« Notre maison », HIPN., vol.2, pp.48-53.
「僕らのお家」という題名ですが,そういえば「僕らの」と「お家」の組み合わせはしっくりきませんね.もちろん,ニコラがパパとママンと一緒に「僕ら」ということはあるでしょう.その場合には「我が家」ですかね.でも,「僕ら」がニコラのクラスメートだったら,共有している「お家」はありません.ニコラにはお家があるし,ジョフロワなんて大きなお屋敷に住んでいるから,家はあるのですが,みんなの家はないはずです.
と,まあ,愚にもつかないことをつらつらと考えながら読み始めたら,ニコラたちにはいつも遊びにゆく空き地があって,そこに家を一見立てることを思いついたそうなのです.みんなで使えるお家なんて,何てナイスなアイデアでしょうか.小学生の頃には一度くらい,みんなで遊べる秘密基地があったでしょう?空き家とか,空き地の隅とか,木の上とか,動かない車の荷台とか.それなのに,ニコラたちは家を一軒建ててしまおうというのですから壮大です.
それでね,僕ら仲間で決めたんだ.家を一軒立てようって.僕らだけの一軒家だよ.他の誰も入れてやらないよ.僕ら自分で料理して,そこで食べるんだよ(これはアルセストのアイデアだ).雨が降っても行けるんだ.そりゃ,超すごいだろうな.(p.48)
それでみんなで道具を持ち寄ることにしました.ニコラが持ってきたのは,ヴァカンスの時に浜辺で使ったシャベルとバケツ.ウードは金槌,メクサンは釘をたくさん.錆びていたり,曲がっていたりしていた釘ばかりでしたが,まっすぐなのはお家の壁に打ち付けてあるので引っこ抜いてくるわけにいかないじゃんという理由ももっともです.ジョアキムとクロテールは手ぶら.アルセストは自分用の食べ物だけ.リュフュスはドアノブ.ジョフロワは板を一枚,脇に抱えてきました.ニコラによると,「すっごくいい板」とのことです.
「そんなに大きくないな.」と,クロテール.
「ああ,そうかい?でもな,お前なんて,家を建てるのに何を持ってきたってんだよ?」と,ジョフロワが返した.
「本当だぜ.」と,リュフュス.僕らはすっごく役に立つものを持ってきたっていうのに,お前ら,何も持ってこなかったじゃないか.文句ばっかしたれやがってよ.」(p.49)
その通り.でも,「すっごく役に立つもの」を持ってきているのは確かですが,それだけでは・・・と思ってしまうのは,童心を失くした大人の私だからでしょうか.いずれにせよ,口を出すなら,モノも出せ(ついでに金も出せ)というのは,いつだって変わらない一般心理のようです.
このお話はもう最初から予想していたように家が建つはずもなく,ニコラたちがケンカして解散.そりゃそうだ.空き地があって,道具があって(足りないけど),子どもたちだけで家を一軒建てられるわけがない.でも,大切なのは,みんなで遊ぶこと,一緒に時間を過ごすことでしょう?本話にイラストは1枚だけです.
ドアノブを見せて,それが何だか説明しているリュフュス.シャベルで穴を掘っているのがニコラ,大きな板を抱えているのがジョフロワで,食べているのはもちろんアルセスト.その他その他・・・.私が子どもの頃にも,近くに,みんなで遊べる空き地がありました.こんなに広くはありませんでしたが.一応板で囲いがしてあって入れないようになっていますが,立ち入り禁止となるとますますそそられる.廃車があって,空き缶が転がり,ドラム缶が置いてある.遠くの団地と対照的に,広々としていて何もない.
ニコラが穴を掘り始めると,メクサンが別のところに家を建てるという.ニコラが拗ねる.それでケンカ.
「それじゃああっちに家を作れよ.僕はここに僕の家を作るんだ.」そう言って僕はまた穴を掘り始めた.
僕がそう言ったのが,メクサンには気に入らない.それで僕の方へ近寄ってきたので,怒鳴ってやった.
「僕の家から出て行けよ!お前は自分の家に行けばいいだろ.」
「お前の家,お前の家ってなあ,お前の家じゃないだろうが.俺たちの家だぞ.それに入りたくなったら俺は勝手に入るぜ.」メクサンが返してきた.
そう言ってメクサンはツカツカと入ってきて僕に一発お見舞いした.僕はやつの頭にシャベルで一発食らわせてやった.(p.50)
「僕の家」「お前の家」「僕らの家」と,作ってもいないお家で目まぐるしく所有者が変わります.それに何かというとケンカになるのが彼ららしい.でも彼らは至って本気です.この裏表なくいつでも本気なのがやっぱり彼ららしい.
ウードが「平屋にするか二階建てにするか」聞くと,クロテールが笑って,思わずバカにしてしまいます.「笑わせるぜ.二階建ての一軒家なら,階段はどうすんだ?」そうか,二階建てをバカにしたんじゃなくて,階段の心配をしたんですね.むしろ<建設的>な意見でした.ニコラも「クロテールの言ったことはもっともだ」と認めていますから.しかし,これがまずかった.何せ相手は友だちの鼻を殴るのが趣味のウード.「笑わせるぜなんて,ウードに言っちゃまずかった.」(id.)クロテールは相変わらずぶーたれてますが,鼻からは血が・・・.予想通りです.
次はジョアキムが二部屋構想を出します.アルセストがすかさず,「それと台所は?」もちろん,ケンカ.食べ終わってからでしょうが.
ケンカばかりで一向に進まず,業を煮やしたジョフロワが「取り掛かるのか,取り掛からないのか?」と一括すると,リュフュスがドアを取り付ける話をして,ジョフロワが即却下.壁から始めなきゃというと,ドアがなけりゃ入れないとリュフュスが口答え.もう,ね.進める気ないでしょう,彼らは.
ジョフロワが返した.「ドアを付けないとは言ってないだろ.このおバカさんが.家を建てるのに,ドアが最初ってことないだろと言ってるんだよ!」
「誰がおバカさんだって?」リュフュスがそう返すと,ジョフロワは平手打ちをした.(p.52)
みんなそれで,二人の喧嘩に夢中になります.二人は「実力伯仲」だそうです.でもしばらくして嫌気がさした二人は,それぞれ家に帰ってしまいます.「ドアノブ」と「板」を持って.元の,すでにできている家の方です,念のため.「二人とも怒ったまま,ちりぢりに帰ってしまった.」(id.)
こうなると闘鶏のように二人を見守っていたみんなも一気に冷めてしまいます.
それで僕らもね,お互い目と目を合わせ,僕らも帰ることにしたんだ.
だってさあ,道具がなくなっちゃったら,家を建てたくてもどうしようもないじゃない?(p.53)
ドアノブと板はそんなに大切だったのか?!そうか,ニコラが土台にする穴を掘り,ドアにつけるドアノブがあって,壁となる板が必要だから,その3つが揃わなきゃできないし,揃ったら,もしかしたら建ったかもしれないから,可能性すらなくなってしまったという論理かな?それなら,十分に理解できますし,論理的です.それに,誰か欠けたら「僕らの家」じゃなくなりますから.何よりも「僕ら」が揃わなきゃいけないんです.そんなに仲良すぎたら,将来,困らないかな?
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