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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』(14)

« Le vélo », t.I, pp.110-117.

この『自転車』は,『プチ・ニコ』シリーズでも一,二を争うほどコンパクトにまとまっていて楽しいお話だと思います.お話の最初と最後がしっかりつながっていますし,いわゆるオチもはっきりしていて分かりやすい.赤いちっちゃな自転車に,でっかいパパとブレデュールさんが跨がって競争するという,視覚的に小と大の対比が見えてくるように描かれています.ニコラが買ってもらった新品の自転車が,最後に乗れないほどボロボロになってしまうとか,パパお得意の「子供ってやつは・・・」という説教から始まり,いつものようにパパの言葉は裏切られて自分がヘマをしてしまうとか,先ほどの大と小の対比だけでなく様々な比較が出てきます.それに,ニコラが算数でクラスの10番以内に入ったとか,パパとブレデュールさんがいつものようにつまらないミエをはってケンカするとか,いわば小ネタも盛り沢山なお話なのです.

 

「パパは僕に自転車を買うのは嫌だったんだ.だっていっつも,子どもはそそっかしいし,変な乗り方したがるし自転車を壊してしまうし,それで怪我もするから,なんて言ってたんだ.」


 書き出しはこんな感じです.それで,こんなえらそうな,上から目線のパパのお説教が始まると,『プチ・ニコラ』の読者ならすぐに,あっ,これはいつものパターンで,パパはしっぺ返しを食うぞと,予想ができてしまいます.そしてその通りになる.この予定調和がたまらない魅力です.読み終わった後に,ほら,やっぱりね,と.

 最初の一枚は,おそらくニコラ家の隣人で,いつもパパをからかって楽しむブレデュールさんの後ろ姿です.おそらく,と言うのは,ちっちゃな自転車に大きな図体で跨がり,猛スピードで街中を走る姿を後ろから見ると,パパかブレデュールさんか見分けがつきませんね?



 人目も気にせず一目散に街中を走り抜けるブレデュールさん.小さな子供用自転車に大きな大人が跨っていますから,街ゆく人はみんな振り返ってみています.なんでこんなことをしているのかといえば,ニコラに自転車を買ってあげたパパは,ママと結婚しなけりゃ,自転車のチャンピオンになれたのに,といつものホラを吹いてニコラに自慢するのですが,それをお隣のブレデュールさんに聞かれてからかわれてしまいます.それで言い争いから,それじゃあ,自転車で白黒つけようじゃないかとなって,二人は競争するのです.まったく大人気ない・・・.


ニコラにパパは・・・「いいかい,パパはすっごい自転車チャンピオンだったんだよ.ママと知り合わなきゃ,今頃はプロになってたんだからね.」

ニコラは心の中で・・・「えー!そんなこと知らなかったよ!!パパがすっごいサッカー選手だったことも,すっごいラグビー選手だったことも,すっごい水泳選手だったことも,すっごいボクサーだったことも知ってたけど,自転車の選手だったなんて知らなかったよ.初耳だ!」(p.111)


 二人をみていたブレデュールがパパをからかい,売り言葉に買い言葉.パパが怒って勝負することになります.街中を走って何分で戻れるか.まずはブレデュールさん.汗だく,ヘトヘトになって1周して帰ってきました.9分30秒を切る記録.まずまずです.先ほどの1枚目の絵を見ると,その疾走感ない,巨大なお尻の後ろ姿に思わず応援したくなります.

 2枚目もブレデュールさん.今度は角度を変えた姿です.



ペダルを漕ぐたびに膝がつかえてキツそうですが,結構軽やかな操縦ぶり.

3枚目はいよいよパパが出発するところ.ところが9分過ぎてもパパの姿は見えません.

と,そこで・・・4枚目,鼻血を拭きながら,壊した自転車片手にパパが帰ってきました.


 ブレデュールさんの街中での疾走をみているだけに,パパの姿も想像できます.

 それで最後に5枚目,壊れた自転車を前にしゅんとするニコラの図.



 あぁかわいそうなニコラ.結局,せっかく買ってもらった新品の自転車に乗ることができませんでした.でも,その話を聞いたクロテールが言うには,きっとそれが運命だったことがわかるのです.だって・・・


(話を聞いたクロテールがニコラにいいます)「しょうがないさ,パパって人種はいつだって同じさ.悪ふざけしちゃってさ,それでこっちが注意しててあげなきゃ,自転車壊して怪我しちゃうんだからな.」(p.117)


 だそうです.全てお見通し.











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