« Je suis le meilleur », HIPN, vol.1, pp.317-323.
「僕が一番」とか「一等賞!」とか?ともかく,ニコラが書取りの試験で,7つしか間違えなかったので,クラスで「一番」をとったそうです.あんまりピンときませんが,相当凄いことらしいのです.では他の人は何点くらいとったのかと気になるところで,比較対象はもちろん通常なら「クラスで一番」のアニャンで,7つ半のミスでした.アクセント記号を落としてしまうと「半点」引かれるからです.フランス語では同じような綴り字でも,ouとoùは意味が異なりますから,仕方ありません.1枚目のイラストは教卓で点数をつけている担任の先生の図ですが,これは2枚目(実質1枚目)からの抜粋です
フランスは20点満点方式で,先生は辛めの点数を出しますから,12点というとかなりの高得点です.みんなの視線がニコラに集まっています.やや変な目のような気がします.アルセストは横で何か食べています.一番前の席でニコラを振り返るアニャンが悔しそうです.みんなの顔の向きと鼻の形だけで,読者の視線をニコラに注目させるのは随分と凄いと思います.
ニコラが一番というのは確かにかつてないかも.7番とかあったような気がしますが.それでニコラが鼻高々になるのも無理はありません.何せ,アニャンに勝ったんですから.
朗報を持って,家路を急ぎます.いつもの仲間と,学校帰りにパン屋を覗いてチョコレートを買うというのも今日はキャンセル.アルセストが話しかけても無視.「何だよ.書取り試験で一番だからって,もう俺たちと遊ばないっていうのかい」なんて嫌味もスルー.なぜなら,家でチョコレートケーキと「スケート靴」の交渉をしなければならないからです.
まずはママンへの売り込みから.3枚目のイラストでバッチリ.これでデザートのチョコレートケーキは確保できました.ママンにしてみれば急な予定変更ですが,仕方ありません.
あとはスケート,すなわちパパとの交渉です.これがうまくいかない.仕事で疲れて帰ってきたパパはいつもの肘掛け椅子に腰掛け,新聞を読み始めてしまいます.「一番だったんだ!」という主張も聞いているのかいないのか,気のない返事を繰り返すばかり.ママンもスケート靴の約束は覚えていませんでした.
「スケートって何のこと?」と,ママンが聞いた.それでパパが答えて言った.
「俺が書取りのご褒美に,スケート靴を買ってやらねばならんそうだ.」
「頑張ったんですから.」と,ママン.するとパパがこう返した.
「ニコラは億万長者のパパがいてラッキーだな.するとどうだ?綴り字の間違い7つに対して,黄金のスケート靴のプレゼントをするというわけだ.それも喜び勇んで,ね.」(p.322)
もちろん,パパには「黄金のスケート靴」どころか,プレゼントをする気は全くありません.クラスでトップといったって,何で7つも間違っているというのに,一々そんな物を買ってやらねばならんのか.そんなところでしょう.つまり,「ニコラのパパは億万長者でもあるまいし,綴り字をそんなに間違っているのに,一々プレゼントなんかしてられるか」というところを皮肉に表現したわけです.読者にはお分かりですよね?ところが相手はKYなニコラですから,これをそのまま字義通りに受け取ります.「パパが億万長者だなんて知らなかったよ.」そうじゃないだろっ!て.
結局スケート靴は買ってもらえず,ママンはチョコレートケーキを作っていたために,パパのシャツにアイロンかけるのを忘れてしまい,パパは怒鳴り,ママンは泣き,ニコラも悲しくなると,「クラスで一番」のおかげで散々な目に遭います.ついでに,クラスメートともギクシャクしましたし.
ところが次の日,算数で0点をとってきたのに,パパは叱りもせず,映画にまで連れて行ってくれました.できない子はかわいいというやつでしょうか.無闇に怒鳴らず,慰めようとしてくれているのです.優しいパパ.
でも,クラスで1番の時には不機嫌で,ビリの時にご褒美をもらったことになるわけで,ニコラには訳がわかりません.そこで仲直りしたアルセストの助言.
学校の帰り道にチョコレートを買いに立ち寄るパン屋さんでアルセストが言ったんだ.
「パパとママンっていう人種は,理解しようとしても無駄だよ.」(p.323)
大人は判ってくれない.子どもは大人に振り回されるのです.
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