« Tout ça, c'est des blagues ! », HIPN., vol.1, pp.590-597.
今回のイラストには頭を捻りました.題字の横に置かれた踊っているマリ–エドヴィージュの姿はp.591にあるニコラとのツーショットからの抜粋であるとして,p.594のニコラのクラスメートが集まって,画面左を指さしてはしゃいでいる場面は,果たしてpp.592-593の二ページにまたがる大判からの抜粋なのでしょうか.もしこの大判1枚だけが本話に挿入されたイラストだとすると,p.591もp.594もここからの抜粋となります.絵だけ見ると,左側にニコラとマリ–エドヴィージュ,右側に二人を指さして冷やかしているクラスメートとなり,それでも構わないようなのですが,お話=文の理解としてはそうはいきません.展開が読めなくなってしまうのです.でも大判を見る限りでは,確かに全体がしっくりくるようですし,そうすると,いつもサンペがするように,いくつかの文章の場面を1つの画面に押し込んで共存させてしまう手法なのでしょうか.とは言え,クラスメートたちからからかわれているニコラが,そのわりに平然とした顔をしていますし,そうすると,文の最後にからかわれたニコラが怒りまくるのと,どうも整合性が保てないような.う〜ん・・・
p.591のイラスト.たぶんpp.592-593からの抜粋?
p.594のイラスト.たぶんpp.592-593からの抜粋?
たぶん他の2枚はこの大判の一部分?
「そんなのなにもかも,でっち上げだ!」.blagueは「冗談,シャレ,笑い話,いたずら」(141)などと訳せる語ですが,ここでは「悪い冗談」,「作り話,作りごと」くらいでしょうか.例えば人からからかわれた時に,「そんなことすべて」(tout ça),「悪い冗談」だぜ!!!と怒るような場面で使われる表現です.日本語なら「嘘八百並べやがって!」とかでも良さそうです.
お話はいたって簡単.ニコラはお隣のクルトプラック家の一人娘であるマリ–エドヴィージュを随分と気に入っています.好きかどうかは,ニコラ自身意識していませんし,そもそも好きという感情と単語をニコラは表現として持っていないのかも知れません.ですから,読者なら明らかに恋してると思えるような描写と場面でも,ニコラは将来「結婚する」とは書いても,「好き」とは言っていません.愛だの恋だのという概念が認識にないのですね.
女の子といったって,マリ–エドヴィージュはとってもイカしてるんだ.顔はピンク色で,髪は金色でピカピカだし,青い目をしててさ,青のチェックの入った服を着ているんだ.この服が目とぴったり合うんだな.あ,チェック柄がじゃなくて,青い色がね.(p.590)
「青いチェックの入った服」はun tablier à carreaux bleusで,「青いチェックの入った」は良いのですが,tablierはどんなものかというと,通常は「エプロン,前掛け」と訳します.でも,いつもエプロンをつけてるなんて何か変だし,↑のイラストでもチェック柄は確認できますが,エプロンをつけているようにも見えません.それではいわゆる「スモック」というやつで,服の上から着る,少しダブダブの服かなとも思うのですが,それでもイラストを見て,百歩譲ってそんな少し緩やかな服であるとしても,服の上から羽織る割烹着のようなものを想像したのでやはりちょっと違和感が残ります.きっと少し余裕のある子供服くらいを指す語なのでしょうか.
服はともかくお話に戻ると,お気に入りのマリ–エドヴィージュに遊ぼうと誘われて断るはずもありません.しかしせっかく一緒にいるところに,いつもの仲間達がサッカーをしようと誘いにきます.クラスメートたち,いつもの空き地,サッカーと,ニコラの大好きなものを合わせても,マリ–エドヴィージュには敵わなかったというわけで,ニコラは誘いには乗りませんでした.それで次の日に,みんなにからかわれている怒る,「そんなのぜんぶ,でっち上げだ!」と顔を赤らめながら.なぜそんなに顔が赤いのでしょうかね?
ニコラの前でマリ–エドヴィージュは最近先生に褒められたばかりのダンスをして見せます.「クロテールの家のテレビでだって,こんなイカしたものは見たことがなかったよ」(p.591)というくらい,ニコラ惚れ惚れの様子です.
そこへウードが声をかけてきます.「いつもなら,サッカーはママンとパパの次に一番好き」なはずなのに,「何だか分からないけど,仲間達とはあんまり遊ぶ気がしなかったんだよ」(p.595).なぜなんでしょうね.しつこい誘いに,ニコラはついにキレます.
結局さ,サッカーをしなくないって言っているんだから,何であいつら,僕にうるさくするんだよ.したくないんだからしたくないんだ.それだけのことだ.全く,何だってんだ,もうっ,冗談じゃないぜ!(p.595)
最後の「それだけのことだ.全く,何だってんだ,もうっ,冗談じゃないぜ!」(voilà tout, c'est vrai, quoi, à la fin, sans blague !)からは,随分とこだわっている様子が伺えます.何せおんなじような表現を5つも並べているんですから.
それでもこれは内心の声で,ニコラはみんなをすごい目をして睨んでいただけのようです.ジョアキムの発言から,ニコラの凄い形相が伺えます.「こんなふうに俺たちを睨むなんて,いったいどうしたってんだ,ニコラのやつ?」(id.)
それでみんなすんなり引き下がります.つまり,「みんな」がマリ–エドヴィージュを見たかどうか分かりませんし,見ていたとしても,まぁニコラの様子に驚いたか,気を利かせたようにも取れます.真相は如何に?
マリ–エドヴィージュと別れ,夕食をする時にも,ニコラには食欲がなくて,付け合わせのピュレをいじって物言わぬ顔をしています.ママンも額に手を当て,病気じゃないかと心配しますが,パパはちゃんと見抜いていてポツリ,「春だな」.その晩ニコラはマリ–エドヴィージュがダンスをする夢を見ます.春だな.
翌日,教室ではクラスのみんんが,昨日のシーンを再現したり捏造したりして,ニコラを冷やかします.「僕は君のことが好きだ.おやおや,僕は恋しているよ.」(ウード),「私もよ.私もあなたのことすっごく好きなの,ニコラ」(アルセスト),「見て,私踊るわ.サッカーなんかより良くない?見ろ!俺,ニコラの婚約者のように踊っちゃうぜ.お〜い,みんな.見てろよ,『私,イカしてございませんこと?』」(ジョフロワ).みんなキッツイですねぇ.最後はニコラの周りで大合唱.「ニコラはスッキ,ニコラはスッキ,ニコラはスッキ!」(p.596)
こうまでされたら,そりゃニコラは怒りますよ.図星だったとしても.
恋してるだって?この僕が?あいつら,笑わせるぜ.まるで女の子にだって好きになれるみたいじゃないか.いくらマリ-エドヴィージュにだって.そんなのなにもかも,でっち上げだ.作り話じゃないってのは,みんなすっごいバカばっかだってことだな,奴らみんな.(p.597)
そう言いながらも,ニコラは内心の独白を続けます.
それで僕が大きくなったら,劇場のドア係の人に行って,あんな奴ら入れてやらないんだ.まったく,何だってんだ,もうっ!」(id.)
全否定じゃないのね・・・.ここはニコラの照れ隠しを読み取るところでしょう.ニコラよ,それを恋というのです.パパとママンとサッカーが好きでも,それ以上に好きということ,つまり初恋というものです.
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