『「プチ・ニコラ」大全』(69)
- Yasushi Noro
- 9月26日
- 読了時間: 5分
Aymar du Chatenet, La Grande histoire du Petit Nicolas Les Archives inédites de Goscinny et Sempé, IMAV éditions, 2022, p.241-249.
『大全』第9章
『プチ・ニコラ』刊行一覧 .........................241
本章は,学術書でいうところの版本(ハンポン)がほぼ年代順に掲載されています.版本というのは,例えば『プチ・ニコラ』でいえば,最初はドノエル社からやや特殊な型(縦18.5X横18),ハードカバーで刊行されるのですが,やがて同社でも携行しやすくもう少し安価の本として印刷されます.ただ読むだけならどれも一緒,と考える向きもあるでしょうが,カラーで印刷されていたり,でっかい豪華本だったりすると,読んだり並べたり所有したりするのが嬉しくなり,より大切に思えるのではないでしょうか.
さらにいえば,「作家」を研究対象にする場合には,どの版本でも同じ作品,つまり同じ字句かどうか調べなければなりませんし,どのような判型で刊行されたかを調べれば,どのように受け取られたか,いわば社会へのインパクトを知ることもできるかもしれません.出版形態の違いで,読み方も変わる?!もちろん,人がある種の考え,方針に基づいて作るものですから,その方針自体の欠点もあります.それについては,おいおい見てゆくことにしましょう.
p. 242
まず,p. 242にはドノエル社から刊行された『プチ・ニコラ』が写真付きで掲載されています.大まかには以下のようになるようです.私はすべての実物を所有しているわけではないので,実際に確認はできませんから,誤解もあるかもしれません.
Le petit Nicolas, 1960.(1960年 刊行)
Les récrés du petit Nicolas, 1961.
Les vacances du petit Nicolas, 1962.
Le petit Nicolas et les copains, 1963.
Joachim a des ennuis, 1964.(後のLe petit Nicolas a des ennuis)
↓にまとめていますので参照してください.
その後,ドノエルからはおそらく単行本の形で2巻本が刊行されています.
Le petit Nicolas 1, 1969.
Le petit Nicolas 2, 1973.
さらに3冊.おそらく単行本で刊行されています.本ページには記されていませんが,この時『ジョアキムの憂うつ』という題名を『プチ・ニコラの憂うつ』と改題しているはずです.(→『「プチ・ニコラ」大全』(62))
Le petit Nicolas, 1980.
Les récrés du petit Nicolas, 1981.
Les vacances du petit Nicolas, 1983.
(Le petit Nicolas et les copains)
(Le petit Nicolas a des ennuis)
写真から判断すると,その後もう一度,初期の判型に戻した版がでているようです.
Le petit Nicolas a des ennuis, 1993.
Le petit Nicolas, 1994.
Les récrés du petit Nicolas, 1994.
Les vacances du petit Nicolas, 1994.
Le petit Nicolas et les copains, 1994.
さらに2002年〜2004年にかけて,上記の5冊を単行本の形で再版しています.
Le petit Nicolas, 2002.
Les récrés du petit Nicolas, 2002.
Les vacances du petit Nicolas, 2003.
Le petit Nicolas et les copains, 2004.
Le petit Nicolas a des ennuis, 2004.
基本的にはすべて1964年までに刊行された本と同内容ですから,コレクターでなければ,全部集めたり,読んで比較したりするまでもないでしょう.

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p. 243
このページにはアンヌ・ゴシニさんと『大全』著者のエマール・デュ・シャトネさんの立ち上げた出版社IMAV ÉDITIONSの刊本が列挙されています.
Histoires inédites du Petit Nicolas(volume 1), 2004.(『未刊行集 第1巻』)
Histoires inédites du Petit Nicolas, volume 2, 2006.(『未刊行集 第2巻』)
Les premières histoires du Petit Nicolas, 2009.(既刊の5冊本を1冊にまとめた本)
Le Petit Nicolas Le ballon et autres histoires inédites, 2009(『未刊行集 第3巻』)
Sempé-Goscinny( Agostini ), Le Petit Nicolas La Bande dessinée originale, 2017.
画期的な『未刊行集』です.新聞や雑誌には発表されていたけれど,単行本には未収録だったお話すべてを読むことができるようになりました.また,お話より前にベルギーで連載されていたマンガ版が初めて本にまとめられました.
Le Petit Nicolas, 2013.
Les récrés du Petit Nicolas, 2013.
Les vacances du Petit Nicolas*1, 2013.
Le Petit Nicolas et les copains, 2013.
Le Petit Nicolas a des ennuis*2, 2014.
La rentrée du Petit Nicolas, 2013.
Les bêtises du Petit Nicolas, 2014.
Le Petit Nicolas et ses voisins, 2014.
Le Petit Nicolas voyage*3, 2014.
Les surprises du Petit Nicolas, 2014.
Le Petit Nicolas c'est Noël !, 2013.
Le Petit Nicolas s'amuse, 2013. (電子書籍)
Les bagarres du Petit Nicolas, 2014. (電子書籍)
Le Petit Nicolas le ballon, 2014. (電子書籍)
既刊の5冊と,『未刊行集』3冊を,正方形の14冊の本に分けて刊行しなおしたものです.*1,*2, *3には「おまけ」として8冊のどれにも収録されていないお話が1話ずつ付け足されています.
詳細は,先ほど記した書誌情報を見てください.
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p. 244
フランスの老舗出版社であるガリマール社から刊行された単行本,<フォリオ>シリーズの一覧が掲載されています.既刊本5冊を都度,表紙絵を変えて何度か出版しています.2011年以降は『未刊行集』の文庫化もされています.
1969年の次は1993年〜,その次は2011年〜,と書店が品薄になると刷っているようです.
p. 245
同じガリマール社の子供向けシリーズ<フォリオ・ジュニオール>(<Folio junior>)の版本です.
1977年〜1980年,1997年〜1999年,2007年〜2011年にやはり文庫本として刊行されています.想像するに,上の<フォリオ>シリーズと棲みわけをしているのだと思います.
2019年にはマンガ版もこのシリーズに入っています.
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p. 246
フランス各地で使用されている言語・方言,そしてラテン語版の写真が掲載されています.オーヴェルニュ方言やブルターニュ方言,マルチニークやラ・レユニオン島のクレオール,ニースに,ノルマンディに,プロヴァンス語に,何とアラブ語,イディッシュ語まで!出版年は記されていませんが,写真からすると,正方形版のようで,出版社はIMAV ÉDITIONSです.
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p. 247-249
世界各国で出版された『プチ・ニ』の翻訳版の写真です.中国語,チェコ語,スロヴァキア語などなど.もちろん,日本語版もあります.
p. 247には1967年,英語に翻訳されたばかりの頃のゴシニのコメントが引用されています.
「私の本の一つ,『プチ・ニコラの冒険』が英語に翻訳されたところです.私のヒーローの言葉遣いはむしろ甘酸っぱい感じなのですが,英仏海峡を渡ったら,お上品な子どもになったので,非常に驚いています.」(p. 247)
フランス人は英語をお上品と感じるのですね.日本語が判れば,どんなキャラになると感じるのでしょうか?

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