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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』(167)

« Cher Père Noël » in Goscinny & Sempé, Histoires inédites du Petit Nicolas(HIPN.), volume 2, IMAV éditions-Aubin Imprimeur, 2006, pp.21-29.

 本話から,『プチ・ニコラ未刊行集 第2巻』に突入します.このお話からは今のところ,日本語訳が出版されていません.第1巻が白い表紙だったのに対して(2004年刊行),第2巻は赤い表紙で376ページ.




「赤ニコラ」(第2巻)では各章に9話ずつ配置され,全5章で45話が収録されています.相変わらず,初出(雑誌掲載時)の年代や各話の順序は分かりません.編集者であるアンヌ・ゴシニ(作者ルネ・ゴシニの娘)が章に分け配置を決めたようですが,それについても説明がありません.これは残念.アンヌによる巻頭の「編集ノート」には,簡単な出版経緯が書かれています.それによると,本巻に収録されたのは,今までと同じで,1959年から1965年の間に『シュド・ウェスト・ディマンシュ』(Sud-Ouest Dimanche)と『ピロット』(Pilote)に発表されたものだそうです.でも,どうやら雑誌からイラストと文章を取ってきたというより,「私の父の残した文書」を参照したようです.それゆえでしょうか,同じ説明の後半で,「ジャン-ジャック・サンペはこの度筆をとり,父の書いた10ほどの文章に,新たにイラストをつけてくれた.その文章についていたデッサンは,もはや入手できなくなっていたからです.」(p.10)と書いています.ということは,それら「10ほどの文章」の掲載された雑誌のオリジナルはもうどこの図書館にも存在していないのでしょうか.この辺,いつか調査できるといいなぁと夢想しています.

 本巻にはさらに,2ページにわたって登場人物の紹介がなされています.人物のイラストと,その下には本文からの抜粋が置かれています.これは便利です.『プチ・ニ』は全てニコラの語りで構成されていますから,当たり前といえば当たり前なのですが,それぞれの人物はニコラの目を通した,ニコラによる紹介となっています.ですから,ニコラ本人については,口癖である「スッゲー」(« C'est chouette ! »)とあるだけとなります.その他例えばアルセストは,「僕の一番の親友.デブで,いつでも何か口にしている」.ジョフロワには「すっごくお金持ちのパパがいて,ジョフロワが欲しいものは何でも買ってくれる」などなど.



 パパ,ママン,メメ,ブレデュールさん,担任の先生にブイヨンさんの紹介もありますが,ここでは省略.最新の世界文化社版『プチ・ニコラ』で訳出されていますので,参照してください.但し,半分以上の登場人物(ジョフロワ,アニャン,リュフュス,マリ−エドヴィージュ(訳では「マリ・エドウイッジ」),ブレデュールさん,ブイヨン,パパ,ママン,クロテール)のイラストは,この第2巻の紹介とは別のイラストが採用されています.100%個人的な好みで言うと,私は日本版より上の第2巻に収録された方のイラストの方が好きです.それぞれの個性が表れているように思うからです.ジョフロワはお金持ちの坊ちゃんのスカした感じが出ていますし,クロテールは自転車オタクだし,アニャンは学校で優等生で先生のお気に入りだし.

 さて,第2巻の紹介は以上で,本題に入りましょう.「親愛なるサンタさん」という題名の横にニコラが手紙を書くイラストの抜粋が置かれています.この抜粋は本話に収録された7枚のイラストのうち6枚目(6/7)からのものですが,どこかで見たことがある.と思って探してみたら,(70)の手紙で使われたものと同じイラストでした.(70)はズバリ「手紙」という題名のお話だったので,違和感も感じなかったのですが,そうですか,ここからの抜粋でしたか.では(70)はイラストは計3枚ですね.修正せねば.

 題名が「親愛なるサンタさん」で,手紙を書く姿が目に入るのですから,このお話が全体として,ニコラの書いた手紙で,「あなた」(vous)はサンタさんを指すことは想像できたはずなのですが,最初冒頭を読んで戸惑ってしまいました.以下では,「あなた」と書いているところを「おじさん!」という呼びかけで訳してみました.子どもが「あなた」はないですよね?


僕が字を書けるようになってから毎年,すっごく何年も前からだけどね,僕はパパとママンに言うんだ.おじさんにノエルのプレゼントをちょうだいって手紙を書くんだってね.

 そしたら困ったことになった.パパが僕を膝にのせて言うんだ.おじさんは今年はあんまりお金がないんだ.特にね,思いもしなかったことがおきちゃったからだって.どっかのおバカさんがソリに乗っていて,おじさんのソリに右から突っ込んできたんで,ソリの修理費にお金がかかるというんだ.それも,見物人はたくさんいたのに,保険屋さんは嘘を並べ立てて,おじさんの責任になっちゃったって.先週,パパも車に乗っていて,同じ目にあったんだ.パパはまったくもって不愉快だって.(p.21)


 パパが言うには,サンタさんは交通事故にあった.それも前の週にパパにおこったのと同じ事故のようです.車がソリに代わっただけ.パパは事情通です.それで,パパはサンタさんに忖度して,思いやりの心から,ニコラに自分の分ではなく,「僕の好きな人たち,僕の友だち」にプレゼントを配ってくださいとお願いするよう勧めます.だって,「僕は気前が良くていい子」だから.そう言われちゃ男がすたるというわけで,ニコラはまんまとのせられ,自分のプレゼントは諦めて,他の人のためにお願いをしてあげるというお話です.


それだから,僕にはね,おじさん,僕は何もお願いしないよ.(id.)


 泣かせるじゃありませんか!ニコラの健気さに?いえ,パパとママンの言い訳と戦略にです.

 「僕の好きな人たち,僕の友だち」で最初に名が上がったのがパパとママン.これも泣かせます.ニコラはパパとママンには「小さな自動車」をお願いします.でも,「ペダルを踏まなくても自動で走り,ヘッドライトが光る」,それも「僕が」乗れるやつだそうです.誰のためだ?!ちなみに「ヘッドライトが光る」には「パパの車のヘッドライトのように」と説明がついていたので,それでもやはり親思い!と思いきや,「事故をおこす前の」だそうです.観察がしっかりしています.そして一言多い.



 妄想の中では確かにニコラは「小さい自動車」に乗っています.でも,パパとママンへのプレゼントじゃなかったのかしらん.それになぜにアルセストが横にいるのでしょうか.「小さい車」をお願いするのは,自分が家中走り回っているとママンがうるさがるし,パパも静かに新聞を読めるからというもの.やっぱり自分のためか.

 イラストの2/6はそんな妄想をする前の「何もお願いしないよ」の場面と考えられそうです.


 でも,吹き出しの中は「僕は本当に,たいしたものはいらないんだけど」(p.23)となっています.あれっ?先程は「何もお願いしないよ」と書かれていたのと少し違うような.でも「小さい車」の部分を読んだ後では,お願いしないような素振りで,やっぱりお願いしているので,「たいしたものは・・・」と少し譲歩したイラストはその間の事情をうまく表現していると言えるでしょう.

 次は担任の先生へのプレゼントです.「先生が僕にたっぷり良い成績をつけられるように」なると先生は喜ぶからというので,僕が算数の問題に全部答えられるようにして欲しいというお願い.他力本願なニコラです.自分で努力しろ.

 次はジョフロワ.ジョフロワのパパはお金持ちで何でも買ってくれる.それでこの間も「三銃士」の衣装を買ってもらったばかり.でも一人で剣をかちゃかちゃやっても面白くないから,「僕も三銃士の衣装を着たら,ジョフロワは僕とかちゃかちゃマジで遊べて喜んじゃう.」(p.25).今度はジョフロワをダシに,やっぱり自分へのプレゼントのお願いか.

 次はアルセスト.「アルセストは食べるのが大好きだ.それで僕がたくさんお小遣いを持っていたら,毎日学校を出たところにあるお菓子屋さんに,チョコレートの入ったプチ・パンを食べに連れて行ってあげられる.僕ら,すっごく好きなんだ.」(p.25)ん?「僕ら」?「アルセストはハムやソーセージが大好きだけど,あげるのはチョコレートのプチ・パンだよ.だって,結局のところ,お金を払うのは僕だからね.」(id.)なんだ,アルセストをダシにして,やっぱり僕にお金をくださいって話ですか.イラスト3/6は部屋で一人,みんなのことを想いながら,プレゼントをお願いしているニコラの図です.友だちを想い浮かべているせいか,壁には「リュフュス」や「アルセスト」の絵があります.日常的に貼っていたら,不自然でしょうが.



  実は今回,文章ではプレゼントをお願いする相手として,リュフュスは登場しないのですが,だからこそ,イラストには名前が入っているのかもしれません.

 次はジョアキム.ジョアキムはビー玉遊びがうまく,みんなからビー玉を巻き上げてしまうので,一緒に遊ぶためには,「僕」にビー玉が必要.それでサンタさん,僕にビー玉をください,ジョアキムのために,だそうです.

 ウードはサンタさんにボクシングのグラブをお願いするらしい.その情報を仕入れたニコラは,ウードは仲間の鼻を殴るのが趣味だから,サンタさん,グラブをあげないで欲しいというお願い.むしろ「僕らにください.そうしたら,ウードには殴る相手がいなくなるから.」(p.26)

 イラスト4/6では「僕はみんなを幸せにしたんだ.」とすでに過去形.手紙を書き終えてスッキリした顔をして机を離れていますので,実はこれが6/6となるはずです.上の3/6と見比べると,壁の絵と棚の位置が逆転しています.キリンの人形の横にあったランプも無くなっているし.どうも整合性がとれなさそうですが,それでもサンタさんに書き終えた手紙が封をして机に置いてあるので,大事なのはそこでしょう.

 クロテールはクラスでビリ.それでいつも罰として映画に連れて行ってもらえなかったり,デザートなしだったり,テレビを見せてもらえなかったり.でも,クロテールが授業中寝ているのは,ツール・ド・フランスの選手を夢見て,「かっちょいー黄色の自転車」で訓練していて疲れているからだそうです.それでニコラとしては,クロテールがそんななんやかんやを取り上げられないためには,その原因である自転車を取り上げてしまえばいいと考え,それをサンタさんにお願いします.論理としては正しいようですが,そりゃちょっと意地悪では.でも悪意はない.


「一番いいのは,クロテールから自転車を取り上げてしまうことだね.」そう書くニコラの顔がいつになく邪悪に見えます.

 次は何と,ブイヨンさんへのプレゼント.何かと思ってドキドキしながら読みました.そうしたら・・・


「サンタさん,いますぐにブイヨンさんにおやすみをあげてくれないかなあ.そうしたらブイヨンさんは実家のコレーズに行けるし,そこにすっごく長い間いていいんだから.ついでに,エコ贔屓にならないように,ブイヨンさんがいない時には代わりを務めるムシャビエールさんにもおやすみをあげてください.」(p.29)


 ニコラは思いやりがあるのか,邪悪なのか.イラストでは伸び伸びとヴァカンス(休暇)を過ごすブイヨンさんと,ブイヨンさんがいなくてはしゃぎまくる学校のニコラたちが描かれています.


 そんな妄想を抱くニコラの顔が,やや意地悪に見えてきました.ブイヨンさんがいなくて(?)喜んでいるみたいだし.

 最後はマリ−エドヴィージュへのお願い.マリ−エドヴィージュはニコラのとんぼ返りを喜ぶから,「他の誰よりもうまくとんぼ返りができるようにしてください」(p.29)・・・.

 う〜ん・・・ニコラは「僕の好きな人みんなのために,サンタのおじさん,あなたに願い事をしたんだ」(p.29)といっているし,「僕にはね,もう言ったけどさ,僕は何もいらないから.」っていうのですが,お願い事を読んでいると,う〜ん,そうなのかなぁ.何だか全部,自分へのプレゼントのような.ついでに,「パパとママンへの自動車が置いてある同じお店のショーウィンドーに飛行機があるので僕に内緒で持ってきてくれたら」だそうです.


でも,えんとつを通る時には注意してください.自動車と同じで飛行機は赤いから,通る時に汚れてしまうから.」(id.)


 細かい・・・.具体的と言うべきでしょうか.でも,年に一度のお願い事だし,ちょっと邪悪なのも許されるかも.


とにかく僕約束するよ,サンタさん,僕はできるだけいい子にしているからさ.ジョワイユー・ノエル!(=メリークリスマス!!!)(id.)


 みんなのためにたくさんお願い事をしてあげたから,飛行機くらいは来るのでは.手紙に書いておいたし. 

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