« Iso », HIPN., vol.1, pp.534-541.
Isoなんて単語は知らないなぁと思いつつ,辞書は引かずに読みはじめて正解.今回ニコラ一家が夕食にお呼ばれしているビニョさんの家の一人娘であるイザベル-ソフィちゃん(Isabelle-Sophie)の頭文字を取ってISOだったんです.
お話はいたって簡単.題名通りイザベル-ソフィちゃんのわがまま放題,あるいはビニョ家の教育方針についてです.
ビニョさん夫妻はパパの知り合いなのですが,どういう知り合いか書いてませんし,ニコラも知らない人だったようです.それでもどんな人たちかというと,ここがゴシニの上手いところだと思うのですが,直接こうこうこういう人たちなんだってとは書かずに,ニコラの観察から察することができるように書いてあるのです.例えば,お宅訪問に際して,「ママンは灰色のワンピースを着て,僕は青の正装をした.これを着ていると,なんかおかしな人形みたいなんだよね.それでパパは縞の入ったスーツを着ていた.」(p.534)とありますから,みんなきちんと正装しているようです.つまり,夕食へのお呼ばれだし,普段着で気軽に行けるようなお家じゃなさそうです.
さらに到着して大人は食前酒(アペリチフ)を飲む段階で,ビニョさんの奥さんはニコラには「大人と一緒に乾杯しましょう」と,「グレナディン(ざくろのシロップ)」を勧めます.付け加えて,「毎日がお祭りとはいきませんからね.」(p.536)ということは,ちょっと特別なことがある日に飲む,ちょっとお上品な飲み物ということでしょうか.
ビニョさんの家がハイソであるのを伺わせる記述はまだまだあります.
わー,すっごい食卓だよ.テーブルクロスは真っ白でピシッとしてるし,たっくさんのグラスが並べてあったんだ.(p.539)
つまり,お客様用のシミ一つない,新品のテーブルクロスが貼ってあって,さらに正式な食事をするためのグラス(赤ワイン用,白ワイン用,水用,もしかしたら食後酒(ディジェスチフ)用)がズラーっと並べてあったのです.
さらにさらに出てきた料理は,「レストランで出てくるような,たくさんのハムとマヨネーズがのった,すっごい前菜」,メインは「でっかくて超すごい羊の脛肉」が出てくるのです.もちろん最後はチーズです.「レストランで出てくるような」と,ニコラが驚くくらいですから,よほど豪勢で見栄えの良い前菜だったのでしょう.それに羊だって,ホスト役であるビニョさんが「立って切った」くらいですから,よほど大きな塊だったのでしょう.もうこれは,ハイソを通り越して,どことなく嫌味なような.以前に田舎暮らしを自慢していたパパの同僚もいましたが(54),なんとなく人を招待してハイソなところをわざわざ見せつけているような,そんな気もしてきます.
そんなハイソっぽい一家ですから,いかにも子どもに甘い.どの場面でも,ビニョさん夫妻はイソちゃんのわがままし放題に怒るでもなく,いいんだよいいんだよとニコニコ笑顔をたやしません.まずはイラスト1/4です.
ニコラはだんまり決め込んで,パパとママンは頬に手を当てて,何やら困っている様子ですが,ビニョ夫妻は二人とも,ニコニコして目に入れても痛くないといったところ.
ニコラたちが到着すると,「髪が真っ黒のイザベル−ソフィは,唇をキュッと噛み締め」,挨拶を拒否します.ニコラに対しては,「バカっぽい」から挨拶しないだそうです.ニコラは「平手打ちを喰らわしてやりたかった」けど,我慢しました.これがイラスト2/4でしょうか.
「んべっ!」そんな場面,文章にはありませんが,それはともかく,ニコラはちゃんと手を差し出しているのに,その態度はないでしょう.パパも実に不満げです.それに引き換え,ビニョさんは娘の不躾を笑ってすまそうとしているようです.
実際,イソちゃんの傍若無人ぶりは,もう,目に余るほどです.グレナディンは拒否して大人と一緒の食前酒を飲むと言い張り,ラ・フォンテーヌの朗読はやったかやらないかわからない程度でやめてしまい,食卓に着く前にグレナディンのグラスは絨毯の上にひっくり返していまい,人より多くマヨネーズを要求し,そのマヨに指でお絵描きし,今夜映画に連れて行けと騒ぐし,羊肉の一番美味しい「膝肉」(souris)の部位は一番に奪い取るし,ものすごいことになっています.イラスト3/4はきっと,マヨを要求している場面でしょう.
ビニョンさんも奥さんも,だめよと指を振りながらも,顔はにこやか.それに比べて,ニコラのパパとママンの驚いたような呆れたような顔ったら.ちなみに,食卓でニコラはパパとママンの間に座っていましたが,ここではどうではなさそうです.いつものニアミスですが,ここで大事なのはビニョン夫妻のにこやかな顔と,イソちゃんの聞かん坊の顔です.
ビニョンさんたちはいつもイソちゃんを気遣い,二言目には「お医者さまに止められているだろう」と優しく宥めるのですが,そんなの聞かない,効かない.わがまま勝手のし放題です.
ところが!このイソちゃん,最後の最後にビニョンさんに「食卓に肘をつくんじゃない!」と一喝されます.
ビニョンさんはイザベル−ソフィの方を振り向いて,大声を出したんだ.ひどく怒っていたよ.
「イソ!食卓に肘をつくんじゃない!」(p.541)
それでしゅんとしたイソちゃんの姿が4/4です.
ようやく黙ってくれたようです.ホッと一安心.
次いでビニョンさんはパパに言います.
こんな場面をお見せして申し訳ないね.でもね,子どもの扱いはわかるだろう?厳しくしないとね,子どもってのはすぐにダメになってしまうからね.」(p.541)
私も子どもの頃にテーブルマナーとして,お膳に肘をつくもんじゃないと何度も言われました.怖かったなぁ.でもね,ビニョンさん,あんた,注意したのは「肘」だけですよ.肘だけ・・・.厳しく躾けているんだか甘やかしているんだか.人の家の躾というのはなかなかわからないものですね.
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