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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』(124)

« Maman va à l'école », HIPN, vol.1, pp.292-299.

 題名の脇に5枚目のイラストから抜き出した,ママンが顔に手を当てて泣いている姿が貼り付けてあるので,「ママン,学校へ行く」という題名と合わせて,ニコラが何かしでかしたのかと思いましたが,そうではなく,「学校」は日本でいうところの「自動車教習所」,すなわち自動車学校でした.それにしても,ママンが学校で泣く姿は見たくないですね.

 ある日ママンは一念発起.パパを説き伏せ,自動車の免許を取ることにします.


「もし私が運転できれば,夕方,あなたを会社まで向かいに行けるでしょう?そうしたら,あの満員のバスに乗らなくてすむわ.あのバスのせいであなたはあんなに疲れているのですもの.それにニコラだって,雨の日には私が学校へ連れて行けるし,そうすればもう私たちにもアンギーナ〔喉頭炎,扁桃腺の腫れ〕をうつされないし.」(p.293)


 実は最後の「アンギーナをうつされない」(« il ne nous ferait plus toutes ces angines »)がよく分かりません.アンギーナというのが喉の痛みを伴う病気(「喉頭炎」)なのですが,ニコラが学校の帰りにもらってきて,家中みんながアンギーナに罹ったということなのでしょうか.

 ここでニコラの,クラスメートも一緒に連れて行けるかな〜?という質問に,ママンはかなり調子良く「もちろんよ!」と二つ返事.




 ママン,決死の説得.お金をかけたくないパパの攻防.そしてニコラの妄想.友だち,みんな一緒に登校しています.どう見ても定員オーバーだろっ?!それにそんなに交通量の多い通学路なのか?

 妄想の傍,まだまだ説得は続きます.


「もちろんよ!買い物をするのだって,必要なものを1週間分ぜんぶ一回で買うことができるでしょうし,ヴァカンスに出る時だって,昼食後にあなたが眠たくなったら,いいかしら,私がハンドルを握るわ.いいかしら,それに私,こう見えて結構慎重なの.分かります,聞かなくてもあなたの返事は分かりますわ.」(p.294)


 リュフュスのママンの例を出して支援したニコラに,デザートのチョコレートケーキのお代わり.帰りのバスの混雑を想像して,ついに折れたパパにもお代わり.ついでにニコラにももう一度お代わり.ついに陥落です.やりました,ママン!

 ところが次の日の夕食時にママンの目は「真っ赤で膨らんでいた」.もちろん泣き腫らした後のことです.何が生じたかというと・・・.イラストの2枚目.


 ニコラはママンの目の原因を知らないので,同乗していなかったはずですが,まぁいいでしょう.ニアミスです.ママンは午後中,パパの指導を受けていたようです.そういえば映画版でもそんな厳しいパパの指導の場面がありました.3枚目のイラストも,角度を変えて同じ場面を表しているようです.


 2枚目と3枚目で,ニコラの乗っている位置が変わってるし.

 それで結局,ママンは教習所へ行くことになりました.うまくいく日もあればいかない日もある.その度に,「夕食の用意ができていない」など,ニコラ家も大きな影響を被るようです.


 夜に,ママンは坂道発進ができなくて泣いていたんだ.パパが怒鳴り始めて,「もうたくさんだ!ただでさえ教習所通いでお金がかかっているのに,家の生活もめちゃめちゃじゃないか.もう何もかもやめてしまえ!」(p.295)


 坂道発進の図は最後のイラスト(5枚目)で,先に触れたようにママンが泣いているところが描かれています.


 坂道発進? これを読んでいる人には説明が必要かもしれません.1990年代の半ば頃から,いわゆる「オートマ」自動車が普及し始めて,今の自動車はほとんどがオートマですから,坂道の途中から出発しても何も問題がありません.しかしそれ以前は,「マニュアル」,すなわち手動で変速装置を操り,足でクラッチを踏んでいた車しかなかったのです.私が免許をとった時にもやはりマニュアル用で取得しました.すると,坂道で発進するときには,左手で変速装置を入れ,次にサイドブレーキを引いて,そろそろと降ろしながら,左足のクラッチを上げ,同時に右足のペダルをやはり少しずつ押して・・・という具合に,えらく複雑な動作が必要だったのです.これが鬼門.慣れが必要です.まず一回ではできません.このお話には出てきませんが,映画版の最後の方でママンが最終の路上試験を受けている際に要求される縦列駐車.これがもう一つの鬼門です.

 それはともかく,この最後の位置に5枚目のイラストを入れては,何が何だか分かりません.

 話を戻しましょう.それで,試験までに残すところ,後わずか1週間.パパも,ママンもだんだんピリピリしてきます.パパに急かされ頭が真っ白になったママンは,パパに質問された標識が何か答えることができません.それで横からニコラが答えちゃうと,パパはニコラに「お前には聞いてないんだ!」と,怒鳴ります.イラストの4枚目は多分その図でしょう.


 それぞれ別の理由でイライラしている二人が一緒になってニコラに八つ当たりしているようです.もちろんニアミス.でもピリピリしている雰囲気は伝わってきます.

 それでもなんとかかんとか,ママンは無事免許を取得できました!

 ニコラが学校から帰ってくると,パパとママンは仲良く笑いながらアペリチフを飲んでいました.何でも20人が試験を受けて,9人しか通らなかったようです.ママン,おめでとう🎉ございます.それでパパも一安心.


「やれやれ,何はともあれ,ようやく終わってくれてよかったよ.なあ,ニコラ?」

「ほんとに,ほんとに!」それを聞いてママンが言った.

「私もよかったわ.私がどれだけ苦労したことか,二人にはわからないでしょうね.でもそれも終わり.一つ言わせてね.私,金輪際車なんて運転しないんだから!」(p.299)


 そんなに大変だったんですね・・・同乗できないようですが,同情はします.それにしても,かかったお金は別としても,あの最初のうちに並べ立てた理由は何だったんでしょうねぇ・・・.


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