« Djodjo », t.I, pp.56-63.
題名を「ジョジョ」と表記してしまうともったいない.英語圏でよくある名前のGeorge「ジョージ」は,フランス語でもGeorges「ジョルジュ」で,カタカナで音を転写しようとすると,両方とも「ジョ」の音になってしまいますが,英語では[dʒ],フランス語では[ʒ]と,似て非なる音となります.ちなみに,フランス語の[ʒ]は歯を食いしばり(あまり力は入れないで!),口の中で舌をどこにも付けないようにして発音する音で,これができないと,例えば自己紹介の時,Je m'appelle...というたびに,聞いている相手には訛っているように聞こえてしまうようです.「おらは・・・」とか,「わたすば・・・」のような感じでしょうか.
長くなりましたが,このお話の題名である「ジョジョ」は転校生の名前で,フランス語しか知らないニコラたちには,不思議な響きに聞こえたようです.「ドジョドジョ」のような.
日本では日本語が全く話せない小学生が,いきなり小学校に転向してくる,それも日本語を覚えにくるなんてことはあまりありそうにありませんが,フランスは流石にイギリスのお隣さんですから,時々,親の仕事の都合とか,短期留学とかでフランス語の習得を目的として留学生が入ってくることもあるようです.ここでも,先生の紹介によれば,
「みなさん,新しくきた小さなお友だちを紹介します.外国人ですが,フランス語を話せるようにと,ご両親がこの学校に入れられたのです.みなさんは先生のお手伝いをしてくださいね.それから親切にしてあげてください.」
ということですから,この転入生はわざわざフランス語を学びに普通のフランス人の学校へ入れられたというわけです.フランス語を学ぶために入ってきたのですし,ニコラのいる低学年のクラスですから,転入生がフランス語が全くわからないというのは確かでしょう.わからないフリとかではなくて.
それでニコラたちは休み時間を利用して,転入生に話しかけますが,彼は何もわかっていない様子です.ところがどういうわけか,ニコラたちが仲間内でふざけて使う,いつもの悪口・卑語・俗語(「品のない言葉(gros mots)」)だけはすぐに覚えてしまいます.
「何言ってんだ,お前は.バッカだなぁ(dingue)」(リュフュスがアニャンに)
「大ボケが!(Espèce de guignol)」(ウードがジョフロワに)guinolは人形劇の人形を指しますが,転じて「道化」た人の意味で用いられます.
「お前とボクシングやりたいんだろ,ドあほぅ(gros malin)」(ジョフロワがウードに)
「お前,強ぇなぁ(costaud)」(ウードがジョジョに)これは悪口とは言えませんが,口語・俗語的な表現です.
「嘘つき!(sale menteur)」(クロテールがアニャンに)
「みなさんは恥ずかしくないんですか,お友だちがフランス語を知らないのにつけ込むなんて!親切にしてあげてねってお願いしたでしょう.それなのに,まったく任せておけないわ.野蛮人のように振る舞ったりして(petits sauvages).しつけが悪いったらありゃしない(des mal élevés).」(先生がニコラたちに)
「卑怯な告げ口野郎!(vilain cafard)」(ちなみに「告げ口野郎」(cafard)はもともと「ゴキブリ」を指す)(ニコラがアニャンに)
ドジョドジョ君はいよいよ悪い言葉ばかり覚えてしまうのですが,先生も加害者の一人となるのです.
そこで1枚目の挿絵.
いつもの癖で,ジョフロワの鼻に一発食らわせたウードをみて,言葉のわからないドジョドジョがボクシングごっこと勘違いし,ウードに一発食らわせるシーンです.この一発にウードはいたく感心し「お前,強ぇなぁ」と俗語表現を漏らしてしまい,ドジョドジョのフランス語学習に一役買ってしまいます.
そして2枚目は,ドジョドジョが授業中に覚えたての悪い言葉を並べ立て,先生が呆然としてしまう場面が描かれます.
「バッカ!卑劣な告げ口野郎の大ボケ!」
文章の順から言えば,このように先生がドジョドジョの言葉を聞き,ニコラたちを叱った時に,訳知り顔で一人優等生気取りのアニャンに対して,ニコラが放った言葉が「卑劣な告げ口野郎!」ですから,この先生を驚かせる発言には入っているはずがないのですが,そんな些細なことは無視むし.クラスメートの驚いた顔,楽しんでいる顔,笑いを抑えている顔,そんな多様なリアクションと,何を言っているのか瞬時には理解できないで,思わず手を止めた先生の唖然とした表情の対比が伝われば十分なのです.
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