« Papa s'empâte drôlement », HIPN., vol.1, pp.550-555.
動詞empâterにはpâte, n.f.「〔小麦粉を練った〕生地,種」が入っています.小麦粉の生地が元の意味で,複数形ではその生地を使った,例えば麺類やパスタなどの食材や料理を表します.そのように名詞にem-,en-をつけて動詞化するのはよくあるので,empâterは「練り粉状のものを詰める,ペースト状のものを塗る」となります.ここではs'(se)をつけて,代名動詞の用法で「ねばつく,こってり太る」という意味です.pâte繋がりで想像できそうですよね.自分自身に小麦粉状のものを貼り付けると太りますから.実際は脂肪なんですが.
というわけで,「パパはすっごく太った」が原題です.
パパはクリームののったデザートを二皿平げた後で,ナプキンをリングに戻して言った.「ともかくね.もう決めた.明日こそ間違いなく,ダイエットするぞ.」(p.550)
「クリームののったデザートを二皿」(sa deuxième assiette de crème)では,クリームを使ったどんなお菓子なのかわかりません.邦訳では「クレーム・シャンティイ」(crème Chantilly)(泡立てたクリーム,ホイップクリームですかね)とされています.クリームだけだと,そんなものだけ食べるの?!と想像がつきにくい.それにクレーム・シャンティイなら,純粋に盛り盛りのクリームを平らげたイメージが湧くかもしれません.いずれにせよ,ここでは甘いもの,視覚的に(つまり見た目から)いかにも太るだろうというものが想像できれば良いのでしょう.私も甘いものは大好物ですが,それにしても,盛り盛りのクリームばかり二杯も食べたら,胸がむかつきそうです.
食べ物で,デブ・ネタ(もとい,ダイエットのお話)ですから,すぐに想いつくのはニコラの親友アルセスト.もちろん,すぐに登場します.
パパは太ったからダイエットしようというのですが,ニコラはパパが太ったとは思っていません.
僕はね,パパがそんなに太っているとは思わないんだけどね.ただ,ベルトを締める時だけは別なんだけど.(p.550)
太ってないけど,ベルトを締めるときは何だっていうんでしょうか.やっぱり上にボヨっと出ちゃうのか.それにしても,ニコラ,観察してます.それに一言多い.
翌日は日曜日で,いつもの習慣なのか,かなり豪勢でかなり重そうな朝食が出ます.パパは砂糖もミルクも入っていないコーヒーを一杯飲んだだけ.幸先良い始まりです.<今度こそ>成功できるでしょうか.
食後パパとニコラは散歩に出かけますが,お菓子屋さんの前で立ち止まろうとするニコラをせきたて,市場も素通り.「パパは,苛立っているようだったよ.」(p.551)
お昼にはママンが「レストランで食べるような前菜」を作っていました(p.551)「マヨネーズとか色々なものを巻いたハム」です.「すっごくおいしかったよ.」とは,ニコラの感想.主菜は「鶏の丸焼き,ジャガイモとグリンピース添え」.「僕はお代わりまでしたよ」はニコラの感想.それから「サラダに,カマンベールチーズに,ケーキ」まで出てきます.見事なフルコースです.「お昼ご飯が本当にすごかったものだから,食べ終わったら,僕はちょっと食べ過ぎだなんて思ったよ.」(je me sentais un peu malade.)がニコラの感想.ママン,わざとやってるんですかね?「パパも具合が悪そうだったよ.」ではニコラの「ちょっと食べ過ぎ」の部分と同じ単語(se sentir)が使われていますから,ニコラはパパが自分と同じように食べ過ぎで気分悪いと書いているようですが,もちろんダイエット中のパパが「具合が悪そう」だったら,それはムカついているんですね.だってパパは「ラスクとほうれん草と鶏の白身をほんのちょっと」しか食べなかったんですから.イラスト1/3はこの食卓の図です.
大きな鶏の丸焼きが中央を占めています.御馳走はぜんぶ,ニコラとママンの方に寄せられ,パパの前には何も置かれていません.ラスクだけ口に入れています.パパもよく我慢しています.しかしそんな落ち着いたふりしたパパは「具合が悪そう」だったんですから,腹の中は煮えくりかえっているのでしょう.そんなパパを嘲るかの如く,壁の絵まで美味しそうなフルーツ盛りとワインです.
食後,パパとニコラが庭で休んでいると,アルセストが遊びに来ました.着いてそうそう,アルセストは「ポケットからチョコレート・ケーキのおっきな塊を取り出して」,これ見よがしに食べ始めます.パパもアルセストをじろっと見て,「舌なめずり」しますが,そこは大人.我慢して,話をはぐらかします.
「おい,アルセスト,お前家じゃ食べさせてもらえないのか?」
「そんなことないよ.ちゃんと食べさせてくれるって.お昼には牛肉の蒸し煮まで食べたんだぜ.すっごく美味しいソースをつけてね.ソースは残ったらパンで拭って食べるんだ.家のママンはすっごくソースがうまいんだ.ママンはシュークルートも料理がうまくてね.例えば,昨日の夜なんか・・・」
「そこまでだ,もういいっ!」(pp.552-553)
これがイラスト2/3です.
アルセストが何か頬張っているのはいつものこと.それを見るパパの顔の険しいこと!眉間に皺が寄ってます.このやり取りの直後に,ニコラとアルセストはボール遊びを始めるのですが,ニコラは一人でミニカーで遊んでいます.それにしても,アルセストよ,そんなに両手にお菓子を抱えて,ボール遊びができるのか?
次はお隣のブレデュールさん登場.パパと毎度のケンカを始めますが,ママンの「おやつができたわよ〜」の一言でニコラとアルセストは家に入り,経過を見なくて済みました.「パン・デピス」(蜂蜜やスパイスの入ったパンケーキ)があって,おいしかったよーと,アルセストはパパにわざわざ報告します.
パパはアルセストをじっと見て,「食べ物のことについて何か聞きたいことができたら,真っ先にお前に聞くからな〔だから今は黙ってろよ!〕」と,アルセストに言ったんだ.そしたらアルセストは「オッケー」と返した.すっごくいい考えだと思ったよ.だって食べ物については,アルセストはびっくりするほどよくわかっているからね.(pp.554-555)
違うって,ニコラ.パパの言葉は嫌味なんだって.それにパパはイライラしてるの!わかってあげようよ.さすがKYです.
雨が降ってきたので,みんな家に入り,パパは「ズタズタになった新聞」を読み,ニコラとアルセストはミニカーで遊び,ママンは編み物をしながらラジオを聴いていました.新聞が「ズタズタに」なっているのは,先ほどのブレデュールさんとのケンカのせいでしょう.芸が細かい.すると,ラジオから「ウサギの赤ワイン煮込み」のレシピが聞こえてきました.イラストの3/3です.
ラジオからは「それでは次に,ウサギの赤ワイン煮込みです.美味しいウサギの赤ワイン煮込みを作るには,まず・・・」と,たった一つの吹き出しに2度も「ウサギの赤ワイン煮込み」が繰り返されています.パパの顔は険しくなるばかり.追い討ちをかけるように,アルセストは「この番組,俺の気に入りなんだ.」と言い,ニコラは「すっごくいい番組だよね〜」と相槌を打っています.実は文章の方では,ニコラは「ラジオは,あんまり面白くなかったよ.おばさんが出てきて,ウサギの赤ワイン煮込みの説明をしていたんだ.」と真逆の反応だったのですが,絵も文章もパパの苛立ちを描くには成功しています.
パパは我慢できなくなり,「ラジオを消せ!」と怒鳴って部屋に引きこもってしまいます.パパを再び呼び出したのは,「晩御飯の支度ができたわよ!」という,ママンの一声.ニコラが手を洗って食堂に入ると,パパは「とっても悲しそうな顔をして」もう席についていました.何がそんなに悲しいのでしょうか.またもやラスクだけの貧しい食事だからでしょうか.ところがどっこい.
食堂で僕はびっくりしちゃったよ.だってママンは普段はすっごく記憶力がいいのに,パパが太ったって言ってたのを完全に忘れちゃっていたんだ.ママンはパパにどうぞお食べなさいってたっくさんの食べ物を差し出したんだ.カスレ(白インゲンの煮込み料理だが,中に地方によって様々な肉が入る)まであったんだよ.パパはでも,全然驚いた風でもなく,食べるのに夢中って感じだった.(p.555)
やっぱりママンは記憶力がいいのです.つまり,ダイエットするぞ,するぞって大体1日しか(いや,1日も)もたないってわかっていたのです.別に,始終食べ物の話をしてパパを苛立たせていたアルセストのせいじゃない.
パパはクリームののったデザートを二皿平げた後で,ナプキンをリングに戻して言った.「ともかくね.もう決めた.明日こそ間違いなく,ダイエットするぞ.」(p.555)
あれっ?どこかで聞いたようなセリフですが.何か?
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