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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』(104)

« Pan ! », HIPN, vol.1, pp.150-155.

 「パン!」が爆発音なのは万国共通なのかしら.バクチクが爆発したときの音がフランス人にも,こう聞こえるようです.

 今回のお話は可笑しいのやら,ちょっと怖いやら.「木曜日に,バクチクのせいで,僕は居残り(休日登校)させられたよ.」(p.150)という冒頭の衝撃的な一文で,ニコラの悪ふざけが度を超えていたのかと思いましたが,どうもそうではないらしい.授業中に大きなバクチクの音がして,校長先生がカンカンに怒ります.それで犯人が名乗り出ないようなら,木曜日(休みの日)にクラス全員を投稿させると言うのですが,誰も名乗り出ません.それで仕方なく,罰として全員が全員が登校する羽目に.お話の終わりにもう一度,バクチクが鳴る音がするのですが,これも誰が仕掛けたのか分からない.結局犯人は分からずじまいで,何とも怖くて後味の悪いお話です.

 とはいえ,『プチ・ニコラ』はキホン,大人向けの軽〜いお笑いの読み物ですから,焦点は別のところにあります.休日登校で,クラス全員に課せられた罰は「授業中にバクチクを仕掛けたのに,自首もしないのは許し難い」(p.151)という文章を300回書くことでした.それでニコラのクラスのことなので,なかなか終わらず,おまけにみんながほぼ書き終えているのに,メクサンだけが24回しか書いていなかったので,ごうを煮やしたブイヨンさんが手伝ってしまうというものです.映画版の中では,「クラスでビリ」のクロテールが書くのもやはり遅くブイヨンさんが代筆する,ノートを見た校長先生が,ブイヨンさんの字と見抜いていたのに見逃す,というのが笑いのポイントでした.このお話ではでも,クロテールではなくてメクサンなので,頭が悪くて書き取りができないクロテールという設定は使えません.そこで,イライラしたブイヨンさんがインクが切れたと伝えようとしたメクサンに思わず,「黙って書きなさい.もう君らのたわごとなんて聞きたくない.一言も話しちゃダメだ.一言もだぞ!」と怒鳴ってしまい,自分で自分の首を絞めるというのがオチです.これはこれでアリの設定ですかね.それにしてもブイヨンさん,何でそんなにイライラしているのでしょうかね?単純に,休日出勤だからなんでしょうか?

 

校長先生が僕らに聞いてきた.「バクチク好きの子たちはどうしてるかな?」

「万事順調です,校長先生.ご指示通り,300回の書取りをさせています」と,ブイヨンさんが答えた.

「よろしい.全員が全て書き終えるまで,誰も出しちゃいかん.これで懲りるだろう」と,校長先生は言って,ブイヨンさんに目くばせをして,教室から出て行った.ブイヨンさんは大きなため息をついて,窓の外を眺めた.太陽がさんさんと照っていた.(p.151)


 ブイヨンさん,外が快晴なのが気になるようです.おまけに,ニコラたちがぶつぶつ,関係のない話をし始めたところで,ブイヨンさんが切れて,「拳で教卓の上をドンドン!と叩き始め」ます.「暇つぶししてないで,早く終えなさい!」と怒鳴るのです(p.154).お〜怖っ.「ブイヨンさんはすっごくイライラしていたよ.教室中を歩き回り,時々窓のところで止まっては,大きなため息をついていたんだ.」(p.154)イライラとため息が繰り返されています.そこへ,先ほどお伝えしたように,メクサン事件が起こるのです.ストレス全開.「教室の中は静まりかえり,ペンを走らせる音とブイヨンさんのため息,アニャンの鳴き声しか聞こえなかったよ.」(p.154)あの,誰も何もいえない,緊迫した状況です.私も苦手なやつ.

 みんなが書き終わったところで,ただ一人メクサンだけが何も書いていません.それでブイヨンさんは自らの誤りをさとります.怒るにもにも怒れない状況です.だって,メクサンは「言おうとしたんですけど,黙れって言われたので.」これは子どもの屁理屈ではありません.ちゃんとした論理です.私がいつも感心するのは,フランスではこうした理屈に,ちゃんと反応するところです.理屈から言えばメクサンが正しいわけで,ブイヨンさんも即座にそれを認めます.それで言葉が出てこないんです,その通りだな,と.

 メクサンが24文目に取り掛かったところで,


ブイヨンさんはほんのちょっとためらったようだったけど,メクサンのノートを奪い取り,メクサンの机に腰かけた.ペンを取り出し,すごいスピードで書き始めたんだ.みんながブイヨンさんを眺めていたよ.(p.155)




 この最後の「みんな」(on)にはメクサンも入ります.だって「メクサンのノート」はブイヨンさんが持っているのですから.でもイラストでは,二人並んで書取りをしています.メクサンは物静かに,ブイヨンさんは血眼で.一番後ろの席の二人を教室中の生徒が眺めています.確かにもうみんな書き終えていますし,そもそも,「全員が全て書き終えるまで,誰も出しちゃいかん.」というお達しですから.窓の外には,さんさんと輝く太陽が見えます.あ〜いい天気.黒板横の地球儀はちょっと浮いているように見えるのですが,コーナー棚なんでしょう.一番右の列の座席にはインク壺が備え付けてあります.もちろん,机ごとにあるのでしょうが,メクサンの机の上には見えません.それだけに,右列のインク壺の絵の効果は絶大です.これが原因でこの状況に陥ったのですから.黒板に何も書かれておらず,教卓に誰もいないので,休日であることも強調されています.小さな子ども用の机に大きなガタイのブイヨンさん.平静なメクサンに必死のブイヨンさん.楽しそうに眺めているクラスメートに,書取りに集中するブイヨンさん.ついでに,外の明るい太陽と部屋の中の電球.色々な対比が一眼でわかります.

 最後に校長先生が来て,「みなさんにもいい教訓になるでしょう.帰ってよろしい.」(p.155)と言ったところで,またもや「パン!」もちろん次の週の木曜日も休日登校になりました.

 きっと想像するに,ブイヨンさんがまたもや付き合わなくてはならなくて,あ〜あ・・・というオチで,やっぱり『プチ・ニコラ』では大人の目論見が子どもに挫かれてしっぺ返しを食うといういつものパターンなのですが,それにしても,バクチクの犯人あるいは正体が気になりますよね?もしかしたら,校長先生やブイヨンさんへの無言の抗議?やっぱり怖いお話です.

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