます.刷り込み効果って恐ろしい.

 とはいえ今回はおもちゃの船のことでした.どちらにしても,どうせジョフロワが自慢するのに変わりはない.ジョフロワが新しいおもちゃを買ってもらい,公園でニコラたちに見せびらかしているところへ,他の学校の一団がやってきて,みせろとかみせないとか,どっちの船が立派かなんてケンカするというお話です.今回も,本話のためにサンペが新たに描き下ろした挿絵でしょう.かなりさっぱりしているのですが,以前にあったような幾つもの場面を一つの絵に凝縮したイラストが見られなくなっているのは残念なような気がします.もちろん,ユーモアが無くなったわけではないのですが.

 舞台はいつもの空き地(le terrain vague)ではなく,既に(147)で登場している「公園」(square)です.だっておもちゃの船を浮かべるのに,噴水のある池がないと困るでしょう?そしてこの「ニコラの家からそう遠くない公園」には「管理人」のおじさんがいるので,やはり本話でも登場します.初登場は「しかめつらをしたおじさんの像」です.


公園には,しかめつらをしたおじさんの像があるんだよ.机に座ってね,石でできた大きな羽ペンで何か書いているんだけど,どうやら書いていることが気に入らないみたい.(p.78)


 それでニコラたちは気を利かせ,ジョアキムが「ふざけて」おじさんの膝の上に座りました.「ふざけて」(pour rigoler)というのは,おじさんがしかめつらをしているので,少しでも陽気にしてもらおう,ついでに自分たちも陽気になろうという配慮なのでしょうが,「ちっとも笑わなかった」のは,管理人のおじさんでホイッスルを鳴らしながら走ってきました.像も迷惑してるでしょう.

 それにしても,イラスト1/4の銅像の大きいこと!ニコラたちの背の5倍はあるでしょうか.ジョアキムは怖くないのでしょうか.ちなみによじ登るのにどこから持ってきたのか,椅子が置いてあるのが芸が細かいというか.

 公園にはさらに,「たくさんの芝生がある.管理人さんと鳥しか芝の中を歩いちゃいけない.」それに噴水と池も.ジョフロワが新しいおもちゃのお披露目をする池です.

 

ジョフロワは最後に登場したよ.僕らに新しいおもちゃを見せびらかしたいときには,ジョフロワはいつもそうするんだ.僕らを待たせたいんだね.まったくイライラするよ.(p.80)





 存在感を誇示するために,主役はいつも最後に姿を現す.永遠普遍の真理です.まったく「イライラ」させられます.しかもジョフロワは「小脇に大きな箱を抱えて」いました.イラスト3/4↑ではとても「小脇に」抱えるような大きさではなさそうですが.開けると中から船が出てきます.「すっげー!モーターのついた赤と白のボートで,小さな旗とスクリューと舵まである!」(id.)ニコラが驚いただけでなく,よほどすごい船だったらしく,管理人のおじさんまでわざわざ見にきました.でも,芝生に入って座っている犬を見つけて,すぐに行ってしまいましたが.前後しましたがこちらがイラスト2/4の踏ん張る犬の図.


 おじさん,ホイッスルならしているけど,犬にも効果あるのでしょうか.それに彼,ちょっと何かしでかしそうな様子です.すぐに連れ出さないと!

 そこへ別の学校に通う子どもたちの一団登場.ジョフロワの箱に目をつけます.ジョフロワは思わず箱を閉め,「お前になんか関係ねーよ.」(p.82)と既にケンカモード.でも隠したりしたものだから,逆に「どうせお人形さんだぜ」なんてからかわれてしまうはめに.そこでジョフロワの加勢にみんなで対抗します.


「ジョフロワの持ってるのはな,船だぜ.わかったか.」と,リュフュスが言った.

それで僕も加勢した.「そうだそうだ,かっちょいー船だぜ.」

「こんなすげーの,お前らじゃ手に入れられねーぜ.」と,ウードが付け加えた.

 アルセストは何も言わなかった.だって,口の中がマドレーヌでいっぱいだったからね.(pp.82-83)


 この間,ジョフロワは一言も発しません.きっと危機感を感じていたに違いない.新しいおもちゃを盗られるとか壊されるとか.みんなでそんなにたきつけたら,当然相手の少年たちも面白くない.見せろ/見せないの応酬が始まります.



 ところが何と,相手の少年たちには「もっといい船」があるというので,まさか〜と,笑いながらニコラたちは池に寄ってみると,何と何と・・・.


僕らはそいつらの後について行って船を見ることにした.まだそんなはずないって笑っていたんだ.ところがやつらの船を見て,そうそう笑えなくなった.だって,それはそれはかっこいいヨットで,マストとそれに細い綱が張ってあって,旗もいっぱいついていた.(p.84)


 それを見たジョフロワは「ふ,ふ〜ん・・・」と強がり,思わず無関心を装います.それでいよいよ自分の船を見せられなくなりました.負けたのね.それなのに,「お前らに見せないのはなー,お前らに恥をかかせないためだ」(id.)なんて,負け惜しみ.それで一触即発.リュフュスは「いけ,やっちまえ,ジョフロワ」と,「あまり気乗りのしていなかった」ジョフロワの背中を押します.イラスト4/4です.


あれっ?イラスト1/4↑でハンチングを被っていたのはジョアキムのはずなのですが.ま,それはともかく,相手はまずリュフュスに平手打ち,ウードが相手を押し,小突かれた相手がアルセストにぶつかって,アルセストはマドレーヌを池に落としてパニック状態.根性でマドレーヌを救おうとしたようです.ここで幸い,相手の少年たちは去り,管理人のおじさんが駆けつけてきて,アルセストを引き上げ(「釣りあげ」という動詞を用いているのが面白い.確かに水から引き上げるのですから),ニコラたちを叱ります.ずぶ濡れのアルセストは水を払おうとして,みんな同じくずぶ濡れ.「濡れないで済んだのは船だけで,ジョフロワが箱から出そうとしなかったから」です.船なのに,唯一濡れなかったという逆説と皮肉を想像して楽しんでください.

 1日が終わり,家に帰ると,ニコラたちは全員お仕置きを受け,デザート抜きで,お尻を引っ叩かれ,平手打ちをくらい,「次の木曜日には公園へ行っちゃダメだ」(p.85)と禁止令まで出ました.


これにはね,僕らこたえたよ.だってジョフロワの船があれば,公園で結構楽しめるじゃない?!(p.85)


 公園でなら,船<で>じゃなくて,船<をネタに>みんなで楽しめるのに,行っちゃいけないだなんて・・・.でも次の木曜日じゃなくて,その次だったら,万一,もしかしたら(可能性としてはかなり低くても)クロテールも一緒に遊べるかもしれない.でも,そのときには船は新しいおもちゃじゃなくなり,「新しいおもちゃ」は今度は船じゃないかも.遊びなんて,友だちと道具とタイミング.いい船じゃなくたっていい.楽しめるタイミングも,そうやすやすと訪れない.ニコラはそんなことを直感しているに違いありません. 


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