« Pamplemousse », HIPN., vol.1, pp.506-513.
「グレープフルーツ」といえば,あの鮮やかな黄色のフルーツです.緑色のレモンはありますが,グレープフルーツはあの色だけ(?).いや,もしかするとオレンジ色のグレープフルーツもあったかも.それはともかく,とにかくあれです.でも,題名が「グレープフルーツ」なのに,お話を読んでいても一向にグレープフルーツが登場しない.なぜなのだろう,どこに繋がるのかしらと思っていたら,ようやくお話の最後に出てきました.それも,いつものように,偉そうにしている大人がしっぺ返しを食うというパターンです.いつもならそれはパパの役割なのですが,今回はパパの永遠の親友である,お隣のブレデュールさんがそんな目に逢うというお話です.
イラストは4枚あるのですが,絵の様子からすると,連載初期のお話ではないかと思います.そしていつもにもまして,ニコラのKYぶりが発揮されているような印象も受けました.
ママンがパパに台所の天井の塗り替えを頼みます.「あなた,今日は台所の塗り替えをしてくださる約束,お忘れにならないでね.」(p.506)とあるので,多分パパは嫌な仕事を伸ばし伸ばしにしていたのでしょう.今回もまた,ニコラを出汁に逃げようとするのですが,いつもなら映画に連れて行ってもらえるのを大喜びするニコラなのに,今日はどういうわけか,カウボーイ映画にもアニメにも反応せず,ペンキが塗りたいと言い出します.どういうことでしょうか.それでニコラ曰く,パパが褒めてくれたそうです.
ママンは僕を抱きしめ,とってもいい子だって言ってくれて,パパは僕のことがすっごく誇らしいだって.「ニコラ,お見事!今日のことは忘れないからな!」(p.506)
ニコラがどう思ったかはさておき,パパはそーとー怒ってます.でも相変わらずニコラはトーンを理解できず,字句通りにしか受け取ろうとしません.つまりパパは自分を感心な息子と褒め称えたと,勘違いしているのです.気づけよ,ニコラ.もう少し,場を読みなさい.
はしごがないからと,やっぱり先延ばししようとするパパに,ブレデュールさんの家で借りてくるよと,またもやニコラが勇気ある一言を発します.ママンには褒められましたが,パパは「あんまり低い声だったから僕にはよくわからなかった」(p.507)言葉を呟いていたそうです.どんな言葉だったか,想像はつきます,ニコラ以外の人なら.追い詰められたパパは仕方なく,ペンキの缶を開けて準備を始めました.イラスト1/4です.
パパの顔,こわ〜い.ニコラは気にするでもなく,平然とパパの仕事を観察しています.
ニコラがはしごを借りに行って,最初は貸し渋ったブレデュールさんですが,どういう訳か,満面笑みを浮かべて承諾し,それも自らはしごを持ってきてくれるとのこと.この急変には理由があるのでしょう.パパはその理由をすぐに察したようです.ブレデュールさんがはしごを持ってきてくれると聞いたパパは,「おかしな目をしてじっと僕を見つめ,それから棺の中でペンキを混ぜ始めた.あんまり早くかき混ぜたものだから,ズボンにペンキがはねちゃったけど,穴の空いた古い縞々のズボンだったからね,なんともないさ.」(p.508)3回目のKYぶりです.
はしごを持参したブレデュールさんはひどく楽しそう.でも,もちろん手伝うでもなく,高みの見物を決め込みます.パパに「ありがとな,じゃさいなら」と追い払われても,全く動じません.「俺はいてやるよ.家のはしごを褒めてやらなきゃな.家のはしごちゃん,これほど面白おかしく演出してくれるのは今日が初めてだからな.」(p.508)イラスト2/4がパパの「面白おかしい」働きぶりです.
天井から落ちてくるペンキを新聞を傘にして避けるパパの図です.そういえば,結構「面白おかしい」場面かも.ブレデュールさん,なかなかセンスの良い指摘をします.でも,ニコラにはどうしてこれが「面白おかしい」のか理解できません.大受けしているブレデュールさんに,パパは「何をそんなに馬鹿みたいに笑うことがあるんだ!」(p.511)と不機嫌そのもの.ニコラはパパもブレデュールさんが面白がっているのに「僕以上に」驚いたと言っていますから,パパにもその理由がわからないと思い込んでいるのです.4回目のKYですな.
イラスト3/4はかなり凝った絵です.
タバコを燻らせてパパを見上げるブレデュールさん.ニコラも手を後ろに組んで,パパの仕事ぶりを眺めています.天井からはそこらじゅうにペンキがたれ,パパも汗をかいているのかペンキがかかっているのか俄にはわからない状態です.台所のタイルや積み重なった新聞紙,戸棚や水道,シンク等々,とにかくごちゃごちゃ詰め込まれていますが,それでいて不思議と台所とすぐわかる絵になっています.ブレデュールさんの軽く笑みを浮かべた顔とパパの不機嫌な顔の対比が見事です.「キーキーとロバのような鳴き声を出してるくらいなら,手伝わしてやるよ.」(パパ)「いえいえどういたしまして.家の台所じゃないからねぇ.」(ブレデュール)(p.511)
ママンが一度様子を見にきますが,ニコラに「パパが落ちないように梯子を支えてあげるのよ.パパとブレデュールさんが二人で遊び始めたら呼びにきてね.」(p.512)と言い残して去ります.忠実でKYなニコラはその通り,梯子を支えお手伝いをしています.
僕はちゃんと梯子を支えていたんだ.天井はどんどんはかどり,きれいな色がついて素敵になった.ママンはパパに買っておいてねと頼んだ黄色にね.
「これくらい笑えると気も晴れるってもんだ.台所が一つしかなくて残念だったな.」とブレデュールさんが言った.」(p.512)
さすがブレデュールさん,パパを苛立たせる話術に長けています.
そこでついに二人はケンカモードに突入するのです.4/4です.
そんな険悪な雰囲気の中,ニコラは相変わらず楽しそう.それでやっぱりKYなニコラはパパとブレデュールさんが「遊び始めた」と勘違い.ママンを呼びにゆきます.
さて,このケンカの収拾をつけねばなりません.そこへママンがブレデュール夫人と登場.駆けつけてみると,ブレデュールさんの顔とシャツにはべったりと黄色いペンキが・・・.スリリングな展開です.
ここでユーモアを発揮するのは,やっぱり女性です.ブレデュール夫人は,夫についたペンキに驚くでもなく,ママンに尋ねます.
「これは何色なの?」
「グレープフルーツ色よ.」ママンが答えた.
「すっごく鮮やかね.とってもフレッシュだわ.」と,ブレデュールのおばさん.
「陽が入っても色褪せないのよ.」と,ママン.
それでブレデュールのおばさんは来週の日曜日に,ブレデュールさんに台所を塗り直してもらうことに決めたんだ.パパと僕は,手伝いに行くよって約束したんだ.(p.513)
人を笑わば穴二つ.パパ復讐の日はまもなくです.
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