« On a fait des courses », HIPN, vol.1, pp.368-375.
coursesというのは動詞courir「走る」の名詞形course「走ること,競争」の複数形ですが,この複数形とfaireを組み合わせると「買い物をする」という慣用表現になるというのは,フランス語の初級で習う文法事項です.でも,今回の,デパートの中でニコラやママンや係員さんが「走り」回る姿を見ると,「僕らは買い物をしたんだ」という題名に,建物内を右往左往,駆け回る様子を読み込みたくなります.そんなニュアンスをフランス人も感じているのでしょうか?
イラストの1/4はニコラの,そんな走っている姿です.
ニコラがママンと買い物をしたのはデパートで,手前右には「布」売り場があります.そうか,この頃は未だ既製品を買うよりも,お母さんが洋服やら靴下やら,身につけるものは縫って作ってくれるのが主流だったのでしょうかね.1970年代に,私の母も繕い物くらいはしてくれましたが,洋服のオーダーメイドはさすがにもう高級品となっていました.でも,ニコラのママンは「ニコラの普段着を買いに行かなきゃ」と言っていますから,きっと既製品もないではない?それとも,布地を買って注文するのかしら?色は「マリンブルー」だそうで,私などは黒とか紺とか目立たない色が好きなのできれいな服を想像してしまいますが,ニコラは「お人形さんみたいだから」嫌いで,「ステンレス製の武具」の方が好みなようです.そっちの方がよほどお人形さんみたいなんですけどねぇ.
さて1/4の上方の階段には,荷物をたくさん抱えて下向きに4人の人が立っています.そしてニコラだけが上向き,すなわち反対の方向へ進もうとしています.必死に足を動かしていますが,どうやら進んでいない模様.もうお察しのことと思いますが,もちろん,これはエスカレーターです.ニコラは下のエスカレーターを逆走しているのです.布売り場にいるママンはニコラを見ていません.お話では子供服売り場は「4階」なので,二人はエスカレーターで4階まで上がります.ここまでは問題なし.しかしそこで係員のおじさんに服の好みを聞かれたニコラは「カウボーイの格好」と答えて,それなら「6階」と聞くや否や,エスカレーターに飛び乗ってしまいます.それでママンに叱られ,呼び戻される.そこで上りエスカレーターを逆走して下りることになるのですから,1/4とは逆の方向です.
上りエスカレーターを下れなかったニコラは「5階」から下りエスカレーターに乗り直してママンの下へ.ところがママンはすでに5階へ行っていたので,ニコラは急いで後を追いかけます.すると,この時ニコラは4階から5階へ,下りエスカレーターを上ったのでしょうか.それなら,1/4とぴったりですが.でも,それなら,ママンは5階にいるはずで,4階の布売り場ではない・・・.イラストと文を行き来していたら,まるで上ったり下りたりしているように,誰がどこにいるのか,迷宮にハマり込んでしまったようです.
話に戻ると,ところがママンは5階にいない.そうです,よくあるすれ違いの劇です.マンガ版『プチ・ニコラ』でも,パパとエレベーターと階段で上ったり下りたりですれ違うお話がありました.
と,ちょっと想い出しましたが,本話とはあまり関係なさそうです.古典的なギャグの一つです.
さて,5階にはスポーツ用品コーナーがあり,係員がニコラを見つけた時には,ニコラはウードを想い浮かべながら,ボクシング・グローブをはめていました.
ニコラをようやく見つけた係員さんの不愉快そうな顔ったら(イラスト2/4).
二人は「おもちゃ売り場の階」に到着します.「落し物ー迷子」の受付の目の前でした.さてさて,これは何階でしょうか.
そこでニコラはママンを待ちながら,迷子の常連の男の子と一緒にアイスクリームを食べます.イラスト3/4です.
二人は涼し気にアイスクリームをなめていますが,背後の扉からは,疲れ果て半べそをかいたママンが現れました.「僕がアイスクリームをなめ始めたところで,ママンが駆け足でやってきたのが目に入った.」ママンは思わず「ピシャ!」引っ叩いてしまいますが,直ぐにニコラを「抱きしめ,ハグし」ます.それでフランボワーズのアイスクリームが洋服にべったり.でもママンは気にしません.よほど心配していたのでしょう.
ママンがニコラにどうして離れたのかと聞くので,ニコラは「カウボーイの服が見たくて」と答えます.
「あなたはそのために,ママンをこんなに心配させたのね?それじゃ,そんなにカウボーイの服が欲しいのね?」(p.374)
ニコラが「欲しい!」と答えると,ママンは「それなら直ぐに買ってあげるわ」,だそうです.全国の子どもの皆さん,この手です.ニコラは大喜びでママンの腕に飛び込みます.もちろん,2個目のバニラ味のアイスクリームを手にしたまま.「洋服にいっぱいフランボワーズとバニラがついていても」,「すっごく最高」のママンだそうです.
それでカウボーイの格好をして帰宅すると,呆れるのはパパ.4/4です.
マリンブルーの服はどうなったのでしょうか・・・.
パパ曰く,「次はデパートには俺が連れて行くから」(p.375)だそうです.
喜んだのはニコラ.
いいね,いいね.だってパパが一緒なら,きっとウードとのケンカ用ボクシング・グラブを買って帰ってこれるからね.(p.375)
アイスだらけのママンと,無駄な散財に呆れるパパ.親の心,子知らず.でも,デパートには欲しいものがたくさんあって,迷路みたいで楽しいし,アイスクリームも食べれて,赤い風船がもらえて,カウボーイの服も買ってもらえる.子どもには,大変魅力的なところのようです.そういえば,さくらももこさんの『ちびまる子ちゃん』でも,デパートってそんなところだったような.私はもうちょっと後の世代かな.
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