« Le chouette bouquet », t.I, pp.64-72.
サイコーな花束」という題名には少し違和感を覚えるでしょうか.やや野暮ったい題名に訳したのには二つ理由があります.一つには「サイコー」にあたるchouetteという形容詞は,通常,「それサイコー!」(C'est chouette!)のように使用される語で,あまり名詞と一緒に使いません.ですから,「花束」と一緒に用いると,普通の日常的なフランス語の使用からすると,どことなく変な,おそらくは子供っぽい表現となります.それからもう一つ.この語はニコラのお気に入りの語で,事あるごとにニコラが「サイコー!」と口にする口癖なのです.ですから,ニコラの語彙では,自分の好きなもの,気に入ったものと組み合わせられるとニコラが考えている語なのです.もちろん,偏愛の対象にしか使いませんから,本話のように大好きなママンへの贈り物や,「近い将来結婚する」はずのマリ−エドヴィジュ,親友のアルセスト,そしてママンのような人にしか当てはまりません.
今回のお話は少し残酷で,せっかくママンの誕生日のために,(なぜか前日にママンがくれた・・・?!)お小遣いをはたいて大きな花束を買ったのに,持って帰る途中で,いつもの友だちに会い,その度に花束が小さくなり,いざ渡すときには一本の,それも折れた花になってしまうのです.
アルセストと二人で放課後に花を買いにゆきます.ニコラの予算ではたくさんの花は買えませんでしたが,お店の人が気を利かせて少々の花にたくさんの葉っぱを入れ,透明の包み紙で大きな花束にしてくれます.
1枚目の絵はその帰り道に,リュフュス,ジョフロワ,クロテールに会う場面です.
大きな花束を抱え歩いてくるニコラを見た3人はニコラが「腸詰め」みたいだといってからかいます.そういえばお店の人が作ってくれたばかりの花束を見たアルセストが,「ポトフにいれる野菜のようだ」と言っていましたから,既に最初から食べ物のように見えるという伏線がはられていました.絵ではニコラを指差して笑う3人,それを聞きとがめて怒るニコラ,口をもぐもぐさせながらついてくるアルセストが描かれています.
2枚目は未だニコラが和かに花束を持っていますから,1枚目より前,つまりケンカ前の場面かも.ニコラもとてもうれしそうです.でも,前の絵よりもアルセストが持っている食べ物が減っていることから,ケンカ後の場面かも.う〜ん・・・
3人にからかわれたニコラはアルセストに花束を預かってもらって,ジョフロワに殴りかかります.3枚目は二人がケンカしている場面です.
アルセストの手の中で花束は未だ無事.ところが,同じように「腸詰め」呼ばわりされたアルセストが,花束でクロテールを叩いてしまい・・・こうして緑の葉っぱがみんな無くなってしまいます.これが5枚目の絵です.(場面先行型!)ちなみに,「花」少々に「葉」盛り沢山のはずですから,この絵のたくさんの「花」はいつものご愛敬.サンぺの絵は文に忠実をモットーとしていないのです.
ここでアルセストは夕食に遅れると帰ってしまい退場.
次にニコラはウードと会い,ビー玉遊びをします.負けて怒ったウードに小突かれたニコラは花束の上に尻餅をつきました.これで3本あった花のうち1本が折れてしまいます.
さらにジョアシャンにあったニコラは,今度は警戒心から,自分からジョアシャンにケンカをしかけ,花を投げつけてしまいます.驚いたジョアシャンが花を投げ返すと,ちょうど走ってきた車の上にのってしまい・・・.ジョアシャンは急いで追いかけてくれますが,車には追いつくことなど土台むり.これが4枚目.
漸くニコラが家にたどりついて玄関を開けるや「誕生日おめでとう!ママン!」と渡したときには,先ほど「折れた花」一本しかありませんでした.ニコラ大泣き.さぞ,悔しかったでしょう悲しかったでしょう.そんなニコラの状況と気持ちを察したママンがニコラに何度もキスしながら,「こんなに素敵な花束をもらったことないわ」とニコラを慰めるのです.さすがにママン.そしてさすがに大人.なぜなら,ここでの「素敵な花束」はun beau bouquetで,題名に倣ったun chouette bouquetではないのです.
でもって最後.「誰が何て言ったっていいけどさ,僕のママンはサイコーなんだ」と題名にあったお気に入りの語chouetteを使ってママンを褒めます.ママンは「サイコー!」(Elle est chouette!)
Comentários