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『プチ・ニコラ』(138)

  • 執筆者の写真: Yasushi Noro
    Yasushi Noro
  • 2021年10月28日
  • 読了時間: 5分

« Allô ! », HIPN, vol.1, pp.400-407.

「ハロー」じゃなくて,「アロ!」.フランス語を習いたての頃に,Hを発音しないからといって,なんか変だなぁと感じたのを想い出します.それで訳すと「ヤァ,こんちわ」じゃなくて「もしもし」.電話の応答をする表現でした.やっぱり違和感.でも誰が悪いのでもありません.そういうものなんです.

 今回はお家に電話がついたばかりのアルセストがニコラに電話をしてくる話なのですが,無垢な?(あるいはKYな?)子どもたちの陰で,迷惑を被るのはいつも大人.具体的にはパパとママンというパターンです.

 前話(137)に引き続き,イラストだけ追っていても,なんとなくストーリーが想像できてしまうというのは喜んで良いのかどうか.パパの怒りと困惑までは伝わってきませんけどね.

 まずはイラスト1/7.アルセストからニコラに電話がかかってくる場面です.


 今(2021年)は誰でもどこでも電話(携帯電話)を持っていますから,電話が物珍しいなんて想像もつかないでしょう.1950年代の小津の映画でも,自宅や会社で電話する場面がよく出てきますが,やはり当時は高級品.どこにでも設置されていたというようなものではありません.『プチ・ニコラ』が書かれた時期はその少し後ですが,それでも今ほど電話が普及しているなんてあり得ません.そういえば私の家でも,私の子どもの頃の1970年代,黒くてダイヤル式の電話がありました.印象からすると,便利さよりも,物珍しい感じだったのを覚えています.そんな珍しい電話ですから,電話で話すことや,電話を通して相手の声を聞くなんてことも,やはり何か特別なことのように思えたものです.

 脱線しているようですが,こんな感覚をニコラも持っていたことがちゃんと書かれています.


僕は受話器を手に取り,すごく嬉しかったよ.なぜって,僕は友だちのアルセストが大好きだからね.それに,アルセストが電話で話すのを聞くのは初めてなんだ.それにね,電話をもらうなんて滅多にないし.僕に電話をしてくるのはメメで,「良い子にしている?」って聞いたり,「おまえは私の大事な男なのよ」なんて言ったり,僕にチュッてしたり,僕にも「キスしておくれ」って言ったり.(p.400)


 ニコラの家には,すでに電話という文明の利器があるわけですが,アルセストの家では電話を設置したばかり.↑のニコラのように,さぞ興奮したことでしょう.電話をするのも初めて.ですから,電話口でつい大声を出してしまうのも仕方ないところです.1/7では電話口から何やら大きな音が出ている様子が,「〜」で描かれています.それにしても古風な味のある電話機です.

 2/7はアルセスト.電話していても,もちろん食べ物は手放せません.話口(送話器)に食べ物の滓がつかないかなと心配になります.ニコラの家の電話機よりもありきたりな型のようにお見受けします.



 3/7はアルセストの声を電話で聞けて,すごく嬉しそうなニコラの図.


 ところで,電話をかける人が受ける人の都合なんて考えないのもやはり電話の特徴です.それで電話が嫌いという人も,以前はたくさんいました.現代は受ける人が都合が悪くても出るのが常識.何ともはや・・・.現代人は生活にうるさいものを取り込んでしまいました.スルーするのは許されない雰囲気だし.ニコラの家でも食事中でした.そりゃ,アルセストはいつも食事中だし,いつも食べ物を抱えているから良いでしょうが,ニコラの家ではみんな揃ってゆっくり食事をしたいんです.それにママンが頃合いを見計らって,少しずつ出してくれるんです.だからやっぱり電話は迷惑.そんな感覚も,でも,電話を使い慣れていないアルセストにはあずかり知らぬところでしょう.電話口でがなり立てたり,折り返し電話をしろとか要求したり.食料も蓄えて,長電話する気満々だし.



 ところが食事を邪魔されている上に,社長からの電話を待っていたパパはもう,腹にすえかねて爆発寸前です.5/7は電話した途端に,「もしもし!もう良い加減にやめろよ,このガキ」と,パパに怒鳴られてしまった社長のムシュブムさん.もちろんパパはすぐ後で平謝りです.


 次に受けたのはまたもやアルセストからの電話でした.


「ダメだ!ニコラは話せないんだ.スープを食べているからな.時間がかかりすぎ?余計なお世話だ!そんな風に電話口で大きな声を出すんじゃない!それにもう電話はおしまいだ.いいか,まだかけてくるようなら,お前の家に直接行って,お仕置きだ.分かったか!」そう言ってパパはがシャンと電話を切った.(p.404)



 ニコラ,スープ食べてないじゃん・・・.でも電話では,相手にはそれが嘘かどうかなんて分かりませんからね.でも,その小さな嘘が大きな騒動を引き起こすとは・・・.いつも不運なパパ.

 先程の「お前の家に直接行って,お仕置きだ.分かったか!」という脅しをアルセストは,きっとそのままアルセストのパパに伝えたんでしょう.悪気もなく.それで気色ばんだアルセストのパパが電話をしてきます.アルセストは横で平然と聞いています.そうそう,アルセストのパパだけに,やっぱり何か物を口にしています.


 何となく体型も似ているし.

 アルセストのパパの怒りはおさまらず,直接家にやってきたのはアルセストのパパの方でした.そこで電話がチリーン.アルセストのいたずらを確認させようと,アルセストのパパに電話に出させたのは,いつものパパの失策.もちろん,相手はムシュブムさんで,もうパパの立場なし.

 アルセストのパパは去り,パパとママンは仲直りをし,ニコラも喜び,めでたしめでたし.と,ならないのが『プチ・ニコラ』.


アルセストがもう僕に電話をかけれないのは悲しいよ.だってパパが家の電話の線を抜いちゃったんだ.(p.407)


 やっぱり電話は迷惑な発明だったようです.それにきっと,無くても困らない.私たちも,何とか平穏を取り戻せないものでしょうか.



 
 
 

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