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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』(133)

« Le médicament », HIPN, vol.1, pp.360-367.

 習慣とは怖いもので,何かにつけ慣れてしまうと,思わぬ反応に対応できず,落ち込んでしまう.よくあることです.私なんて年中,それ.特に歳をとった人,偉い(?)人,権威のある人,威張っている人なんかには,何かと「想定外」がつきものです.予想もしなかった事態に直面して,慌てふためき,相当おかしな決定をしちゃったり,自分のミスを隠したり正当化したり.小さい頃に,間違いは認めなさい,ちゃんと謝れる人になりなさい,と習わなかったのかな?なんておじさんで,世の中溢れています.何事にも,慣れと自信と,そして謙虚さがいるのでしょう.

 ちょっと説教くさい始まり方をしてしまいましたが,今回は何でも知っているはずのお医者さんが,ちょっとだけ傷つけられ,ほんのちょっとだけ悩むお話です.それも,相手はニコラでした.

 「お薬」の題名で,その横に聴診器をつけたお医者さんの絵がついていれば,間違いなくニコラが学校を休んでお医者さんに行く話と想像がつきます.お医者さんの絵は1/4からの抜粋です.


 ニコニコしていて,優しそうなお医者さんですが,上半身裸になったニコラは涙を流しています.子どもはお医者さんに行くのを嫌がるものなのでしょうか.私は,歯医者に行くのは今でも嫌ですが.2/4もやはりにこやかな先生と泣き続けるニコラの図です.




 ニコラはお医者さんに行くと聞いて行く前から大泣きし,行ってからも薬を飲むと聞いて,また大泣きします.そんなに泣いたら,そこらじゅう,水浸しになっちゃうよ.


「先生,よくがまんできますわね」と,ママンが言った.

「いやいや,われわれは慣れてますからな.」先生がドアのところまでついてきて言った.「何年もやってますとな,子どもたちのことなら何でもわかるようになるものなのです.・・・おっと,ぼうず.泣くのはおよし.さもなきゃ注射だぞ!」(p.361)


 あ〜あ,先生,言っちゃいました.「子どもたちのことなら何でもわかる」(connaître à fond ces petits bonshommes).自信過剰な発言をすると,必ずしっぺ返しを食うという『プチ・ニコラ』の法則を知らないんですね.『プチ・ニコラ』を読んで,勉強してほしい大人の一人です.

 最初は飲み薬を嫌がっていたニコラですが,味もしないし,コップに薬を入れるスポイトがカッコいいし,飲めば大人扱いされるし,おまけに映画にも連れて行ってもらえるかもと,いいこと尽くしで,ニコラは飲み薬が大好きに.ほんとうに子どもなんて分かりません.いや,大人だって同じか.「何でもわかる」なんてなめたことを言ってはいけないのです.

 ニコラは飲み薬を学校に持っていって見せびらかそうとしますが,それは流石に止められて,クラスメートたちとは薬談義でがまんします.イラスト3/4です.


「それで,薬は不味かったの?」リュフュスが聞いてきた.

「ひどいなんてもんじゃない.でもな,僕にはなんてことなかったな.僕はすっごく勇気があるからな.大人用の薬なんだぜ,青い瓶に入った,ね.」

するとジョフロワが言ったんだ.「大したことないな!去年飲んだ薬は,お前のよりずっとずっとひどい薬だったぜ.ヴィタミンっていうんだ.」それで僕が返した.

「へぇ,そうかい?でもな,お前の薬には,スポイトがついていましたかってんだ!」(p.365)


 大人の世界への憧れでしょうか.「勇気がある」とか,「大人用」というとスイッチが入っちゃうんでしょうね.側で聞いていると,不味さ自慢なんてしなきゃいいのに,と.イラストの瓶にも,「ゲキ不味(マズ)の水薬.胸がムカつくような味.1時間ごとにお玉一杯」と,書かれています.すごい薬だ・・・.絶対飲みたくない.それにお玉一杯なんて,絶対無理!4/4も同様です.


 今度は,「お薬.恐ろしくマズくて,イヤな味」.不味さで競わなくても・・・.それに,本当はニコラ,気に入っていたはずじゃないですか.嘘をついてまで,大人自慢したいものですかねぇ.

 木曜日に,ニコラとママンは再検診というか経過を見せに行きます.今度は「怖くて」泣いていないニコラに,「そうそう,そんな君に会いたかったんだよ.」と,やっぱり優しくて上機嫌な先生.ところが,もう大丈夫,お薬もいらないなと言われた途端,ニコラは泣き始めてしまいます.


先生が僕に言った.「いいニュースだよ,大人君.もう大丈夫.薬も飲まなくていいんだ.」

それを聞いて,僕は泣き出した.先生はドアまでついてきてくれなかったよ.

 先生は机に向かって座ったまま,何も言わなかったんだ.(p.367)


 悩んでください,先生.もう一度書きます.あ〜あ,何でも知っているなんて,言わなきゃよかったのに.子ども心は,いえ,他人の心はもっとずっと複雑なんです.

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