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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』(150)

« Le voyage de Geoffroy », HIPN., vol.1, pp.488-495.

 今回は「ジョフロワのした旅」についてのお話なのですが,どうやらジョフロワの嘘とか,ジョフロワの誇大妄想,ジョフロワの災難とかの方がしっくりくる感じです.なぜかというと,イラストの3/3にはまさにジョフロワのうけた罰が描かれているからなのです.



 日付が入っています.もしかしたら雑誌の掲載日でしょうか.お話の掲載を思わせる要素が入っているのはレア・ケースです.

 「百行」というのは↓で説明します.下に行くほど,だんだん字が汚くなって読めなくなっているのは,どうしてでしょうか.その理由についても↓で.


 ジョフロワはすっごくラッキーだ!(p.488)


 これが第一行目ですから,ニコラが興奮し,羨ましがっている様子が伝わってきます.すっごく遠くに住んでいる従姉妹の結婚式に両親と一緒に出席したジョフロワが,帰りはお父さんの仕事の都合で飛行機に乗ったそうです.今現在(2021年)からすると,ジョフロワの自慢,ニコラたちの羨望はんんん???な感じですが,何せ,未だ一般の人が飛行機に乗る機会などそうそうなかった時代です.だって,各家庭にテレビもなかった時代ですよ.推して知るべし.だから,ちょっと鼻につくけど自慢したがる気持ちもわかるし,ちょっと悔しいけど羨ましいのもわかるわかる.でも,誇張や嘘はいけません.何でも,ジョフロワによれば,「ひどい嵐に見舞われて」,飛行機がガタガタ揺れたので,ジョフロワを除くみんなが怖気付いてぶるぶる震えたそうです.う〜ん・・・.イラスト1/3を見てみましょう.


 向かって左側の建物の描き方は見事ですねぇ.回廊のような廊下,窓から見える教室,螺旋式の階段.それに背景にあたる街の高い建物は,しっかり奥行きが与えられています.それに対して,右側にはジョフロワの話に耳を傾けるニコラたちがうじゃうじゃいます.吹き出しはもちろん,ジョフロワの話の内容を表しています.どうやら飛行機の中です.乗客全員が目を丸くし,恐怖を感じています.手で口を押さえ,肩を抱き合い,乱気流ないし嵐に巻き込まれて,落ちるんじゃないかと心配しているのでしょう.そんな中,吹き出しの中央よりほんのちょっと右側にいるジョフロワだけが,平気な顔をして,大人しく座っています.さすがに勇敢です.自慢するだけのことはあります.でも,そんな自慢話を聞いているニコラたちの方に目を向けると,大口を開け鼻を上にして大笑いしている子たちがいます.そりゃ,乗客のように手で口を押さえて,本気で信じている子もいますよ.でも,それは少数派のようです.というより,たった一人だけ.みんなが興味津々,飛行機の話を聞きたくて集まってきているのですが,大方はジョフロワの話をホラと信じていない様子です.

 休み時間の終わりを告げる鐘が鳴り,みんなに揶揄われて思わず大声で怒鳴り続けたジョフロワは生徒監のムシャビエールさんに叱られ,罰として書き取りを命じられてしまいます.


「休み時間の終わりを告げる鐘,授業開始を告げる鐘が鳴っているのに,僕は大声で叫んだりしてはいけません.」いいか,ジョフロワ,これを百行書いてきなさい.(p.489)


 とんだ災難です.でも,嵐だなんて作り話をした罰というなら,仕方ないでしょうか.これが冒頭に触れた↑最初の罰である「百行」の筆写です.百行も書くなんて,考えただけで気が遠くなりそうです.ジョフロワもきっと同感でしょう.それでだんだん字が崩れていってるんでしょうねぇ.机の上にはたくさん本が置いてあったり,何ですか,コマ割りのしてあるマンガの原稿まで散らばっています.これは子どもの机じゃなくて,作者であるサンぺの机を参考にしているのでしょうか.雑然,混乱,怒りとカオス・・・.

 ジョフロワの2番目の受難は授業中,いつもは(怒っていない時には)優しくてきれいな担任の先生からもたらされます.先生も飛行機に乗れて良かったわね,と言っているところからも,やっぱり時代性が感じられます.ところがニコラたちに揶揄われて,ジョフロワはここでも激怒してしまいます.先生も見かねて,


「ジョフロワ!」と,先生が大声で怒ったんだ.「明日までに『僕は授業中に大声で叫んではいけません.それにゆえなく,クラスメートの悪口を口にしてはいけません』という文の動詞を直説法と接続法で活用させて書いてきなさい.」(p.492)


 ジョフロワ,やるせない気持ちでしょう.やっぱり嘘や悪口はいけないんです.

 次の休み時間には,ジョフロワは「操縦士」に会ったと,懲りずに嘘をつきます.ま,嘘かどうかは定かではないのですが,「俺が乗客で唯一,怖がらなかったから,操縦士が入っても良いよって言ってくれたんだ.」(p.493)と言っているところを見ると,やっぱり嘘でしょうね.でもまたもやニコラたちに嘘つき呼ばわりされ激怒.今度はブイヨンさんに見咎められてます.これがイラスト2/3です.



 ジョフロワはなんちゃってのような悪びれない顔をしていますが,状況は最悪.ウードに飛びかかろうとしたところをブイヨンさんに捕まり,「居残り」を命じられてしまいます.それでもジョフロワは「まだ,バスだ,ロケットだ,飛行機だと叫びながら,両手両足をバタバタさせていた.」(p.495)そうですから,本当に懲りません.

 でも本当はそんな嘘並べる必要なかったんです.飛行機に乗った.ただそれだけの事実でみんな羨ましいのですから.


下校途中で僕はウードに言ったんだ.

「でもやっぱり,ジョフロワのやつ,ラッキーだよなぁ.」

それでウードが答えた.「ああ,そうだな.飛行機で旅するなんて,そりゃいいぜ.でもな,そんなスッゲーことをしたら,やっぱ一番は友だちに話せるってことだよな.」(p.495)


 実際の経験よりも,それを仲間で共有できることが大切.ウード,良いこと言います.

 と,このまま終われば美談なのですが,違う見方をする人もいるようです.


「好奇心とは虚栄心に他ならない.大概,人が知りたがるのは,それを他の人に話したいからだ.言い換えると,旅行後に誰にも話さず,ただひたすら見ることを楽しみ,誰にも伝えたいと思わないなら,わざわざ海に出てまで旅なんてしないだろう.」(パスカル,ラフュマ版77番)


 さて,ジョフロワのは見栄とか自慢なのか,それとも,友だちと一緒に楽しい時を過ごしたいのか,どちらなんでしょう.


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