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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』(120)

« La bonne surprise », HIPN, vol.1, PP.264-271.

 フランス語のsurpriseは英語経由の日本語で言うところの「サプライズ」.つまり,「驚き,思いがけない出来事」から「〔思いがけない〕プレゼント」の意味となります.それに形容辞のbonneをつければ,「良い驚き」となりそうなものですが,さにあらんや,「ひどい,激しい」などの悪い方の意味でも使います.ですから,bon, -neは程度の大きさを表すと考えて良いでしょう.「相当な,かなりの」などです.と言うわけで,題名は「びっくり仰天」くらいでどうでしょうか.

 『プチ・ニコラ』ではパパの目論見は裏目に出るし,場合によってはしっぺ返しさえ受ける.こんな法則があります.ほぼほぼ鉄則と言えるでしょう.今回も,まずは題名を見て,bonneを良い方の意味にとり,冒頭の「パパがニコニコしながらうちに入ってきた」を読むと,あぁ,最後はパパが悪い意味で「驚き」,何か失敗してガッカリするお話だろうと思いました.どうでしょうか.

 ニコニコしながら入ってきたパパは,ママンとニコラに,あっと驚くような「プレゼント」を持ち帰ったようで,二人に窓から外を見るよう促します.すると,ママンの視界に入ったのは・・・1枚目のイラストです.


 もちろん,駐禁切られて抗議するパパの図です.でもパパが用意した最初の「驚き」はお巡りさんとパパの背後でピカピカ光っている新品の自動車でした.実は,これが3枚目のイラストにあたります.




 新品の自動車を,家の中から見える位置にと,わざわざ道路に停めて家に入るパパの図でした.これが先程の2枚目の前にこないと,流石に流れがわかりません.

 せっかくの「プレゼント」で家族を「驚かそう」としたのに,罰金くらって,パパは大いに驚いています.まさに,mauvaise surprise悪い「驚き」あるいはいらない「プレゼント」です.

 すぐに抗議しに行くのですが,お巡りさんはパパの言うことなど聞いてくれません.否,正確には聞いて間に受けてくれるのですが,違反は取り消してはくれませんでした.それでパパが何と言ったかというと,「道路交通法ならよく知っているよ.もう運転始めて何年にもなるんだからな.言っておくがな,俺には身分の高い友だちがいるんだぞ!」(p.264).そんな強がり言うものではありません.案の定お巡りさんは,「あれま,そうですか.それじゃあ,身分の高い方々が,この罰金分を貸してくださるだろうね.お支払いをお待ちする間,どうぞ私からよろしくお伝えください.」(p.265)取り尽くしまもありません.でも,これはパパが余計なこと言ったとしか言いようがありません.

 それで「顔を真っ赤にして」帰ってくるなり,今度はママンに怒られます.高い買い物なのに,相談されなかったことが気に食わないようです.喜ばせるはずの「プレゼント」(「驚き」)が,ここでも「悪い驚き」に変わってしまいました.2枚目のイラストです.


 口論する二人の背後には相変わらずピカピカの車が光っています.

 次はこの騒ぎを聞きつけて出てきたお隣のブレデュールさんとのケンカです.


 ニコラは引き続き,嬉しそうに新車を眺めています.それにしてもパパもついていません.みんなを驚かそうとしたのに,予想もしなかったような反応ばかりで,ただひたすら驚くばかりです.

 ブレデュールさんとケンカしている間に,ニコラは車に乗り込みます.それを見咎めたパパが,ケンカの余勢でしょうか,つい「ニコラ!」と怒鳴ってしまいます.するとびっくり驚いたニコラが(もちろん,予想もしなかった驚きです),はずみでクラクションを鳴らしてしまいます.それでニコラが泣いて,何事かと出てきたママンも泣いて,おまけに先程のお巡りさんが戻ってきて,クラクションを鳴らしたと言うのでまたもや違反切符を切ります.



 お巡りさんの得意げな顔ったら.新品の車にもたれたパパのガッカリした顔ったら.加えて,まだ車をどかしていないと,さらに違反切符.「まだ車庫の出入り口に停めてらっしゃる.お見事ですな.身分の高いお友だちがたにお話しするネタに尽きませんなあ.」(p.271)もうこれ以上の驚きはないでしょう.

 夕食の時間になっても,パパは新車につきっきりで車庫から出てきません.


 哀愁漂う独りぼっちのパパです.帰ってきてすぐにここに入れておけば,違反切符は切られなかったし,ブレデュールさんにも見咎められず,ケンカにもならなかったはず.そんな予期せぬ驚きと後悔の日の終わりです.それで心を痛めたママンとニコラが迎えに行きます.ママンは車の色が気に入らないと貶していたのですが,さすがに折れてパパを慰めます.ニコラはブレデュールさんが投げつけた,「時速20キロで走っても,こんな車じゃ,曲がり角で横転だ!」(p.268)を受けて,「曲がり角で横転したら,きっと面白いよ」と慰めます(?!).さすがKYニコラ.皮肉も遊びに変えてしまいます.


それでパパは僕らがパパのことを許してあげたのがわかって,すっごく喜んだんだ.(p.271)


 これこそ,嬉しい「驚き」だったことでしょう.ママンとニコラからの「良いプレゼント」でした.


 どうもゴシニさんはこのsurpriseという単語が好きなようで,よく何十にも意味を重ねた言葉遊びが出てきます.フランス語で読むときには,こういう掛け言葉がとにかく面白いのですが,フランス語以外の言語に訳すときには,苦労させられます.

 イラストについて言えば,今回は6枚もついていて豪華なのですが,うち5枚は構図が同じで変化に乏しい.構図が同じと言うことは,マンガのように展開をイラストで表そうとしたとも言えるでしょう.確かに1〜5まで並べてみると,今回の事件の推移が把握できます.それで車庫内で独りタバコをふかす6枚目のパパがなおさら哀れに見えるとも言えます.でもそれだと,1枚にたくさんの場面を盛り込むいつものサンぺの特徴が出ません.推量の域を出ませんが,このお話はかなり初期に掲載されたものかもしれませんね.

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