« La fête foraine », HIPN, vol.1, pp.204-211.
「お祭り」と訳しましょうか,それとも「縁日」とか? 私が子どもの頃に「縁日」といえば,近くの神社で年に一度開かれるもので,昼は神輿や山車が出て,夜になると境内に屋台が並ぶ.友だちと待ち合わせて遊びに行って,チョコバナナや水飴を食べるのが楽しみでした.宗教的な意味など考えたこともありませんでしたが,それでよかったのでしょうか.
フランスで「縁日」というと,まるでサーカスみたいに,地方を巡業しているもののようです.食べ物屋の屋台や,興行の舞台,メリーゴーラウンドまで車に積まれてやって来て,興行が終わればすぐ撤収で別の街へ去ってゆきます.すぐに想い浮かぶのは私の大好きなジャック・ドゥミ監督の『ロシュフォールの恋人たち』でしょう.映画ではロシュフォールの街に縁日興行の一行が金曜日に到着する.市役所前広場にトラックを止め,セッティングして,土曜と日曜はお祭り.月曜の朝には後片付けを終えて,次の街に出発する.そんな3日間に3組の幸せなカップルが誕生するハッピー・ドラマです.もちろん,幸せの陰には,恋の実らなかった可哀想な人たちもいるのですが.それからジャック・タチの『のんき大将脱線の巻』も田舎町のお祭りを描いた作品です.この作品は原題がズバリそのものjour de fête,つまり「お祭りの日」です.
今もフランスでは,こうした商売が成り立っているのでしょうか?留学期間が結構長かったのに,そういえばお祭りに行った覚えがありません.唯,毎週日曜日に立つ市場には,みんなが集まってきて,お祭りのように賑わっていました.メリーゴーラウンドまではありませんが.
それで今回はニコラたちだけでお祭りに行く話なんですが,イラストからするとどうも初期作品なのではないかと思うのです.やはり一度,ちゃんと初出の掲載雑誌と各話の年代を確認した方が良さそうです.
ニコラたちは庭でかくれんぼをして遊んでいたのですが,どうも面白くない.そこへリュフュスがすぐ近くの広場にお祭りがきているという情報を持ってきます.それでニコラのパパに連れて行ってくれるように頼むのですが,パパは拒否.ニコラたちがねばって,最後には,お父さんが警察官のリュフュスが,自分たちだけでも行かせてくれたら「違反切符を帳消しにしてあげる」なんて言って,ついにパパも口車に乗ってしまいます.
パパはリュフュスをじっと見つめ,ちょっと考えてから言った.「それじゃあ,お前たちのためだ.特にリュフュスのパパのためだ.いいね,リュフュス.お前たちをお祭りに行かせてやろう.でも悪さしないようにな.1時間以内に戻ってきなさい.」(p.205)
下心見え見えのパパでした.でも,そんな子どもの口約束を真に受けますか〜?
そして何故か,ニコラたちは随分とお金を持っていたようです.ジョフロワは当然としても.
まずは「バンパーカー」に乗ります.バンパーカー(autos tamponneurses)で分かりますか?遊園地などにあるやつで,下の電気で車が動くのですが,運転者が右へ左へと動かすことができて,他の車にドンっと当てて楽しむやつです.私は乗ったことがないのですが,日本ではUFOカーとも呼ばれているそうで,すごく楽しそうです.でも最近,日本では危ないと,衝突禁止になっちゃったそうです.やってみたかったなぁ.
アルセストとニコラは赤い車,ウードとジョフロワは黄色い車,リュフュスとホイッスル(何故か人扱い)は青い車に乗車して遊び始めますが,すぐに追い出されたのは想像の着くところ.これが1枚目.
5周分のお金を払って4周しかしなかったからと,粘って返金させたものですから,追い出されてもニコラたちの清々しい顔ったら.他の客はみんな,ニコラたち4人の方を睨みつけています.怖い顔してます.楽しむために遊園地に来ているはずなのに.あれっ?4人?数が合わないのはいつものニアミスでご愛嬌でしょう.
次にはわたあめを買ってメリーゴーラウンドに乗車.「小さな丸い客車がたくさんついていて,すごく早く回転する」やつだそうです.「すごく早く回転する」と言うのがミソで,「綿のようで」,「甘くて,身体中どこにでもひっついて,食べた後はベタベタになる」というニコラの説明通り,ニコラたちの後ろの席に座っていたおじさんは「顔も服もわたあめだらけで下車」したそうです.
大人をイライラさせたり,怒らせたりするのが,ニコラたちの趣味みたいなものですからね.イラストだと,歩きながら食べているわたあめがひっついているように見えますが.何か?
その後「上昇したり下降したりする飛行機」に乗るのですが,その前に,「マシュマロとポテトフライとチョコレートとキャラメルとソーセージを食べて,レモネードを飲んで,気持ち悪くなっていた」そうですから,どうなったかは推してしるべし.想像してください.それで,管理人のおじさんは「すごく怒ったんだ」(p.208).「他の客が同じようになったらどうしてくれるんだ!(« il disait que ça faisait mauvais effet sur ses clients. »),文字通りには,「他の客に悪い影響を及ぼすと管理人のおじさんが言っていたんだ」ですが,これはもちろん,吐いたとやんわり仄めかしているのでしょうね.う〜気持ち悪っ!
最後に「迷宮」に入ります.日本ではミラールームとかお化け屋敷とかに該当するものでしょう.中に入ったらなかなか抜け出せない.ところが全体がガラス張りになっていて,その迷って困っている姿を外の人が見て笑うと言う仕掛けだそうです.結構意地悪な興行です.
最初は迷って抜け出せなかったニコラたちですが,外にパパが迎えに来たのを見たニコラが一念発起.見事に抜け出します.探しに入ったパパは哀れ,抜け出せずに子どもたちを睨みつけているのがこの3枚目のイラストです.確かに全面ガラス張りで,外からは中の人がよく見えます.パパが怒っている様子も.外には,ホイッスルを加えたリュフュスと,警察官のパパの姿が見えます.係の人にようやく連れ出してもらったパパは,リュフュスのパパに怒鳴られてしまいます.
「子どもたちを監視するってのはこう言うことなのか?」と,リュフュスのパパが言ったんだ.「子どもたちに見せるお手本がこれか?」
「だがね,こりゃみんな,あんたのところのリュフュスのガキのせいなんだ!こいつがみんなをお祭りに誘い出したんだぞ!」
「あぁそうかい?それじゃ聞くがな.あそこの灰色の車,横断歩道に駐車している奴はあんたのか?」
「そうだとも.だからなんだってんだ.」
それを聞いたリュフュスのパパは,パパに違反切符を渡したんだ.(p.211)
ほら,だから〜.子どもの口車に乗るから,こんなことになるんですって.いつも通り,しっぺ返しをくうパパでした.
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