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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』(111)

« Tonton Eugène », HIPN, vol.1, pp.197-203.

 「ウジェーヌおじさん」はパパの兄弟で,多分弟さんかしら.よくパパとママンのケンカのネタになる(74, 76),鼻が大きい(21),登場しない登場人物と思っていましたが,この未刊行集が刊行されて,ちゃんとお話に登場することがわかりました.出てきてみたら,はちゃめちゃでかなり面白い人でした.ニコラの友だちには「探検家」として通っているようですが,これはニコラ本人が言うように「必ずしも本当のことじゃなくて」,(「必ずしも」???),「いつも,サン-テチエンヌとか,リヨンとか,いつもずいぶん遠くに旅行している」のだそうです.何か商売をしているそうです(ニコラ,誇張しすぎだろっ).ニコラはおじさんが来るのが楽しみなようで,


だっておじさんはすっごく面白いんだ.いつでも,ふざけてばかりいるし,笑い声がとにかく大きい.冗談も言うみたいなんだけど,これは僕は聞いたことがない.だって,おじさんが冗談を言い始めると,僕は部屋から出されちゃうんだ.(p.197)


 最後のところ,「僕は部屋から出されちゃう」が気になります.何故でしょうか(私は密かに,猥談じゃないかと考えているのですが)?

 前述のように,『プチ・ニコラ』では「ウジェーヌおじさん」の名前が出るのは必ず,パパとママンがケンカする時でした.「あなたの弟のウジェーヌなんて・・・」とママンが言い始めると,決まってパパは,もういいよとか,ウジェーヌなんて今関係ないだろっと話をはぐらかします.こういうのは『プチ・ニコ』ではよくあるパターンで,お隣のブレデュールさんが出てくるとパパとケンカ,ママンのママン(ニコラの母方のおばあちゃん)が出てくるとパパとケンカ(76)と言った具合で,その名前が出てくると,展開が予想できるのです.だから,名前だけ出てくれば本人出てこなくても・・・とも言えるのですが,このお話では完全に主役級で登場します.それに夕食にきたウジェーヌおじさんはお客さんですから,ママンのいつもの嫌味や当て擦りを言ったりは決してしません.ですから,このお話ではウジェーヌおじさんの別の側面(本来の,とも言えますが)が垣間見えるわけです.

 それではウジェーヌおじさんはどんな人かと言えば,


1)パパと大の仲良し

2)いつもニコニコ,気前がいい(すっごい量のプレゼントをみんなにあげる)

3)いつもパパとふざけてばかりいる(悪ふざけは度を超えていますが)


 という感じです.

 今回はチェックのジャケットを着こんだおしゃれな姿で登場します.イラストの1枚目です.



 通常題名の横に切りはりされている小さなイラストは別のイラストからの抜粋と相場が決まっているのですが,後2枚の大判には登場しないので,このワインを飲むおじさんのイラストは1枚にカウントしておきます.ワインをネクタイの上に溢している図ですが,これはおそらく,夕食時にパパがワインを注いだら,グラスに特殊な仕掛けがしてあって,小さな穴がたくさんあいていたので,おじさんのネクタイとシャツの上に「大量のワインが溢れた」ところでしょう(p.201)赤ワインだったらシミになってしまうのでは,なんて要らぬ心配をしてしまいます.それにしても,悪意のない冗談でも,悪ふざけでも,こんないたずらされたら,怒りませんか?やりすぎでしょう?でも,パパとおじさんの間なら大丈夫.全ては「いたずら」で済むようなのです.すごい信頼関係です.仲が良いわけです.さらにすごいのはやったらやり返すで二人とも,間断なく相手に仕掛けるところです.

 では他のいたずらも見ておきましょう.


その一)仕掛けたばこ.火をつけると爆発する.被害者はパパ.


 その二)食前酒がお酢.犠牲者はウジェーヌおじさん.


パパが食前酒を注いだんだ.それでおじさんが一口飲むと,ひどく顔をしかめて,絨毯の上に全部吐き出しちゃった.(p.199)


 ということは,絨毯の上にはお酢だらけ.シミになるでしょうし,かなり臭いそうです.


 その三)休戦協定の握手で電気ショック.パパがしてやられる.真似しちゃいけません.


 その四)パパの背中に「大安売り」の値札を貼る.クラシックなギャグで可愛いもんです.


 その五)穴の空いたワイングラス事件.先程のやつです.服とネクタイが台無しに.


 その六)おじさんがパパのスープに塩入れを突っ込む.スープ,食べられないでしょ.


 その七)パパがおじさんのお皿を移動させる.パパったら,こんな一回のいたずらのために,わざわざお金払って,そんな仕掛けを用意しておいたなんて・・・


パパは新手の仕掛けを買って用意していたんだ.テーブルクロスの下にパイプを這わせてね,パイプの先についた梨の形をしたポンプを押すと,小さな風船みたいに膨らんで,お皿が動くという仕組みさ.(p.202)


 その八)おじさんがパパのお肉の上に大量の胡椒をかけてしまう.もう,食べられないよなぁ.料理したママンはよく怒らないな.


 その九)偽カマンベール事件.おじさんが切ろうとして切れなかった.


 チーズとデザートの時間なので,ニコラ大喜び.


チョコレートケーキだったんだよ.すっごく美味しくってね,それでウジェーヌおじさんがパパに何か耳打ちしている間に,僕はお代わりしたんだ.(p.202)


 この時,なぜか,おじさんとコソコソ話をしていたパパの目はニコラに注がれていた模様です.これがオチになるので,覚えておいてください.


 その十)おじさんのコーヒーに入れた砂糖が煙を出した件.ママンは別のコーヒーを持ってくるハメに.えらい迷惑ないたずらです.


ウジェーヌおじさんはパパのネクタイを引っ張って,パパにコーヒーをかけたんだ.パパは着替えに行くハメになったよ.(p.202)


 その十一)帰るおじさんの車に空き缶がつけられていて,大きな音がした.もちろん犯人はパパ.玄関にもたれて,お腹を抱えて大笑いしています.近所迷惑甚だしい.

 ね,すごいでしょう?このいつもと変わらない長さのお話に,11ものいたずらが書かれているんです.それも,料理を食べられなくしたり,家や服を汚したり,食べているものを吹き出したり,大きな音を出したり・・・もう,限度というものがないのでしょうか,この二人には?

 それなのに!です.


 〔おじさんを見送った〕パパが戻ってきたときにも,僕は笑いが止まらなかったよ.それなのに,パパはもうにこりともせず,僕を居間に呼んでしかったんだ.

 「ウジェーヌおじさんの前では言わないようにしたが,デザートのケーキをおかわりするなら,ちゃんとくださいって言わなきゃダメだろ.もう大きいんだから,しつけの悪い悪ガキみたいにしちゃダメだぞ!」だって.(p.203)


 大人は理不尽,子どもはそう学ぶでしょうねえ.

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