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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』(168)

« Le Noël de Nicolas », HIPN., vol.2, pp.30-41.

「ニコラのノエル」.確かに一人一人のノエル(=クリスマス)があっていいもの.それに子どもの頃なら,サンタの正体を知っていても知らなくても,個々のプレゼントがもらえるから,一人一人,それぞれに特別な日ですから.

 初出時(雑誌掲載時)には季節に合わせてお話が作られていたのでしょうから,このお話はきっとノエルの時期に,いつもよりちょっと長く,それにいつもよりちょっとイラスト多めで掲載されたものでしょう.一つのお話でイラストが8枚ついているのは他に,2話連続で書かれたサッカーのお話(28)以外にはありません.

 お話はいたって簡単で,ニコラの家でお客さんを招待してノエルのパーティーを催すので,パパが準備に追われる.追われるというより,忙殺される.忙殺されるというより,失敗の連続で疲労困憊.可哀想なパパは疲れすぎて,一緒にノエルのお祝いができない,というかなしいお話です.それでもパパが救われるとすれば,そのキーワードはプレゼント,でしょうか.

 ノエルの前日,つまりクリスマス・イヴの日に,ニコラの家ではお隣のブレデュールさん夫妻,アルセストの両親,その他を招待してパーティーをすることになりました.「すっごいことになるぞ!」(ça va être terrible)と,ニコラもノリノリです.当日に準備を始めるパパ,もっと早く始めればよかったのにとママン.パパは「ノエルの木」(l'arbre de Noël),もといクリスマス・ツリーを買いに出かけます.よく「樅の木」(le sapin de Noël)というやつです.確かにそんな大事なものを当日に買いにゆくなんて・・・冒頭から何やら失敗の匂いがします.そんな大人のヘマはどこ吹く風.ニコラはプレゼント入手の算段に余念がありません.


ノエルの木には大人用のプレゼントを引っ掛けておくんだけど,僕のプレゼントはね,サンタさんが靴の中に置きにきてくれるんだ.靴は僕の部屋の暖房機の前に置いておく.だってうちには煙突がないからね.(p.30)



 サンタは煙突から入ってくるはずだけど,煙突がない.煙突は部屋を温める暖炉についているから,それなら暖炉と煙突の代わりをしている暖房機の前に靴を置いておこうというグーな発想です.それにしても靴下じゃないんですね.

 それになるほど,大人のプレゼント交換はそういうふうにするのですか.それじゃ,かなり大きな木でないとダメでしょう.それでパパが持って帰ってきた木は,イラストの2/8のようにかなり大きめです.




p.127「メメ」より.




この木が通常のクリスマス・ツリーより大きいのかどうか,普通は判断がつかないところですが,ママンの木を見上げている顔を見ればそうなんだろうなぁと予測ができます.玄関にもつかえていますし.それにしても,別のお話では玄関入ってすぐ右脇の部屋はパパが肘掛け椅子に座ってくつろぐ部屋,あるいは居間(か応接間)のはずなのですが(例えば同じ巻のp.127に掲載されている,メメの訪問のイラストを見れば一目瞭然です),このお話では台所です.鍋がひっくり返ってえらいことになっていますが,ようやくパパが帰ってきたので,ママンが急いで駆けつけたといった感じでしょうか.


僕らはパパの帰りをいまか今かと待っていたんだ.そうしたらやっとパパがドアを開けて入ってきた.パパは不満げな顔をしていた.パパの帽子は歪んでいて,肩には長い木屑のようなものとぐちゃぐちゃになった木の葉っぱがついていた.「これ,クリスマス・ツリーなの?」とママンが聞いた.(p.32)


 イラストでは見た目ツリーの形をしていますが,折れたり曲がったり,ところどころ葉っぱが落ちたり,それにパパの服にもついたりして,そうとう傷んでいたのでしょう.「これ,クリスマス・ツリーなの?」ママンにはツリーに見えなかったと,かなり残酷な一言です.パパによると,自動車がお店の前でエンコして,仕方なくバスに乗ったけど,バスには同じように木を持った人がたくさんいて,バスの補助係は怒っちゃうし,それでパパも怒って歩いて帰ることになって,途中で押されて「ちょっと壊れちゃった」けど,飾りつけでカバーできるぜ!,とのことです.

 木が到着したら,次は飾りつけ.飾りをしまってある屋根裏部屋(grenier)に取りに行き,「パパは食事の部屋に木を置いておいたから,ガラスの玉飾りをつけ始めたんだ.屋根裏部屋から降りてくるときに階段で飾りを入れた箱をおっことしちゃったから,割れなかった飾りだけだけどね.」(p.32)さすがニコラ!細かいところまで観察しています.

 玉飾りの後は,色とりどりのランプです.こちらは「電気の線がちょっと絡まっていた」から時間がかかったそうです.さすがニコラ!やっぱり細かい.パパは何やら,ニコラには聞こえないようにブツブツ呟きながら,線を直していたようです.ニコラには「汚い言葉」(gros mots)だとバレていましたが(gros motについては(165)を読んでみてください).

 これが電気の線,つまり電飾というところがミソで,次の展開は読めました.


パパがコンセントに繋ぐと,パチパチッ!すっごくキレイな火花が散ったよ.でもこれは絶対,パパはそうしたかったのと違う.だって,ランプがつかなかったし,指は火傷しちゃうし,汚い言葉を言ったからね.僕にはどんな言葉かわからなかったよ.(pp.32-33)


 文の切迫感に対して,イラスト3/8はむしろ,何が起こったかわからないで,二人とも呆然としている感じです.もともと,ほとんどのイラストには色がついておらず白黒なのですが,ここでは物体を黒塗りにしたために,ヒューズが飛んで停電した様子がよくわかります.暗闇で何も見えないはずなのですが.

 次の難関は丸テーブルを伸ばす作業です.来客用に机をびよ〜んと伸ばさなければなりません.ほら,イラスト4/8のように.



 とりあえず机を見てもらおうと思ったのですが,もうパパの次の失敗が明かされています.それに椅子に腰掛けて笑っている人が一人.パパはその人に抗議するかのように握り拳を振り上げています.体全体に電飾を巻き付けて.

 机を伸ばすには大人二人で両端から引っ張らなければなりません.ニコラじゃダメなんです.それでパパは「仕方ないな,あのブレデュールのやろうを呼びに行くか」(p.35)と言ってドアを開けたところに,以心伝心,ブレデュールさんがいました.「手伝いに来たんだよ.どうせあんた一人じゃどうにもできんだろうからな.」(id.)相変わらず,人をたきつけるのが上手なブレデュールさんです.「なんだと!あんたの助けなんているもんか.バカやろうが.お家に戻って晩まで巣篭もりしてろ!」(id.)今しがた,呼びに行こうとしていたはずなのに.パパもカッとするとダメなんです.そんな風に断った横で,ニコラが呼びに行こうとしていたじゃないかと,ニコラに正論をぶられて,パパ逆ギレ.ブレデュールさんは,それ見たことかと笑いが止まりません.おまけにママンまでが,台所から「あなた,ブレデュールさんを呼びに行ったの」とダメおしの一言.ブレデュールさん大笑いです.

 それはともかく,パパは折れて手伝ってもらうことに.ところがママンが「テーブルの足に油を塗って滑りやすくしてもらったから」と,注意しておくのを忘れたもので,↑のように,パパはツリーに突っ込んでしまったというわけです.ブレデュールさん,さらにさらに大笑い.「まるでバカでかいプレゼントのようだな.」(p.37)ブレデュールさん,うまいこと言います.ブレデュールさんは,もう,「むせて咳き込む」ほど笑い続けています.

 「ガラス玉はもうあんまり残っていなかった」けど,ようやくツリーが終わって,パパは「ランプをつけるために」,新しいヒューズをかいに行きました.もう災難続きです.

 ここでパパはブレデュールさんは「お前は要済み」と追い返そうとしますが,「でもブレデュールさんはとっても親切で,いてやるからと言い張ったんだ.」(id.)ニコラの目には「親切」に映っていますが,よほどパパの失敗を見たいのでしょう.

 次は「花飾りを吊るす」ために,「天井近くに短い釘を何本も打ち込もうと」,パパは脚立に乗って作業を始めました.もちろん,ヘマはお見通し.それも,ブレデュールさんは,「親切」にも,「気をつけろ!その仕切りはブラスター〔石膏〕だぞ.穴を開けちゃうぞ.」なんて注意してくれたのに,それも後の祭り.パパは「俺の家だ,俺がよく知っている.助言なんていらないんだよっ!」なんて聞く耳を持ちません.でも「パパは恐る恐る,注意深く最初の釘を打ちつけたんだ」そうです.やっぱり怖かったのね.でも「釘はすっごく上手く打てた」ので,パパは調子に乗って「金槌で大きくドンッ!」「壁にはおっきな穴が空いて,ブレデュールさんに粉がたくさんかかったんだ.」それでもブレデュールさん,怒るどころか,笑いが止まりません.「こんなに大笑いしているブレデュールさんを見たのは初めてだったよ.」ニコラ,観察が鋭い.

 怒ったパパは思わず,「エライことした!」と叫んだので,ママンが駆けつけてきますが,パパは失敗を隠して素知らぬふり.

 それでイラスト5/8なんですが,どう思います?


 どうも脚立に乗って,ブレデュールさんにしたから支えてもらって,「天井近く」に穴を開けたようには見えません.イラストの高さなら,脚立に乗る必要ないし.壁の向こう側に石膏が散らばっていて,ニコラが笑いを堪えていますが,これって,ブレデュールさんの頭に降ってきた破片でしょう?でも,ママンは気づいていました.


「わかったわ.それじゃあ私は料理に戻るわね.手をどかしてもいいわよ.石膏は壁の向こう側にも落ちているのが見えますからね.」(p.39)


 バレてます.それもこの文の説明はイラストの通りです.あれっ?それではさっきのブレデュールさんとの作業は???なんですが.

 ママンが出てゆくと,パパは今度こそはとブレデュールさんを追い出します.イラスト6/8です.


 外に出ても笑いが止まらないブレデュールさん.窓からは天井の飾りと格闘するパパの姿と,何やら怒鳴るママンの姿が.この辺の会話は文には出てきませんが,緊迫感は伝わってきます.

 もう何をやっても失敗するのですから,いい加減やめればと思うのは私だけで,パパはもう必死で準備を続けます.次は花飾りをつけるので,ノリのついた紙を貼ろうと,これはニコラからの提案で,パパも大賛成.「とてもいいアイデアだ!さすが俺の息子だな」と褒めたのも束の間,飾りがうまくくっつかなくて,「全部ダメになっちゃった」(p.39).イラスト7/8です.


パパは脚立から降り座り込み,頭を抱え込んで何も言わなくなっちゃった.(p.40)


 「全部」ダメではなさそうですが,ともかくも,いつものパパの快楽の象徴である肘掛け椅子に座り込んで,悩んでいる姿は憐れみを催します.ツリーもへなちょこだし.ま,ニコラに言わせれば,「パパが休んでいたから,ちょうどいいと思って,今晩,イブの間中,お客さん達とずっといてもいい?ってパパに聞いたんだ.」(p.40)

 さすがに,KYニコラです.「休んでいたから」というのは,勝手な解釈,あるいは希望的観測です.休んでいないし.落ち込んでいるし.お願い事には,最悪のタイミングだったでしょうね.パパの答えはもちろん一言,「ダメだ.」と,tout court(「単に一言」という意味です).それでニコラが騒ぎ出し,騒ぎを聞きつけ,ママンも駆けつけてきて,「まだ花飾りも終わらないの?」とダメおしの一言.パパは「気の狂った」ように叫び出します.横では,まだニコラが主張を続けていますから,もう家の中はさぞかしカオスだったでしょう.

 そんなニコラにママンは優しく諭します.


ママンは僕を抱えてくれて,僕がみんなと一緒にいて寝なかったら,サンタさんは靴の中にプレゼントを置きに来れないでしょうと,僕に言ったんだ.(p.41)


 「〔腕に〕抱き抱えて」言い聞かせているので,優しく説明しているなぁと思って文を読んでいたのですが,イラストの方は,どうもだいぶ違う印象を与えます.8/8です.


 ママンはニコラを抱えていないし,指を立ててお説教しているようだし,目はつり上がっているし,ゴルフ道具のような荷物を抱えたサンタさんはなんだかわからないけど,あまり嬉しそうなものでないプレゼントを靴の中に突っ込んでいるし.ニコラはといえば,ママンを見上げて,ちょっと不満そうな顔をして,心の中(=吹き出し)では,反抗的に舌を出しているし.どうも,この辺,文とイラストがしっくりきません.

 その後も,パパは大忙し.飾りを貼り直し,ママンが台所から覗いたせいで,またもや飾りが落ちちゃったけど,今度は画鋲で貼り付けたし,ワインを取りに地下へ行ったり,パパがツリーにプレゼントを引っ掛けようとして倒しちゃったから,ヒューズが飛んで,やっぱり地下に交換に降りたり,箒で掃除したり.もう,1年分くらいの仕事をしています.1年したらまた来年のノエルでしょうが.

 それでパパはヘトヘト,お客さんが来る前に寝込んでしまいました.せっかく努力したのに.


でもね,結局,パパは損しないんだ.だって,僕がね,パパの部屋の暖房機の前に靴を置いておいてあげたからね.これなら,パパもプレゼントをもらえるよ.僕みたいに.これを読んでいるみんなみたいに.そうお願いしているよ.メリー・クリスマス!(p.41)


 終わりよければ全てよし.パパを想う子どもがいれば,苦労も報われるというものです.それに,きっと起きればサンタさんが,自分へのプレゼントを置いてくれているでしょうし.

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