« Nos papas sont copains », HIPN, vol.1, pp.386-391.
「パパたちも友だち」.ニコラとウードはクラスメートで仲良しですが,今回はパパどうしも,あわや友だちになるか?!というところで,「ニコラのおかげで/ニコラのせいで」そうならなかったという哀しいお話です.いつものようにオチがはっきりしているのですが,笑えないオチで,終わり方としては珍しいかも.ちょっと哀しいです.
イラストが1枚だけというのも寂しい.
筋肉隆々のスポーツ選手のような人に焦点が当たっていますが,主役はずっと下の方で喧嘩をしているウードとニコラです.左端3番目にはアルセスト,右端にはアニャンの姿も見えます.ですからもちろん,二人は学校で言い争いをしているのです.原因は何かというと,パパ自慢.どちらのパパが強くて優れているか争っています.ニコラの吹き出しには「僕のパパの方が〔お前のパパより〕もっとずっと強いんだ!」とあります.ということは,イラストのほとんどを占めるムキムキのお兄さんは,実はウードのパパで,ニコラの言葉を信じるなら,ニコラのパパはそのお兄さんよりさらにムキムキ???えらい戦いになっています.どうなっているのやら・・・.
ある日,お昼を食べに帰ってきたパパがウードのパパの話を始めます.なんでも,パパの会社に取引に来たそうです.最初わからなかったようなんですが,そういえばニコラの学校で,学期末の賞の授与式の時に見かけたのを想い出したのです.フランスで学期末にみんなが賞をもらえることについては(34)のお話に出てきました.
「ウードのお父さんはあなたの会社に何しにいらしたの?」ママンが聞いた.
「それがね」,パパが答えた.「顧客としてきたんだよ.なかなか感じのいい男なんだ.仕事となるとだいぶタフだがな.お互いが知り合いだったとわかると,態度が和らいでね,それで明日の朝,また来て契約するってさ.ムシュブム社長も喜んじゃってね.社長がご満悦とすると,もしかしたら・・・いやいや,ともかくね,今回の取引が成立したのは,ニコラのおかげってことだな.」
パパがそういうのを聞いて,僕らみんなで笑った.パパは付け加えて,
「お前の友だちのウードに会ったら,ウードのパパはすごく感じが良い人だって言っといてくれな.」(p.386)
やめときゃいいのに,パパの余計な一言がいつも破局を招き寄せるのです.結論から言うと,「ウードのパパはすごく感じが良い人だって言っといてくれな」の一言が,パパがママンに話した「仕事となるとだいぶタフだがな」(« quoique assez dur en affaires »)にすり替わって伝わってしまうのです.
その日の午後に学校へ戻ったニコラは,早速ウードとパパたちの話をします.最初は和やかな雰囲気でしたが,余計な一言を言うのはどうやら家系のようです.「パパとパパが仲良くなったら」いいなというウードの言葉に,ニコラが返します.
「ほんとにそうだ!そうしたら多分一緒に映画にも連れて行ってもらえるし,レストランなんかもね.そうそう,それからうちのパパはウードのパパは仕事ではだいぶタフだとも言っていたよ.」
「タフってどういう意味だい?」ウードが僕に聞いたんだ.
「僕にもわからないけどね.君ならわかるかと思ったんだけど.君のパパのことだし.」
「俺知ってるよ.」学校に着いたばかりのジョフロワが言った.「仕事でタフってのは,誰かが上手いこと言って騙そうとしても,騙されないって意味さ.前にパパに聞いたもん.パパは誰にも騙されないんだぜ.」(p.387)
ここで「騙す」と言うのはフランス語ではrouler.「転がす,転がる」という意味で用いる言葉ですが,「相手を丸め込む」→「騙す」のように使われます.roulerが元々,丸いものを転がすという意味ですから,日本語で「丸」め込むと奇妙な偶然の一致.ダジャレに使えそうです.
それはともかく,この「タフ」という語を二人が知らなかったために,ここから騙す/騙されるもんか!のケンカへと突入します.それが何故だか,イラストのようなパパ自慢に・・・.
二人はケンカしているところをブイヨンさんに見咎められ,校長室に連れてゆかれてお説教.校長先生にはケンカの原因がよくわかっていません.しかし「パパ」が関係していると知ってか知らずか,次のように言います.
「君たちが刑務所に入れられるようなことになったら,ご両親はなんていうだろうか.お可哀想に.君ら二人のために全てを犠牲にしておられるのだよ.君らにしても,ご両親は賢くって正直でお手本のはずだ.そもそも,君らはなんでケンカなんかしたんだ.答えなさい!」(p.390)
二人は校長先生に説明しようとして,またもやケンカに.仕方なく校長先生は止めに入ります.
「静かにせんか! まったく君らには参るよ.こんなたわいもないおバカなケンカにご両親を持ち出すなんて.君らのお父さんはお互いを尊敬しあっとる.うん,間違いない.立派な方々だから,私もよく存じ上げている.君らがこんな話をお家でしたら,お父さん方はいの一番に笑われるだろう.(・・・)」(id.)
それで二人は罰も受けず,仲直りして(もちろん握手)帰るのですが,予想に反して「いの一番に笑」わなかったのがパパたちでした.次の日,ウードのパパはニコラのパパの会社に電話をしてきて,「俺はどうせ情けないやつだからな」なんて捲し立て,契約しないどころか,ガシャンと切ってしまったそうです.
最初にパパは,「今回の取引が成立したのは,ニコラのおかげってことだな」と,言っていましたが,ここで「おかげ」はgrâce àで,基本的には感謝を表し,良いことにしか用いません.でも皆さんは,契約ができなかったのはニコラの「せい」と知っています.こういう時にはフランス語ではgrâce àではなく,à cause de...と言います.
ニコラのパパにしても,校長先生にしても,『プチ・ニコラ』では自信満々の大人の発言は得てして逆の結果となります.ここでも定石通りなのですが,それにしてもニコラの「せいで」パパは困ってしまいます.「社長がご満悦とすると,もしかしたら・・・」と言いかけていたパパは昇給でも期待していたのではないでしょうか.叶わなかったのは自業自得,自分の失言のせいというパターンなら笑えるのですが,今回はどうもどうではありません.それで少し哀しいのです.
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