top of page
検索

『プチ・ニコラ』(141)

  • 執筆者の写真: Yasushi Noro
    Yasushi Noro
  • 2021年11月4日
  • 読了時間: 5分

« La bonne blague », HIPN, vol.1, pp.420-427.

 フランス語のblagueは「ほら,冗談,ジョーク,ギャグ,笑い話,いたずら・・・」などと訳せる語です.それはたわいもない話だったり,思わずクスッと笑ってしまう話であったりしますが,短いやりとりのようなものでもblagueと言ったりします.例えば,フランス人なら誰もが知るキャラメル,カランバール(carambar).その包み紙の一枚一枚にギャグが書かれています.そしてカランバールのギャグといえば,つまらない,くだらない,笑えないギャグ.日本語ではいわゆる<おやじギャグ>がこれに該当します.ちょっと検索してみましょうか.blagueとcarambarと入れてみると,最初に表示されたのが次のギャグでした.


Quelle est la femelle du hamster ? — L'Amsterdame.

雌のハムスターの名前は?「アムステルダム」


 つまりフランス語でハムスターを発音すると「アムステル」.それに女性を意味する「ダム」をくっつけたというわけです.笑えますか・・・?私は顔がひきつっています.

 さて,今回の題名は「おもろいギャグ」とでもなりましょうか.それとも,人を楽しくさせるという価値判断を含む「良いギャグ」としますか.その場合には,人を悲しくさせてしまう「悪いギャグ」なるものがありそうです.

 ニコラは学校の休み時間にジョアキムからギャグを仕入れました.イラスト1/3をみると,よほど面白いギャグらしく,みんなが大きな口を開けて笑っています.正面から見ると三日月型,横から見ると,発音の説明図のようなくの字型をしています.お腹を抱えている子もいれば,両手を口に当てている子もおり,はたまたあまりに可笑しくて目に手を当てて涙を抑えている子まで.背後の遠くで,ビー玉遊びをしている子たちの真剣な顔つきが描き込まれているので,余計に楽しそうな様子が伝わってきます.


 「それで,虎が奴らにいうんだ・・・」.そんなに面白いなら,こちらも聞きたい!と当然思うのですが,ジョアキムの語るお話の内容がわかるのはこの吹き出しと,わずかにオチに当たる末尾だけです.ですから,読者にはどんな話か一向にわかりません.期待だけさせやがって!う〜ストレス溜まる〜.どんだけ面白いのでしょうか.

 ギャグを仕入れたニコラは放課後,急いで帰宅します.頭の中ではギャグを反復し,パパとママンを笑わせることしか考えていません.


 家路を急ぐニコラの妄想を表した吹き出しの中には,ジョアキムと同じ文句「それで,虎が奴らにいうんだ・・・」,そしてそれを聞いて大笑いするパパとママンが描かれています.パパの口もママンの口もやっぱり三日月型してます.パパは大喜びで両手をバンザイ!,ママンはあんまり可笑しくて,お皿を落としています.あ〜あ,割れちゃうよ.どんだけすごいギャグなんでしょう.う〜気になる!

 ところが『プチ・ニコラ』の定石といいますか,誰かがノリノリの時には必ずと言って良いほど周りの反応はいま一歩.ここでも,ママンはあまり聞きたがらず,聞いても面白かったんだか何だか,わからない反応です.それでパパはというと,パパはいつも通り,仕事で疲れて帰ってきているんだから,肘掛け椅子でゆっくり新聞でも読ませておくれと,取り合ってくれません.


「僕ね,パパにギャグを話すよ.」そう僕は大声で言った.

「いいね,後で話してくれな.パパは居間で新聞を読むんだから.」

 僕はパパについて,居間に行った.パパが肘掛け椅子に腰掛け,新聞を開いたところで,僕はパパに聞いたんだ.

「もうギャグを話していい?」

「ん〜・・・」パパは僕の話を聞いていない時にいつもそうするように,気のない返事をした.(p.424)


「パパは僕の話を聞いていない時にいつもそうするように」.すごい観察力でしょう?子どもはいつも,ちゃんと親の反応を見て対応しているんです.こんな一文が入るなんて,本当に子どもの目を持った作家さんです.

 聞く気のないパパの態度に,ニコラは完全にすねて部屋にこもってしまいます.仕方なく,ママンが取りなしにきて,気を取り直したニコラは下に降りて,再度パパに話を始めます.それでイラスト3/3では,パパは新聞を傍に置き,渋い顔をして聞いているのです.


 ニコラの言葉を表す吹き出しの中は「一匹の虎が・・・」と,どうも先程までの文句と虎違い(もちろん,取り違え)しているようです.パパは肘をついて,聞く気ゼロの姿勢です.それでも話を聞き始めたのですが,のっけから話の腰を折ってしまいます.


「それじゃあ,おチビさん,その面白いお話とやらをこっちにきて聞かせてくれ.少し一緒に笑おうじゃないか.」

「あのね,虎が一匹いてね,散歩しているんだ,いつもの自分の庭をね,森の中なんだ,アフリカでね・・・」

「アフリカじゃないよ」そう,パパが遮った.「インドだよ.虎ならアフリカじゃないんだ.インドなんだよ.」

 そこまで聞いて僕は泣き出した.それでママンが台所から急いで出てきた.

「何なの,また?」

「ギャグだよ!パパが僕のギャグを知ってたんだよ!」

 それで僕は泣きながらまた部屋に戻ってしまった.パパとママンがケンカして,晩御飯の時には誰も一言もしゃべらなかったよ.だって,みんなふくれっつらしていたからね.(pp.426-427)


 えぇっ!虎がアフリカじゃなくて,インドだってのがオチ?!?それって本当に面白かったの?それともパパの鋭い直感を称えるべきでしょうか,一般常識としてのまっとうな知識の無用さと残酷さを責めるべきでしょうか.いずれにせよ,夕食でみんなが顔を合わせているのに,誰も話さない食事なんて味気ないでしょう.まさにパパの言っていたように,「食事中」に話したら場も和んだでしょうに.

 話はそれ自体が面白いものではないんでしょう,きっと.聞く人がいて,一緒に笑い楽しむ人がいて,面白いギャグになるのです.「雌のハムスター」のように.

 最後にもう一つblague carambarで締めくくりましょう.


Quel est l'animal le plus heureux ? —Le hibou, parce que sa femme est chouette.

最高に幸せな動物は何? −雄の梟.だって,奥さんが「イカす」から.






 
 
 

Comments


© 2018 par lui-même

contact : yas_edo[a]hotmail.com

bottom of page