« Le croquet », HIPN, vol.1, pp.324-329.
なるほど,「クロッケー」という名のスポーツですか.クロケットかと思っていましたがクリケットと混同していました.それでクロケットには別に料理があって,こちらはフランス語のcroquer「パリパリと音を立てる,齧る」を語源とする語らしく,日本のコロッケはクロケットが訛ったものだそうです.脱線しましたが,クロッケーは日本のゲートボールの原型となるスポーツで,Wikiさんによると,1900年のオリンピックで正式種目だったそうですが,どうも記述を読んでいる限りでは,何処でどれほど盛んなスポーツかはよくわかりません.確かに,ゲートボールは日本で流行した・・・とか,高齢者がよく公園で・・・というのはよく知られているところですが,何処でどれほど盛んで,それを嗜む人がどれほどいるかなどはあまりわからないかも.それはともかく,今回のお話では,ニコラ家の隣人のブレデュールさんがクロッケー一式を自慢げに持ってきて,あまりそうも聞こえませんでしたが,パパに一緒にやろうと誘っているらしいので,フランスでは1960年代にはクロッケーがある程度は嗜まれていたこと,一式揃えているのを人が羨むような品であったことは想像できます.
今日はね,僕,とってもおかしな新しいゲームを覚えたんだ.クロッケーっていうのさ.(p.324)
「とってもおかしな」(terrible)は元々,terreur「恐怖」に由来する言葉ですから「恐ろしい,凄まじい」の意味なのですが,口語では大体「すごい,素晴らしい,恐ろしいほどよくできた」と,肯定的な意味で用いられます.反対に,つまらないものの場合には,pas terribleという表現がよく使われます.ニコラは好きなこと,モノによくつけています.ですから,ニコラはクロッケーがよほど面白かったというのでしょう.さて,どんなゲームだったのでしょうか.
いつもパパとケンカばかりしているお隣のブレデュールさんが大きな木箱を抱えてニコラの家の庭に入ってきました.中にはクロッケーのセットが入っていましたが,ニコラはクロッケーがどんなゲームかわかりません.それはともかく,ブレデュールさんは,クロッケーを自慢し見せびらかしつつ,それでも一緒に遊んでほしいようです.それならそうと素直にいえば良さそうなものですが,いきなりゲートを立て始めたので,パパが怒ります.
「おい!家の芝生に穴なんて空けるなよ.」
「芝生だと?笑わせるなよ.せいぜい,雑草がところ構わずぼうぼうと生えているってところだろう.言わば,空き地ってところだ.」と,ブレデュールさんが返した.(p.324)
「空き地」と聞いて,空き地にはこだわりのあるニコラが心の中で反論していましたが,ブレデュールさんもわざわざケンカを売るようなことを言わなくても.案の定,パパはお前なんてお呼びでない,穴なら自分の家の庭にあけろ,犬がいたらけしかけてやるところだと,反論します.でもそう言ってブレデュールさんを追いやっておきながら,パパは「頭を掻き掻きぼうぼうの草を眺めて,「来週には手入れをしなくちゃなぁ」と呟いていますから,ブレデュールさんの悪口もまんざら的外れではなかったようです.
さて,なかなかクロッケーが始まりませんが,いろいろぶつぶつ悪口の応酬があった後で,二人はいよいよゲームを始めます.相変わらずケンカのようにして,売り言葉に買い言葉で始めたものですから,ニコラは入れずに一対一の対決となりました.それでパパは,「お前は次回にしなさい.今回はじっと見ていてよく覚えるんだよ.ブレデュールさんがボールをすっごく遠くに飛ばしちゃったら取りに行っておあげ.ブレデュールさんから100フランせしめたら,お菓子を買ってあげるからね.」(pp.325-326)と,ニコラを宥めます.KYなニコラは後半の皮肉も理解せず,言われたように「じっと見ていてよく覚え」ようとするわけです.覚えた後のニコラの感想が冒頭の言葉となるのです.
二人はゲームを開始します.イラスト1/2です.
ブレデュールさんが腰をかがめて,ボールをゲートに通そうとしているのに対し,パパは素知らぬ顔で,左足でボールを蹴り,ゲートを通したようです.さて,ニコラはどちらを観察しているのでしょうか.
クロッケーってのは,おっかしなゲームだよ.ルールがなかなか覚えられないよ.(p.326)
これがニコラの最初の感想です.
まず初めに,どちらが先にプレーするか,ケンカして決めるんだ.それで,「それじゃまずはだな,俺から始めるぞ.それが嫌なら一切合切箱に戻してしまうからな.そしたらお前は家に帰って卵でも焼いとけ」と,宣言した人が始めるんだ.(p.326)
つまりニコラはルールを覚えようとしているのですが,観察そのまま=ルールと思い込んでいるのです.「それじゃまずはだな・・・」と,最初の宣言をしなきゃいけないなら,確かに「おっかしなゲーム」ですし,そのまま言わなきゃなんていうのでは,「なかなか覚えられない」でしょうね.
ニコラの目の前では,激しいバトルが繰り広げられます.イラストの2/2です.
文字通りの死闘.こりゃ,ルールを覚えるのが難儀です.ニコラが手に持っているのは,「ルール・ブック」.木槌(マレット)で殴り合うなんて,何処にも書いていないでしょう.パパとブレデュールさんの観察,ルール・ブック,観察,ルール・ブック・・・と,目の前の展開と本の知識を照らし合わせても,ニコラはまるで理解できません.最後にニコラはポツリと.
クロッケーってのはわからないことでいっぱいだ.例えばね,ゲートとボールはなんの役に立つんだろう.(p.329)
二人でチャンバラしてますからね.イラストを見ている限りでは,確かにボールもゲートも何の役にも立っていません.それでもニコラはそれなりの結論に達します.
でも,そんなこと,どうでもいいんだ.なくていいんだよ.何とか木槌は見つけてさ,明日学校で,みんなにクロッケーのやり方を教えてあげるんだ.
そうしたら,休み時間には,すっごく楽しめるからね.(p.329)
木槌でえいっやぁっとやり合う.それがクロッケー・・・という具合に定義が変わってしまいましたが,休み時間は十分に楽しめますから,それでいいでしょう.「パリパリいうもの」というフランス語が「コロッケ」という日本語になり全然別の食べ物となっても,みんな大好きで,喜んで食べてますから.
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