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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』(153)

« On est allé au restaurant », HIPN., vol.1, pp.514-519.

 題名のOn est alléはon est allésかと思って,-sがつかないなら,onは単数一人称jeの代わりかと考えてしまいましたが,調べたら,「Onが複数或は女性を表す場合は,動詞は単数のままで属詞は意味に従って一致するのが普通.On est tous égaux devant la loi. Est-on contente ?但し,複数記号sは必ずしも用いられない(上記II, 2o, 1, v).」(朝倉,p.248)とあり,「II, 2o, 1, v」を見ると,「Nousに代わるonの使用」として,「Quand toi et moi on est parti. On est franc, nous autres, n'est-ce pas ?」とあるので,そうですか,-sがないのが普通なのですね・・・.それで再度考えを変えて,「僕らレストランに行ったんだ」で良いのかと.でも一つだけ疑問があって,同じ今回のお話の中に« On a été vite prêts et nous sommes sortis tout de suite. »(p.514)という表現があって,onは明らかにnousの意味なのですが,こちらにはprêtsと-sが・・・.う〜ん,そうすると題名のonはやっぱりje で「僕レストランに・・・」なのでしょうか.う〜ん・・・.


 パパの昇給でみんなニコニコ,みんなウキウキ.レストランに食事をしに行くことになりました.ギャルソン(お給仕さん,ウェイター)が黒尽くめだったというので,高級で正式なフランス料理を出す,ちょっと気取ったお店だったようです.テーブルにつくと,「3種類のメニューと僕の椅子に敷くクッション」が運ばれてきたので,きっと食事のメニューとデザートのメニューとワインのメニューでしょうか.ちなみに今ではメニューはmenuではなくてcarteという方が普通のようで,menuというと「日替わり定食(今日のお勧め)」の意味になりますと習ったし,実際にフランスでもそうだったのですが,50年代はmenu=メニューでいいんですかね.

 滅多にない豪勢な外食で,これを機にニコラにマナーを覚えさせようと,パパはメニューを手渡し「もう大人なんだから,自分で選ばなきゃな」(p.514)と言うのですが,あ〜あ,言わなきゃいいのにと,私は思いました.こういう時にはパパはまず間違いなく失敗します.あるいは,文を担当しているゴシニが意地悪で,必ずパパに恥をかかせてしまいます.

 ギャルソンが「小さな手帳」(un petit calepin)を持ってきて,「何になさいますか」なんて,やっぱり気取った店です.ニコラはすかさず,「イチゴ味のアイスクリーム」が欲しいといい,ギャルソンが聞かないふりをして「何から始めましょうか」と聞き直すと,ニコラは「ピーチメルバ」と答えます.これ,普通に普及した料理名なんですね.全く知りませんでした.なんでも,ネリー・メルバと言うオーストラリアの女性歌手(1859-1931)に料理人エスコフィエが1892年に捧げて目名付けた料理だそうです(『フランス料理仏和辞典』,イトー三洋株式会社).私の愛用の『Royal』にはさらに詳しく「バニラアイスクリームに桃のシロップ煮をのせフランボワーズのソースをかけたもの」とありました.そりゃ美味しそうです.が,ニコラや,前菜にはならんでしょう.パパも同意見で,「絶対に別のものを食べますから,書かないで結構です」と言うのですが,ニコラは「僕は大人だし,ギャルソンさんは僕に聞いたのだから,僕はピーチメルバがいい!」(p.515)と,言い張ります.それでパパは「僕に大きく目を開いてみせて,豚のあばら肉のほうれん草添えを食べなさい.」と言いますが,ニコラは聞かない.しまいにパパは「お前はまだ子供なんだから,パパがお前に食べて欲しいものを食べるんだ」(p.515)と強権発動.あれれっ?「もう大人」発言はどこいったの???

 それにしても,このレストラン,やはりかなり気取った店のようで,こんな用語でふつーの料理を飾り立てています.


le gros délice baguettes dorées「超美味~黄金のバゲット(棒状のもの)添え」

→何のことはない,「ステーキのフライドポテト添え」


solanées sauce agaçante「ソラネ,艶っぽいソースかけ」

→solanéeはラテン語のsolanumから.「植物」の意味で使うようですが,珍しい単語です.それで何かというと,やっぱり何のことはない「トマトサラダ」でした.


la gelinotte sur velours「滑らかなビロード上のライチョウ」

→ただの「鶏肉,ピュレ添え」・・・


 こう言うレトリックというか,凝った名称で騙されないのがニコラのすごいところ.ニコラは「卵のマヨネーズ添えとソーセージとフライドポテト」(un œuf dur mayonnaise et saucisses avec des frites)を注文します.パパは「ブーダン」.

 もうこの時点で,ギャルソンは何度も書き直し,何ページも手帳を使っていたのですが,注文を全て書き終わったところで,ニコラがダメ押し.「フライドポテトの代わりにシュークルートにしてもらえませんか?」さすがニコラ.素知らぬ顔して人を困らせるのが得意です.これがイラスト1/2.



 自分の注文したいものを決めさせてもらえず,涙で勝負に出るニコラ.何が書いてあるのか名称が凝っていて全く理解できないママン.手帳に書き留めては書き直しを繰り返して何十枚も無駄にするギャルソン.残念なレストランの図です.さぞ騒々しいテーブルだったでしょう.充分そーぞーできるところですが,近くの席の男性とパパが険悪な雰囲気になったと書いてありますから,やっぱりうるさかったのです.「俺が食べているのはアンチョビだよ.静かに食べさせてくれんかな!」(p.516)

 それでようやく注文が終わったと思いきや,ニコラがアンチョビを食べたがり,「卵のマヨネーズ添え」の代わりにアンチョビをとパパが注文の変更を頼むと,ギャルソンは一言« Oui ! »と答えるのですが,このOui!はどんな調子なのでしょうか.もういい加減にしてくれ!なのか,はい,承りますなのか.ちなみに邦訳は「もちろんでございます!」と,かなり丁寧な返答に読めるのですが,私は相当イライラしているからこそ,一言で!付きで返したのではないのかなぁと思うのです.ちなみにここでニコラは「卵のマヨネーズ添えをアンチョビに代えてくれ」(changer l'œuf mayonnaise)を「変えてくれ」と受け取り,手品ができる人と思い込みます.フランス語では可能な読みではあるのですが,相変わらず場を読まないKYぶりです.

 前菜をつまんだパパは何を思ったか,「ブーダン」を「ウサギ料理」に代えてくれと頼みます.ま〜だ,変更しますか〜?!可哀想なギャルソン.思わず同情してしまいます.だって,ここでさすがにギャルソンも「すっごくイライラしている様子」だったからです.ニコラ,よく観察しているな.


 イラスト2/2です.近くのテーブルのおじさん,怪訝そうな顔をして,ニコラたちを睨んでいるようです.怒ってる怒ってる.ギャルソンも眉を釣り上げ,イライラしています.パパは文句を言い,ニコラは手品にこだわる.もうカオス以外の何ものでもありません.

 パパがシュークルートは頼んでいない,ブーダンの代わりにうさぎを頼んだんだ,シュークルートを欲しがったのは子どもで,私は子どもに注文をコロコロ変えるのは良くないから,フライドポテトにしときなさいといったんだ.と立板に水ですか.加えて一言,ギャルソンに嫌味まで言ってしまいます.「記憶力がないんなら,レストランのギャルソンになんてなるなよ!」.パパ...そりゃあんまりです.これだけコロコロ注文代えたら,間違えるってもんです.そこでついにギャルソンがキレて「いい加減にしてくれ!」

 さらにパパは店長を呼びつけ,料理に文句をつけ,逆ギレしてもういられないと帰り支度を始めます.ギャルソンがお会計を持ってきて,嫌味を一言.


「私の記憶力にあれこれいちゃもんつけてらっしゃいますが,賭けてもよろしいですが,お客様はきっとお財布をお忘れになったでしょうな!」(p.519)


 それを聞いたパパはフフンと笑い飛ばし,そんなはずないだろ!とばかりに,上着からジャジャーン,お財布を取り出しました.


その時,パパの顔から笑いが失せた.お財布を開けたら,家でお金を入れてくるのを忘れたことに気づいたんだよ.(p.519)


 やっぱりいつものようにパパの言動は全て裏目に出るのです.パパ,肩なし.ついでに金もなし.

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