『「プチ・ニコラ」大全』(61)
- Yasushi Noro
- 3 時間前
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Aymar du Chatenet, La Grande histoire du Petit Nicolas Les Archives inédites de Goscinny et Sempé, IMAV éditions, 2022, p.179-219.
『大全』第7章
『プチ・ニコラ』,フランス文学の古典になる .........................179
第7章第4節「栄光へまっしぐら」(En route pour la gloire) p. 201-205
P. 205
このページもまた,本節でよかったのかどうか.でも,前ページでジルベルトとの結婚,アンヌの誕生が紹介されていて,なおかつ,アンヌのかわいい姿(というより,かなり整った美人さん)の写真が掲載されていますから,その続きではあります.
娘のアンヌはパリ十六区の小学校に入りました.その際に,ゴシニの娘だ,しめた!と思ったんでしょうね,十六区の保護者会(もちろん,我が国のPTAですね)の季刊誌がゴシニに執筆を依頼したようです.そこでゴシニは,アンヌの入学について「『プチ・ニ』文体」で一文を寄稿しました.
「『プチ・ニ』文体」?! 『プチ・ニ』ではなく? そうですね,いつものお話のパロディというか模倣というか.語りではニコラではなく,アンヌ.その下に( )に入って,P.C.C.(Pour Copie conforme),つまり「原本と相違ないことを証明する」,要するに,「確かにゴシニが書きました」って記されています.残念ながら,サンペのイラストはなし.だからやっぱり『プチ・ニ』ではないんです.番外編でもありません.やはり二人揃わねばなりませんから.いつの日か,ゴシニ全集が編まれる時には,こういった刊行物や雑誌に提供された文章も集められるのでしょうか.そんな日が来るのかなぁ,ちょっと想像できません.文学という制度内なら作家の書いたもの何でも詰め込んで全集が編集されますが,ゴシニにはマンガもシナリオもイラストもとにかくたくさんありますし.
ですから,こういう<発見,発掘>はやはり貴重です.貴重ですから,全文訳して紹介しましょう.
< Première rentrée > dans l'Association des Parents d'Élèves(15, rue des Bauches, Paris 16e), Bauches-Zédé, nos. 5-7 novembre 1972.
「初めての新学期
ルネ・ゴシニが『プチ・ニコラ』のお話の文体で,初めての新学期について一文寄稿してくれました.
このあいだ,パパがママンに言ったの.
− この娘も学校へ行く時期だな.
パパが私のことを「この娘」と呼ぶときは,パパはあんまり機嫌のよくないときなの.たとえば,私がいっちばん好きなお話は?と聞かれて,『ババール』ってパパに言ったときみたいにね.私のパパはアステリクスのお話を書いてるの.でもね,ぼうしに羽をくっつけたおじさんたちがほんとうはどこにもいないなんて,そんなの私のせいじゃないもの.ゾウさんみたいにほんとうにいるんじゃないんだから.まったく,何よ,冗談じゃないわ!パパが機嫌のいいときには,パパは私のこと,「僕のうさぎちゃん」とか,「僕の子猫ちゃん」とか,「僕の小鳥ちゃん」なんて感じで,ちっちゃな動物の名前で呼ぶのよ.おかしいでしょ?ゾウさんのことなんて何も知らないのにね.
それで,パパが「この娘も学校へ行く時期だな」って言ったら,ママンはパパをじっと見てからパパに言ったの.
− この子はまだちっちゃいでしょ.
− 学校ってなあに?って私は聞いたの.
パパは,
− 全然そんなことないよ.いつか行かなきゃならないんだ.それにこの娘はウチで退屈しているじゃないか.学校なら友だちもできるし,楽しいだろ.学校も君の時代とは違うんだから.
ママンが返す.
− そりゃどうも,うれしいこと言ってくださいますわね.私はそんなに歳とってませんわよ.
− どんなだったの,ママンの時代の学校って?って私は聞いたの.
私はね,聞きたいことがいっぱいあるの.でもどうも,パパとママンは私が何か聞くとイライラするみたい.でも今回は違ったの.二人とも私の話なんて全然聞いてもない.勝手にイライラしてるの.
パパが言ったの
− 話をすり替えるなよ.この娘の教育の話じゃないか.
− 教育ってなあに?って私は聞いたの.
ママンが返した.
− まだほんの子どもじゃないですか.学校へなんてぜったいに行きたがりませんよ.
− 行く!私学校へ行きたい!行くったら行く!学校へ行きたい!行くったら行くったら行く!学校へ行きたい!って,私は何度も大声で叫んだのよ.私には学校へ行く権利があるんだもの.みんなと同じように,私の時代の学校へ,ね.
− ほうらね.
パパがサラダのおかわりをしながら言った.ママンは大きなため息をついた.
それからね,すっごくすてきなの.ママンがノートに鉛筆,お洋服にスモック,新品の靴にレインコートまで買ってくれた.パパが,私はバカロレアまで困らないぞ,だって.
− バカロレアってなあに?って私は聞いたの.
− それは試験だよってパパ.
− それってどうするもの,試験って?って私は聞いたの.
そしたらパパが,
− ほらね,この娘は68年5月生まれだよ,だって.
− 68年5月ってなあに?って私は聞いたの.
ママンが言った.
− 明日が新学期だと思うと,心配でならないわ.
そしたらパパが,
− うまく行くって.まあまあ,見てなさい,だって.
− でも,初めて,この子は私たちから離れるんですよ.泣いたりしないかしら.
− おやおやおや.っていいながら,パパは私にチュッてしたの.わらっちゃった.だってお鼻の先っちょになんだもん.
新学期は,とってもうまくいったわ.人がいっぱい,ちっちゃな男の子がいっぱい,ちっちゃな女の子がいっぱい.みんな忙しなく動いて,ザワザワしていたわ.私はママンにチュッてして,それから走って学校へはいっていったの.すっごくすてきだったわ.いつかお話しするわね.
そういえば,涙といえば,ママンの言った通りだったわ.私が学校から帰ったら,ママンは道で泣いていたもの.
アンヌ
(ルネ・ゴシニ作)

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