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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』(149)

« Tout seul ! », HIPN., vol.1, pp.480-487.

Toutは強調,seulは「一人,独り」(形容詞も,名詞もあり)なので,「たった一人で!」が題名ですが,まぁ,「一人でお留守ばん」といった感じでしょうか.

 土曜日の午後,学校から帰宅したニコラはパパとママンからタルチノーさんの家に晩御飯にお呼ばれしていることを聞きます.一瞬喜ぶのですが,パパとママンは二人だけで行くので,ニコラはお留守ばん,それも「たった一人で!」だそうです.拗ねて,駄々こねて,何とか撤回を求めるのですが,全て無駄.強いパパの一言で,やっぱり一人お留守ばんをすることに.でも駆け引きは成功して,テレビを買ってもらえるかもとか,映画を見に連れて行ってもらえそうとか,夕食が大好物だったり,レモネードが飲めたり,チョコレートケーキをおかわりしたりとか,かなり至れり尽くせりの様子です.

 食事後,いよいよパパとママンが出かける時には,ニコラは部屋で寝るよう言われます.パパやママンから諸々,注意があって(心配性だなぁ),お絵描きしてから,それでもニコラは大人しく床に着きます.これがイラスト2/2です.


 ニコラがベッドで横になる.故意か偶然か,壁に貼ってある絵は同じ垂直方向と上下の縦方向を思わせます.垂直に上がるロケット,殴り合うカウボーイはアッパーカット(3枚),拳銃を上に向けたカウボーイは縦方向,ボクシングの場面(2枚)と拳銃を構えるカウボーイは横方向.ニコラのベッドが斜めの角度から描かれているのと対照をなしています.そんな構図はともかく,どうやらニコラはすやすや静かに寝ています.パパ,ママンが大騒ぎすることなどなかったのです.

 パパとママンが心配している様子は次のような箇所からよ〜く分かります.


パパとママンは僕を抱きしめた.僕の部屋から出ていく前に,ママンは振り返って僕を見た.パパはママンの腕を掴んだ.それからパパとママンが下の玄関の扉を閉める音が聞こえた.(p.486)


 ママンはだいぶ後ろ髪引かれています.去り難い感じです.涙しているかもしれません.でも,ニコラが起きていたのは,扉を閉める前まです.あとはスヤスヤ・・・.

 ところが!夕食にお呼ばれしているパパとママンの想像はだいぶ異なります.イラスト1/2です.

 

 大人だけのディナーで,タルチノーさん夫婦は楽しそうに話しかけているのですが,パパとママンは心ここに在らず.パパの想像では,ニコラのベッドの左側の窓から何故か猛獣が入ってきています.ママンの想像では,ニコラの寝ているベッドの右側から,解決ゾロのような黒マントの泥棒が侵入してきました.二人の想像を掛け合わせると,あれっ?ベッドの両側が窓となりそうです.どんな作りの部屋なんでしょ.

 そんな細部はともかく,二人がニコラに何か起こっていないかと気がかりで仕方ない様子が伝わってきます.実際にスヤスヤ寝ているニコラとここでも対照をなしているのです.

 それでやっぱり落ち着かなかったパパとママンはデザートも食べずにお暇してきてしまいます.何度も電話もしたようです.ニコラはぐっすり寝ていて,二人が帰ってきて呼び鈴を鳴らしたのも気が付かないほど.それなのに,二人に叩き起こされてしまうんですね.でもニコラは文句ひとつ言わないで,デザートを食べ損ねたパパとママンに付き合います.


 そのあと,パパはタバコに火をつけて,ニコニコしながら,僕の髪をなぜて言った.

「よくよく考えるとな,ニコラ.パパもママンもお前を独りお留守ばんさせるほど,まだ大人じゃないんだな,これが.」(p.487)


 あれほど,ニコラに「もう大人」なんだからと,ひとりお留守ばんをさせたパパのセリフとは!誰も独りでいられるほど,僕ら「大人」じゃないんですね.

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