« Je fume », t.I, pp.94-102.
題名は「僕,[タバコを]吸うんだ.」と訳せてしまいそうですが,見開きになっている文庫版の右側のページには,1枚目の絵がすぐに目に入ります.
アルセストがくわえているいるのは,おそらく私たちがすぐに想像した「タバコ」ではなくて,「葉巻」だということがわかります.それにしても,ニコラたちの歳に鑑みて(お話には彼らの年齢は決して出てこないのですが,まぁ,通常は10歳くらいかなと,読者はみんな想像しています),なんて物騒な題名,物騒な絵でしょう.しかもどうやら1本だけマッチが飛び出たマッチ箱が目の前に!
それでページをめくると,いよいよ物騒な・・・を通り越して,見てはいけないものが!あのかわいらしいニコラとアルセストが葉巻を吸っているではありませんか.
放課後に遊ぶならここ.いつもの空き地.ぶっ太い葉巻からは煙がモコモコ立ち上っています.
これはマズい!小学校低学年にしてすでにお不良さんたちの仲間入りを果たしてしまったのでしょうか.
3枚目は葉巻を口にポーズをとるアルセスト.ニコラも脇で嬉しそう.
ところが右側のページでは,モクモクと煙を出した葉巻そっちのけで,倒れたアルセスト,そしてやはり目を大きくみ開いて空き地から帰ろうとするニコラ.ところが文章の方が,この絵の展開のスピードについていけません.アルセストが倒れ,ニコラが帰ろうとする4枚目の下の文章は,「葉巻」はあるが,火を探す二人がタバコ屋さんでマッチを買えなかったところ.このあとアルセストもニコラも葉巻なんかに興味がなくなってしまって,もう帰ろうとニコラ,おやつにババ(イースターのお菓子)があるんだとアルセスト.ところが帰りかけたところで,偶然にマッチを拾う.二人はようやく「吸」える.文章はここでようやく1枚目の絵にたどりつくのです.それで多分,1→3→2→4→5の順となるでしょうか.
最後の5枚目は葉巻を吸って気分が悪くなり家に帰ったニコラがベットに倒れて目を回している場面です.
折しもパパは居間でパイプ・タバコを吸っていました.帰ってくるなり「煙が・・・」と言いかけてニコラが倒れてしまいますから,ママンはパパのタバコのせいにして禁煙を宣告します.絵ではママンがパパの口からパイプを取り上げて窓から捨ててしまう様子が描かれています.パパの口からママンの手を経て窓の外へとパイプが弧を描いている様子がとてもリズミカルです.悲しそうですが,でもニコラを想えばこそと諦めの表情をしたパパ.パパの足元の絨毯とニコラのベット脇の(おそらく)鉄道模型のレール,パイプの軌道が相乗効果を生んでいるようです.
というわけで,このお話の最初に目にした言葉,「僕,吸うんだ.」はニコラと葉巻の一回きりの出会いを表しているのか,それとも,パイプを取り上げられたパパの嘆きの言葉,「私,吸うんだ」本当はね,でも取り上げられちゃったよ・・・,このどちらを指すのか,迷うところですよね.
この文章の含蓄と説明的であるのに説明でない絵のおかしさが『プチ・ニコラ』の魅力でしょう.
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