« Les barres », HIPN, vol.1, pp.118-125.
題名は「バー」,すなわち「棒」ですが,複数形で「陣取りゲーム」となります.
休み時間に「いつも乱暴でおバカな遊びを思いつく」ニコラたちを見かねたブイヨンさんが,「知的で運動にもなって,気がすっと晴れるような遊び」を勧めます.それにしても,ニコラのパパもそうですが,どうして大人はこんな時に自慢ばかりするのでしょうね.それも誇張が見え見えでわざとらしい自慢話に加えて,自分をよく魅せ用だなんて.
「わたしが君らぐらいの歳の時には,学校で(ま,優等生だったがね),仲間たちと野蛮人のように騒いだりはしなかったな.それに,わたしらの生徒監さんにも一目置かれていたもんだ.わたしらもな,当たり前だがな,生徒監さんをたいへん尊敬していたよ.それでもな,大いに楽しんでいたがね.」(pp.118-119)
パパもよく子どもの頃の神童ぶりを自慢しますが,ブイヨンさんも「優等生」だったそうです.それに当時の「生徒監さんにも一目置かれて」いたとのこと.だから,君らも生徒監を敬わねばならない,という論理です.この辺の自慢話とご都合主義的な誘導が最後のオチに繋がるのが『プチ・ニコラ』のいつもの手です.注意しておきましょう.
それで,じゃあ,どんな遊びをしていたのかと訊かれて,ブイヨンさんが挙げたのが「陣取りゲーム」でした.「たいへん愉快で,ちっとも乱暴じゃない遊びさ.」(p.119)
ブイヨンさんはまずポケットからチョークを取り出して,校庭の一方に線を,他方にもう一本線を引きます.二手に分かれて,一方のチームの一人が鬼となり,他方のチームの一人を挑発します.挑発された人が鬼を捕まえて捕虜にする.次は役割を入れ替えて・・・というゲームのようですが,ニコラたちのことですから,ゲームにならないどころか,ブイヨンさんの説明の段階からつまずきます.誰がどっちのチームに入って,誰が誰と一緒は嫌で・・・といった具合でなかなか始められません.
じゃあ仕方ないので,実際にやりながら説明しようということになるのですが,当たり前のようにこれも思うようにいきません.お話に付された唯一のイラストはこの辺の事情を雄弁に物語っています.
ブイヨンさんが中央で「陣取りゲームをするには,それぞれの陣地が・・・」と,昔を想い出すようにぶつぶつと説明を始めますが,子どもたちはというと・・・左上から手前に向かって,徒競走,取っ組み合い,言い争い,殴り合い,今度は右上から下に追いかけっこ,目隠し,鬼ごっこ,殴り合い,ビンタ,かけっこ.誰も聞いてません.ブイヨンさん,文字通り浮いています.サンぺの好きな,子どもたちのゴタゴタした光景です.説明を始めようにも始められず,説明をしようにも聞いてもらえず,説明なしに始めても,ニコラたちはやっぱり理解しておらず.そんなカオスぶりを,ゲーム崩壊寸前の場面で見ておきましょう.
クロテールが叫んだ.「バカやろう!それじゃボール当てゲームじゃねぇかよ.陣取りゲームじゃないだろ!それにお前が俺をつかまえてどうするんだ.同じチームじゃねーか.」
それを聞いたジョアキムが大声を出した.「お前と同じチームなんてまっぴらだ!」
それを聞いたクロテールは振り返ってジョアキムになんか言いに行った.その間に僕は走っていって,クロテールの腕をつかんで捕虜にしたんだ.
「よくやった!」リュフュスが言った.
クロテールが怒鳴った.「お前,馬だろ!話すなよ.」クロテールは連れて行かれるのを嫌がった.馬がズルしやがって.そう言いつつ,僕にビンタをくらわせた.
「ようやくタルチーヌが終わったよ.さぁゲームを始めようぜ.」と,アルセストが言った.でも誰もヤツのいうことなんて聞いていなかったよ.みんなケンカして楽しかったよ.そのとき,始業の鐘が鳴ったんだ.(p.124)
アルセストだけは参加していないことが理解できましたが,ゲームを始めているんだか,始めていないんだか.よくわからない混沌とした状態です.ブイヨンさんは「白目まで赤くして」怒っていたようです.
でもあんまり楽しいと時間が過ぎ去るのは早いもの.ニコラはいつもの休み時間よりずっと短く感じたそうです.「多分,あんまり楽しく遊んだからだね.」(p.125)
それに,陣取りゲームがすっごく面白かったしね.でも,ここだけの話,こんなゲームをしていたんだったら,ブイヨンさんの時の生徒監さんは,そんなに年中楽しんではいられなかったよね.(p.125)
と,まあ,ニコラは,冒頭の「大いに楽しんでいたがね」というブイヨンさんの回想に水をさしているわけです(邦訳は誤解があるようです).こういうのも,この日の「僕ら」は「楽しく遊んだ」のに,ブイヨンさんが楽しんでいるようには見えなかったからでしょう.何だ,ブイヨンさんが怒っっていた(=楽しんでいなかった)のを,ちゃんと観察してるじゃない!KY装うニコラ,実はあざとすぎ.
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