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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』(102)

更新日:2021年8月24日

« On ne nous a pas fait honte », HIPN, vol.1, pp.134-139.

「恥はかかなかったよ」という題ですが,正確には「人は僕たちに恥をかかせなかった」となります.つまり,ある状況で,誰かが「僕たちに」恥をかかせる可能性があったけど,その誰かが僕たちに恥をかかせなかった.要するに,恥をかかないで済んだということです.

 子どもたちの両親が学校訪問と授業参観をした日のことです.両親の前で質問に答えられず恥ずかしい思いをしないように,担任の先生が配慮してくれたので,恥をかかずに済んだのですが,代わりに誰かが恥をかいたんです.きっと.


「お利口さんにしていたら,ご両親がいらしたときに,答えを聞いたりしませんよ.ご両親の前で恥ずかしい思いをしないようにね.」(p.134)


 これを聞いて面白くないのはアニャンです.何せ「クラスで一番で先生のお気に入り」ですから,授業参観のときこそ,あてて欲しいんです.

 それはさておき,お父さんお母さんがくるのを待つ間に,問題を出しましょうと,先生が黒板に書いた問題が激しく難しかったようです.


それはちょーむずな問題だったよ.農家の人がいて,黒いめんどりをたくさん飼っていて,白いめんどりもたくさん飼っていて,黒いのも白いのもたくさん卵を産むんだ.それで先生が黒いめんどりはそれぞれどれくらい卵を産むか,白いめんどりはそれぞれどれくらい卵を産むか説明してくれて,それで1時間47分でめんどりは全部あわせて何個卵を産んだのか答える問題だったよ.(p.134)


 いかにも複雑です.う〜ん・・・.黒板にこの問題をちょうど書き終えたときに,教室の扉が開いて,校長先生がぞろぞろ保護者たちと入ってきました.これが本話唯一の大判イラストです.


 校長先生は担任の先生に,「子どもたちの上達について,保護者の方々に一言お願いします.褒めて差し上げるか,それとも叱って差し上げるか,まぁケース・バイ・ケースといったところでしょうか」(p.135)なんて,冗談まじりに言いますが,それを聞いて笑えなかったのは,もちろんクロテールのご両親です.


それを聞いてパパとママンたちは笑ったんだ.でも,クラスでビリのクロテールのパパとママンは笑わなかった.クロテールの家では,学校ネタは禁物なんだ.(p.135)


 なんか可哀想ですが,追い討ちをかけるように,今度は先生が言います.


「皆様方のお子さんの出来具合は嬉しい限りです.ほんのちょっとだけ授業についてゆけていない人は,他の人に追いつけるようにエンジンかけてちょうだいね.」(id.)


 この言葉に反応するのはまたもやクロテールの両親です.「クロテールのママンとパパはクロテールをギロッと睨んだんだ.でも,僕らはみんな喜んだよ.だって先生に褒められたんだからね.」(p.137)


 ニコラ,相変わらずのKYぶりで,いいところしか聞いてません.

 それはともかく,保護者の関心は黒板の問題に向かっていたようです.口火を切ったのはクロテールのパパで,「この問題は,難しそうですな.」さすがクロテールのパパ.そこへすかさず「362個ですな.」と,アルセストのパパ.いやいや,「7420個でしょう.」とジョアキムのパパ.「イヤイヤそんなはずは.412個です.」とメクサンのパパ.クロテールのママンは,「まぁ!子どもに代数なんて教えてらっしゃるの?この歳の子らに?」と驚いています.すると再びアルセストのパパが「いやいや,単なる算数の問題ですな.子どもでもできるような.362個ですよ.」「私の答えは412個です.」とニコラのパパがメクサンのパパに同意.「ちょっとお待ちください・・・.私の計算ミスです.4120個です.点を入れてしまったんですな.」

 イラストを見ると・・・もう,どれだけ混乱しているか分かろうというものです.そんな混沌ぶりを子どもたちはライブ感覚で眺めて楽しんでいます.で,結局正解は・・・ないんです.教室では,左端の先生は手をあげて正解を言おうとしているアニャンを必死に止めています.かなり必死です.なぜなら,パパとママンたち,誰が正解でも「恥をかかせる」ことになるからです.


「先生,先生,答えはね,・・・」

「アニャン,黙りなさい!」そう言って先生は睨んだんだ.それで僕らみんな驚いちゃったよ.だって先生がお気に入りのアニャンを睨みつけるなんて,そうあることじゃない.(p.138)


 この窮地を先生はなんとか乗り切ります.話題をそらし,母親たちと握手をして,教室から追い出すのです.「クロテールのパパとママンはもうひと睨みしてから出て行った.」(p.139)


 さすが,教室となると,アニャンかクロテールが主役級です.それでクロテールのパパとママンも主役に.さぞ,誇らしいでしょう.

 それでほっとした先生は,「皆さん,とってもお利口だったので,ご褒美に,解答しなくて良いですよ〜.」だそうです.それで即座に黒板の問題を消します.証拠隠滅を謀りました.それにしても,なぜかアニャンだけは居残りを命じられます.


 それで僕らは校庭に遊びに行った.僕らは先生はやっぱいい先生だなって話してたんだ.だってパパとママンたちの前で恥をかかせないって約束を守ってくれたんだからね.」(p.139)


 約束を守ってくれたんですから,ニコラたちは大満足です.でもただ一人,おそらく正解を知っていたはずのアニャンだけは叱られちゃうのでしょうか.それにしても,題名の「僕たちに恥をかかせなかった」の「僕たち」って,本当にニコラたちのことなんでしょうか.もしかしたら,362〜7420まで振れ幅のある答えを出したパパたちのこと?



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