« La quarantaine », HIPN, vol.1, pp.156-161.
題名中のquaranteは数字の「40」なのですが,quarantaineとすると「40の」という形容詞になります.その形容詞に女性の定冠詞laをつけると,「検疫期間」となるのです.???何のことやらとお思いでしょうが,伝染病などにかかった人を40日間隔離しておいたことに由来する表現です.この「検疫期間」という語は今も使用されますが,これが日常用語になって,子どもたちの用語では「仲間はずれ」,それも「シカト」を意味するようになります.それで今回の題名は「シカト」なんですが,しかとの由来,知ってました?今調べたら,紅葉を表す花札にそっぽを向いた鹿が描かれていて,これが博徒(今のヤクザ)の間で無視の意味で使われていたそうなんです.しかと理解しましたが,なんとも嫌な語源です.
お話の発端は,担任の先生が授業中ニコラに「パ−ド−カレ県」(Pas-de Calais)の県庁所在地を質問したところ,ニコラは答えられず,ジョフロワがこっそり「マルセイユだよ」と教えてくれたので,その通り答えたら,地理で0点をくらったというもの.つまり,ジョフロワの悪ふざけ?!が原因で,みんなが怒り,ジョフロワと口をきかないことになりました.ちなみに正答は「アラス」(Arras)で,マルセイユはブーシュ−デュ−ローヌ県の県庁所在地でした.位置でいうと2つの県はほぼ最北と最南で真逆.引っかかる方もあまり褒められたものじゃありません.
1枚目のイラストは,質問に答えられないニコラと,嘘の答えを吹き込ジョフロワの図です.
ニコラの体が最前列の方に傾いています.耳と目もジョフロワの方に向いているようです.その先には手を口に当てて,如何にも内緒で答えを教えているかのようなジョフロワがいます.ジョフロワの左隣には,授業中で最前列にもかかわらず,窮したニコラなどなんのその,われ関せずで美味しそうに食べ物を頬張るアルセストがいます.その横はメガネをかけているのでアニャンでしょう.壁にかかっているのは一応地図という設定でしょう.が,なんだか,雪だるまのように見えるのは私だけでしょうか.その雪だるまの右目の少し上に当たるところが「パ−ド−カレ県」なんですが,ほとんど地図からはみ出すような位置の県を質問するなんて,先生も物好きです.
*ここで一つ疑問があります.実はこのイラスト,(25)ですでに出てきたイラストなんです.全く同じものです.私は(25)で「不自然さ」を指摘しながらも絵の効用にも触れていますが,もしかしたらこのイラストはやはりこちらのもので,(25)の方は編集者が勝手に挿入したのではないでしょうか.初出の雑誌を見ればはっきりすることですので,いつか調べてみたいと思います.
みんなにはあんまりひどい悪ふざけで,アルセストなんて食べ物の例を出すくらい卑劣な行為ととられたようです.
「困っているときにふざけるなんてな.」アルセストが言ったんだ.「そりゃ,友だちから食べ物をくすねるのとほぼ同罪だぜ.」(p.156)
そんなに重罪なのでしょうか.でも,みんなが怒るのも無理はありません.何せ0点くらってしまうと,ニコラの家では大騒ぎですから(例えば,(97)とか).
責められたジョフロワのくちごたえもよくありません.
ジョフロワが返してきた.「うるせーな.そもそも,お前ら全員バカだ.それに,俺のパパはお前らのパパみ〜んなあわせたよりもっとお金持ちだ.それにそれに,お前らなんか怖いもんか.それにそれにそれに,冗談じゃないぜ!」(p.156)
と,逆ギレ状態.お金持ちのパパを持ち出すのも,いつもの口癖とはいえ,あまり愉快とはいえません.それで「シカトしてやろうぜ」というリュフュスの提案が採用されます.「思い知らせてやろうぜ」ですと.これ,でも,個人的経験から言うと,結構きついんですよねぇ,シカト.短い期間のシカトだけならともかく,すぐにいじめに繋がっちゃいますからね.
翌日,ジョフロワは小脇に何か抱えて登校してきます.どうやら「シカト」の対抗策のようです.いや,そんなはずはありません.だってシカトされることは投稿してくるまで知らず,ニコラが「ジョフロワ!」と呼びかけ,「みんなで君をシカトすることにしたんだ」(p.157)と,教えてあげましたから.大変親切です.
こうして仲間はずれが始まります.ジョフロワが授業中に話しかけてきても無視.休み時間も,「怒れ,怒れ,もっと怒れ」(bisque, bisque, rage)なんて,やっぱり一緒には遊びません.するとジョフロワは脇に抱えていた袋をおもむろに開き,「真っ赤で梯子と鐘がついた消防自動車」を取り出し,遊び始めます.
これがジョフロワの策であるのは一目瞭然.無関心を装い,シカトを継続している仲間たちのうち,アルセストを含む数人は,もう消防車から目が離せません.そっぽを向いた子たちの数人も,目だけはジョフロワの方に向けています.もう全員の目がそちらに向いてしまうのは時間の問題でしょう.でも,その前に,もちろん堅い?結束をしている「みんな」の間で仲間割れが始まります.一人,二人と脱落し,リュフュスが「いいよ,上等だよ,そいつら(=脱落組)と一緒に消防車を見に行く奴らは全員シカトだ.そうだよな,みんな?」(p.159)と言ったときには,呼びかけられた「みんな」にはジョアキムとメクサンとニコラしかいませんでした.その後はジョアキムただ一人.消防車を見ないように,一人で泥棒と警察ごっこを続けますが,すぐに飽きてしまって敢えなく脱落.こうして全員がジョフロワの消防車を見に集まります.それでニコラも謝り,仲直り.みんなでみんなで遊ぼうとしたところで,ジョフロワの復讐が始まります.
「それでね,僕ら,結局ジョフロワの消防車では遊べなかったんだよ.ほんとうにひどい話さ.ジョフロワが僕らみんなをシカトすることにしちゃったんだ.」(p.161)
私の想像では,ジョフロワは「小脇に何か抱えて」登校してきたときには,仲直りしてみんなと遊ぶために消防車を持ってきたんだと思うんです.それなのに,シカトされたので,僻んでしまったのでしょう.それで急遽,仕返しを思いついたのでは?
やっぱり,いじめやシカトなんて,受けた方にしてみれば理解のできない仕打ち,すなわち暴力に他なりません.それで暴力は暴力を生み出すんです.いいことなんてありません.
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