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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』(139)

« La séance de cinéma », HIPN, vol.1, pp.408-413.

 「映画の上映」とそのまま訳すとニコラたちが上映会を催すようですが,そんなことは全くなく,ニコラがパパに映画に連れて行ってもらう話です.

 「今月はニコラは随分と大人しくしていました.」学校で担任の先生が書いたこの一言のせいで,パパはニコラを映画に連れてゆかねばならなくなりました.いつも通り,疲れているからと面倒くさがったのですが,そこはそれ,ママンの戦略に見事にハマってしまいました.6本のアニメと,カウボーイが登場する『廃坑の秘密』という題名の西部劇の同時上映のようです.

 本話の文の方はともかく,イラスト1/3と2/3を見比べてください.





 イラスト1/3では,切符売り場の横に貼ってある大きなポスターとそっくりなカウボーイ姿の少年が劇場に入ってゆくところです.映画にはニコラとパパの二人で行ったのですが,劇場でジョフロワとアルセストと一緒になりました.この二人が出てきたということは,ジョフロワは「パパが金持ちで金持ちで何でも買ってくれる」,アルセストは「デブで,いつも何か口にしている」という性質上,それに関連して何かやらかしてくれるということでしょう.

 ジョフロワはパパがお金持ちで何でも買ってくれるので,映画に合わせて仮装してくるのだそうです.


この前なんて,火星行きロケットが出てくる映画だったから,ジョフロワは火星人の格好でやってきた.頭にガラスでできた金魚鉢のようなものをかぶってね.映画と映画の間に,アイスクリームを食べるときだって外さなかったんだ.しまいには,そのマスクで気持ち悪くなっちゃったんだ.僕はね,ターザン映画だったら,ジョフロワがどんな格好をするか知りたいよ.きっと,猿だね.(p.411)


 それで1/3↑でも,2/3↑(列のニコラの直前)でも,カウボーイの格好をしているのです.でも,何か変.ちょっと変.だって,1/3は窓口が入り口のすぐ脇で,顔を出しているおばさんの左横に大きなポスターが貼ってあるのに(同じ格好をしているから,おばさんが二度見しているのでしょう),2/3では切符売り場の窓口から入り口までは結構な距離があるし,窓口のすぐ左側には柱があって,ポスターを貼るスペースはなさそうです.

 それから,もう少し先でニコラが映画の内容を紹介しているのですが,そこで登場するのは,殺された炭坑夫の爺さん,その娘,「真っ白な衣装に身を包み,口元にスカーフを巻いていない」シェリフ,黒ずくめの男,邪悪な金貸しです.すると,1/3のポスターに当てはまりそうなのはシェリフしかいないのですが,「口元にスカーフを巻いていない」はずです.う〜ん・・・.ま,放っておきましょう.

 3/3はニコラの要望で最前列に座る羽目になったパパの図です.周りの子どもたちが興奮しているのに対して,パパはクールに目をつむって見ているのかいないのか.


 もちろん,パパのように大きな大人が最前列に座れば,後ろの人たちからヤジが飛んでくるのは必至.そのとおり,喧嘩になります.それでパパ,何お〜💢とばかりに立ちあがった瞬間,横の席の肘のところに置いてあったアイスクリームがパパの服にベタっとくっついて・・・.アルセストが上映中に食べようとストックしていたアイスクリームでした.アイスはこぼされるわ,静かにしろと怒鳴られるわ,アイスを返せとアルセストに付き纏われるわ.もう,踏んだり蹴ったり,蹴られたりのパパでした.これじゃ,行かないんならとママンが提案した「ガレージのペンキの塗り直し」の方がよほどましだったのでは?


「なんだと!」そう言って,パパは立ち上がった.その瞬間,アルセストが叫び声を上げた.「げっ!僕のアイスが!」立ち上がった時にパパは服の上に,アイスをべったりくっつけてしまったんだ.アルセストが自分の椅子の肘のところに置いていたやつだ(ヴァニラ味が二つに,苺味が二つ).そしたら観客が叫び出した.「静かにしろ!」「明かりをつけろ!」続いて,パンパンと,何か爆発する音が聞こえた.ジョフロワが拳銃を発射したんだ.アルセストはシェリフに,出てきてアイスを取り返せと叫ぶ.暗がりで,さっきのおじさんがどすの利いた声で怒鳴っている.「あいつが子どものアイスを横取りしやがったんだ.」すっごく面白かったよ.(p.413)


 この阿鼻叫喚の最中で楽しめるなんて,さすがはKYニコラです.でも,パパはちょっと気の毒ですが,やっぱり映画より面白いかも.

 またいつものように,パパが失敗して,これで終わりかと思いきや,もう一つオチがついていました.

 ニコラは夜に喉が渇くと,パパに頼んで持ってきてもらうのが習慣のようですが,今日ばかりは返事がありません.上の経緯からよほど疲れてぐっすり寝ているのかと思いきや,ニコラが自分で水を飲みに下に降りて行くと,そこには「パジャマ姿の」パパがいました.


パパは映画館に電話をしてたんだ.それで,実は黒ずくめの男の正体は邪悪な金貸しで,その男こそが炭坑夫の爺さんを殺したんじゃないのかって聞いていたんだよ.(p.413)


 クールな素振りで見ていないようでいて,その実,結末が気になっていただなんて,やっぱりパパはお茶目で情熱家です.







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