『「プチ・ニコラ」大全』(65)
- Yasushi Noro
- 2 時間前
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Aymar du Chatenet, La Grande histoire du Petit Nicolas Les Archives inédites de Goscinny et Sempé, IMAV éditions, 2022, p.220-239.
『大全』第8章
永遠のヒーロー .........................220
第8章第2節「プチ・ニコラは走り続ける」(Le petit Nicolas court toujours) p. 228-229
第2節には『未刊行集 第2巻』の刊行についての説明があります.
『第2巻』は2006年に刊行されました.収録されたのは1959年から1964年の間に『シュッド・ウェスト・ディマンシュ』紙に発表された45のお話です.残念ながら,いつ,どのように掲載されたのかの情報は記されていません.いつ,というのは初出年月日のこと,どのように,というのは,どうやらサンペ以外の人のイラストと一緒に掲載されたお話があるようなので.
『第2巻』では反復ギャグ(?!)か,繰り返されるキャラ(設定)以外で,アニャンのカンニングや,クロテールがクラスのビリでなくなったことなど,『プチ・ニコラ』の新たな側面が発見できます.ニコラが床屋にいったり,プールやチョコレート工場を訪れたりなど,やはり新たな舞台が描かれるのです.その辺は実際に読んでいただくとして.
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『第2巻』の発行部数は最初から20万部とかなり強気の設定でした.そうでしょうね,『第1巻』でブームを巻き起こしたのですから.ゴンクール賞を受賞したジョナサン・リテルの『慈しみの女神たち』(Jonathan Lettell, Les Bienveillantes )を押さえて売り上げナンバーワン.売り上げは32万部に達したそうです.宣伝上手なのか(誰の?),その頃から,ポコポコ,各界著名人たちの『プチ・ニ』へのコメントが出されているようです.子ども時代は『プチ・ニ』で育ったとか,『プチ・ニ』に刺激を受けただとか,僕はニコラだ,などなど.精神科医のボリス・シリュルニクまででてきて,「レジリエンス」概念を引いて分析しちゃったりして.
「ニコラは『レジリエント』ではない.ニコラはどんな傷も負っていないし,健全に成長する.おバカなことをやらかすが,それはとても良いことだ.ニコラの反抗は健全だ.『プチ・ニコラ』はわれわれの子ども時代について語っている.」(p. 229)
ちなみにレジリエンス(résilience)は名詞形で,形容詞形,あるいは性質を担う人物を表すのがレジリエント(résilient).ストレスや困難からの回復力を表すそうです.ラテン語のresilire「跳ね返る」が語源とのこと.↑一応訳しましたが,う〜ん,フランスの流行作家の先生が,自分の提唱した理論を引用して発言しただけのような.ま,いいんですが.
この節ではさらに,「サルコ」こと,ニコラ・サルコジの選挙運動についても触れられています.後に大統領になる「サルコ」さんですが(後に犯罪者として裁かれる「サルコ」さんですが),2007年の選挙運動時に,『プチ・ニ』に引け目を感じ,「ニコラ」を避けて「サルコ」の文字をTシャツに記したのだとか.そうですか,そうですか.オトコだけじゃなく,ゆーめー人は辛いよ.
でも一番興味深いのはここから.『第2巻』に収録されたお話のうち,7篇にはイラストがないか,あるいはサンペ以外の人のイラストがついていたそうです.「締め切りか郵送のせい」ではないかと推測されています.ただ,『プチ・ニ』がサンペ−ゴシニの作を指すという定義に異論はないものの,個人的には,他の人のイラストも見てみたかったです.だって,少なくともゴシニはゴーサインをだしたのでしょうから.それはともかく,サンペは47年前,二十歳の頃のスタイルに向き合いました.この時点でサンペは74歳.まさに大冒険です.こうして新しいニコラが生まれました.私が,線が細くておしゃれ(瀟洒)と書いたイラスト群です.
「月日を経ても皺のよらない私の父の文章と,サンペの新作イラストの間に,見事に錬金術が働いています.依然として,魔法が効いているのね.」(p. 229)
『プチ・ニ』ファンにしてみれば,ほんとうに魔法に違いありません.ぜんぜん絵が違うのに,やっぱり『プチ・ニコラ』と感心してしまうのですから.

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