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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』(117)

« On me garde », HIPN, vol.1, pp.240-245.

 「誰かが僕を守る,預かる」ですから,「僕のお守り」でどうでしょうか.実際には「僕」ではなく,僕のお守りに来たおねえさんを僕がお守りするお話です.

 今回はイラストが3枚付されているのですが,今回の2枚の位置には大いに不満があります.オチと繋がっているだけに,この2枚目は3枚目の位置に置いて欲しかった・・・.この点,後で見ることにしましょう.

 パパとママンがお友達のところで夕食をとるので,ニコラはお留守番.「楽しんでくれたら嬉しい」なんて言いながら,それでもチャ〜ンスとばかりに,泣いてごねて飛行機をゲットします.「それなら,ガッテン.」相変わらずのちゃっかりぶりです.

 それはともかく,一晩だけですが,お守りをしてくれる「ブリジット・パストュフ」という名のおねえさんが来ました.だいぶおしゃべりな人のようですが,ニコラにはお姉さんの言葉がよく理解できません.


「え〜と,え〜とねぇ,ニコラちゃん,学校でちゃんとお勉強してる?」おねえさんが聞いてきた.おかしなことに,僕のことを少し怖がってたみたいなんだ.

「まずまずかな.おねえさんはどう?」僕が返した.

「私は大丈夫.でも地理が苦手だわね.それでここへ来るのに,キョーカショを持ってきたってわけ.骨身惜しんじゃダメというわけ,今はヒッキかもくだから,バックを乾かしてダメにしたくないのよ.」おねえさんはとにかくおしゃべりだったんだ.何を言っているのかよくわからなかったのは残念だけどね.(p.241)


 だいぶ捲し立てている様子が伝わってきます.それに10歳の子ども向けの話し方ではないのです.「骨身惜しんじゃダメというわけ」(« il faut que je bûche »)は,文字通りには,「猛烈に勉強しなくてはならない」という表現です.bûcherという動詞は元々,bûche「薪,切り株」に由来し,「薪」などの「角を切り落として丸くする」というという意味から,「猛烈に勉強する」という意味が派生したようです.それで「骨身を削って〔努力する〕」という日本語の表現を当ててみましたが,隠語感出てますか?「ヒッキかもく」(« matière d'écrit »)は隠語でもなんでもありませんが,筆記と口頭の違いのわかっていない子どもには理解が難しいでしょう.「バックを乾かしてダメにしたくないのよ」(« je n'ai pas envie de sécher au bac !»)では,sécher「乾かす」の俗語表現「だめになる,質問などに答えられない」という意味が用いられています.俗語であること,それにbac=baccalauréat「バカロレア,大学入学資格試験」がニコラに通じるはずがない.それこそ,おねえさん,「バッカ」じゃないのかと言いたくなりますが,ニコラがここで完璧に理解できてしまったら,語り手の設定としてとんでもない間違いを犯すことになります.そこで,ゴシニは「何を言っているのかよくわからなかったのは残念」と言わせているのですが,さらにダメ押しでもう一言,「学校ではおねえさん,〔地理だけじゃなくて〕文法も苦手なんだろうね.」と,すかさず観察的皮肉を残しています.さすがニコラ,やられたらやり返します.

 さて,ママンが言い残していったように,15分だけ起きていて,おねえさんをトランプで負かしてやったあとはすぐにベットに入りますが,どうにも寝つけません.それで「喉が渇いたことに」(j'ai décidé d'avoir soif.)しました.寝れないだけに,冴えてます.水道の蛇口が壊れていることを知らなかったおねえさんがもちろん水道を捻りびしょ濡れ.パパがまだ直している途中だったそうです.これがイラストの1です.

 

 おねえさん,すごい濡れ方.あとで床も拭かなきゃならんでしょう.ニコラは「あんまり喉も渇いていなかったので,飲むのが辛かった」そうですが,でも退屈を紛らわす目的は見事達成というわけで,にこやかな顔でおねえさんを迎えています.ここでもニコラは観察眼鋭く,というよりおねえさんの言葉尻をつかまえて,「でもおねえさん,さっき居間では『バック乾かしたくない』って言っていたのにな.」と,素知らぬふりしてちくりと嫌味で攻撃しています.もちろん,先ほどの「ダメにする」と「乾かす」に対する無邪気な?勘違いです.

 まだ眠れないニコラはおねえさんにお話をしてとせがむのですが,そのお話が女の子が映画に出たくて,プロデューサーと出会って,スターになって・・・とあまりに退屈で,すっかり寝てしまいます.これはおねえさんの(不名誉な)勝利です.ところがようやく寝たところで電話が鳴って起こされてしまいました.

 目の冴えてしまったニコラはおねえさんに質問したり,ケーキを食べさせてもらったりしますが,どうにも眠れません.特にケーキを食べた後すぐに寝ると「悪い夢をみちゃう」(p.244)とかで,その夢の内容を話したら,今度はおねえさんがビビってしまって,一人でいることができなくなります.その夢とは,「夜中にね,家に泥棒が入って,一家皆殺しにされるんだ.一味はみんな体が大きくて凶悪で,居間の窓の締まりが悪いからそこから侵入してきてね.あ,居間の窓はパパがまだ直していないんだ.それで・・・」というもの.実に真に迫っています.ニコラ,わざとやってるのか?!特に「居間の窓の締まりが悪いから」なんて現在形だし,「パパがまだ直していなかった」なんて聞くと,おねえさんは否が応でも,先の水道の蛇口事件を想い出してしまうし.

 怖くなったおねえさんはニコラを寝かせずに,一緒に居間にいて,別の話を聞かせてほしいと頼みます.小学生の読み聞かせですか.立場が逆転してるだろっ!これが3枚目のイラストです.


 ニコラのお話を聞いていて,おねえさんはうとうと,ついに寝てしまいます.すかさずニコラは,「お話をやめて,おねえさんの分のケーキを食べながら,おねえさんの地理の本を眺めていたんだ.そこへ,パパとママンが帰ってきた.」(p.245)タイミングは狙い澄ましたようにバッチリです.ニコラが計算していたみたい.「パパとママンは僕を見て驚いていたようだった.」(id.)

 それでニコラは一人部屋に行って寝始めるのですが,下の「居間ではパパとママンとおねえさんが大声で話をしているのが聞こえた.」(id.)


 あぁ,もうっ!外出前は「それならガッテン」とOKしたけど,もうダメだ.

 パパとママンにはちゃんと外出してほしいよ.とにかく,静かに眠らせてくれないかな!(id.)


 と,まぁ,3人の言い争い(内容は想像するしかありません)のせいで,ニコラが眠れない.ちゃんと寝るんですよなんて,外出前の約束はどうしたんだとばかりに,怒るニコラ.これが2枚目のイラストなんです.


 おねえさんの分のケーキも食べたばかりだし,悪い夢見そうな感じです.そうか,それなら寝られない方が良いのかも.寝たいのか,眠らない方が良いのか,どっちなんでしょうかね?

 それにしてもバイトのおねえさん,散らかすだけ散らかして,本を読んでもらって,すやすや寝ています.ケーキも食べたことになっているし(ニコラの空いた皿が置いてあったはず).それで僕のお守りをしてくれたんだか,お守りをしてらいに来たんだか,どちらでしょうか.

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