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『「プチ・ニコラ」大全』(56)

  • 執筆者の写真: Yasushi Noro
    Yasushi Noro
  • 9月5日
  • 読了時間: 7分

Aymar du Chatenet, La Grande histoire du Petit Nicolas Les Archives inédites de Goscinny et Sempé, IMAV éditions, 2022, p.179-219.

『大全』第7章

『プチ・ニコラ』,フランス文学の古典になる .........................179

第7章第2節「テレビに出たよ!」(p. 188-191)


p. 190-191

前回に引き続き,サンペとゴシニがテレビに初出演した際のインタビューです.


P. D.(インタビュアー):その他,子どもである指標は何ですか?はしゃぐこととか?

R. G.(ゴシニ):そうですね.子どもはいつでもはしゃいでいます.よくケンカするし.とにかくケンカが好きですよね,子どもらしく,つまりその,相手に対して怒っているというのではなしに.子どもというものは,現実には決して相手を傷つけたりしませんし,ケンカしている間は,互いにすごく楽しんでいるんです.それに,生徒監がケンカを止めに来るたびに,子どもはぶつぶつ言う.なぜって,彼ら曰く,「面白くなってきたところで,止めに来るんだ」,と.


P. D.(インタビュアー):休み時間には,いつも何かが起こる,と?

R. G.(ゴシニ):そうなんです.休み時間にはいろいろ起こるんです.子どもが予想もしない何かが.子どもが休み時間に校庭に降りてゆくのには目的があります.何か特別なことをしようと考えているのです.サッカーをしたり,新聞を作ったり,たくさんの活動があります.でも結局のところ,子どもというのは何もしていないのです.何かするには,まずはリーダーを選ばなければなりません.それ一つするにしても,いつもケンカを始めてしまう.あとはいつも同じ.休み時間は短いもので,ケンカをしては生徒監が来て・・・これで終わってしまう.それで次の休み時間にまた始めて.でもそれが子どもには楽しいんです.


P. D.(インタビュアー):生徒監って,ブイヨンさんのことですね.

R. G.(ゴシニ):そうです.なぜブイヨンと呼ばれているかというと(以下,省略)(p. 190)


 ここまでは全訳です.やっと一息つけそう.子どもははしゃぐ,ケンカする,ワクワクする,あり得ないこと(予想できないこと)を楽しむ,そんな子どもを制作したい(書きたい/描きたい)という気持ちが表現されています.確かに,ニコラとはこういうキャラで,だからこのお話の主人公で・・・と作ることもできたのかもしれませんが,そうではなく,「子ども」ってこういうもの,という普遍に軸足をおいたところに,『プチ・ニコラ』が成立しているのです.そうかといって,それではキャラ(特徴)づけを放棄したわけではありません.それどころか,「ブイヨンさん」から始めて,これから,アルセスト,リュフュス,クロテール,ウードと,4人の紹介が入ります.


R. G.(ゴシニ):アルセスト,ニコラの親友で,何でもありのやつだ.アルセストはデブで,いつも何か口にしている....(p. 190)


 この後,リュフュス,クロテール,ウードの紹介が続きますが,紹介の半分はお話の中で描かれたまま.例えば,「アルセストはデブで・・・」という具合.後の半分は,より詳しい説明になっています.例えば,リュフュスは「家族の思い出」としてホイッスルをもっているから,「サッカーの試合でいつも審判をやる.ところがそれが諍いのもとで,だって審判と選手の両方を同時にやるものだから,自分のチームをえこひいきしがちになる」とか.これは私の記憶では,このままではお話に組み込まれていなかったような.だから,この人物紹介の部分も,子どもたち一人一人のキャラをもっと知るには役立ちそうです.

 でもとりあえず,全訳は避けて,次に行きましょう.


P. D.(インタビュアー):お話の筋が展開される舞台はどこ,サンペ?

J.-J. S.(サンペ):まずは学校ですね,もちろん.それから空き地,それと学校の行き帰り,まぁ,路上かな.たぶん別の場所もあるけど.


P. D.(インタビュアー):美術館訪問なんてのも.

J.-J. S.(サンペ):レクリエーション*の一環としてね.美術館に行くなら木曜日だよね.一般に木曜日は授業もないし,学校もない.だから,でっかい休み時間といったところだね.

*フランス語でrécréation.第2巻『「プチ・ニコラ」の休み時間」の原題はLes Récrés du Petit Nicolas.récrésの元はrécréationsで学生がよく使う省略語.「休み時間,(仕事の合間の)息抜き,気晴らし」の意味がある.それを踏まえて,サンペは「レクリエーションの一環」,「でっかい休み時間」と言っている.すべて同じrécréationの語.以下のゴシニの発言にも注意.


P. D.(インタビュアー):検査なんかもありますね,お医者さんの.

J.-J. S.(サンペ):検査は面白いよね,ここでルネ・ゴシニさんに話してもらいましょう.さぁどうぞ!

R. G.(ゴシニ):検査してもらうよって子どもたちに知らせたんだ.医療検査ね.子どもにはそれがどんなものか,よく分からなかったんだ.でも終いには,絵を描いて変なやつじゃないって証明することだと理解したんだ.それで指定日に,ママンたちに連れられて無料診療所に集合した.服を脱ぐとすぐに,こんな場合にありがちなおふざけ(récréation)が始まる.ちっちゃなガキが真っ裸になると,すぐに他のガキどもに力こぶをみせるだろ.体重を測りに行くと,体重計にのるじゃない.即座に一つの体重計に2人がのっかっちゃう.つまり,こういう場合にしそうなこと,たいがい全〜部やっちゃう.お医者さんはうんざりしてしまう.それで最後に,かの有名な絵を描かせて調べるんだ.僕の想像によると・・・


P. D.(インタビュアー):精神の健全さを測るあれですね.サンペ,子どもはどんな絵を描くの?

J.-J. S.(サンペ):登場人物それぞれのキャラによるね.アルセストはカスレを書いたと思うよ.食べるの大好きだし.他の連中も,色々描くね.アルセストはひたすら自分の気質で描くんだ.

R. G.(ゴシニ):クラスで一番で先生のお気に入りのアニャンはフランスの地図を描く.県名入りでね.

J.-J. S.(サンペ):ニコラはケーキだな.

R. G.(ゴシニ):クロテールは何も描かない.だってやつは何も用意してなかったんだ.いつもびりっけつ,検査でもね.それでお医者さんはね,子どもたちが帰ってから,拳銃の絵を描くんだ.(p. 190)


 美術館訪問は本ブログ(29),身体検査は(33)で紹介したお話で出てきます.身体検査は実写版映画第一作目でも効果的に用いられていました.日本の小学校ではロールシャッハテストはしないような気がしますが(私はしませんでした,幸いにも!),当時のフランスでは実施されていたのですかね.ゴシニの発言,よく読むと途中から時制が変わっているんです.最初は「検査してもらうよって子どもたちに知らせたんだ」と過去形になっていますので,実際にアナウンス(告知)したことになっています.「よく分からなかった」「理解したんだ」も同様です.それが「おふざけが始まる」からは現在形が用いられていますから,ここからお話モードになり,ゴシニの想像が展開されているようです.



 ほんの少し飛ばして,最後にp. 191の会話です.


P. D.(インタビュアー):あなた方に言わせると,これはむしろ親のための本でしょう?

J.-J. S.(サンペ):そうですね.子どものいる親のための本だし,親のいる子どものための本ですね,思うに.

でも,おおかたの人のための本なんです.大人のための本を作ろうとしたわけでも,子どものための本を作ろうとしたわけでもないんです.いずれにせよ,そんなに違いはないんですから.

R. G.(ゴシニ):何か面白いものを作ろうとすると,何歳くらいの人からとか,何歳ぐらいまでの人を笑わせようと決めるのは簡単ではないのです.


P. D.(インタビュアー):こういう風にニコラを描くことになったのは,子供時代の想い出からでしょうか?

J.-J. S.(サンペ):たいがいそうですね.私には学校へ行っていた時の結構いい想い出があるんです.随分とたのしみましたから.大はしゃぎして.だから,子どもを描くのが好きなんです.


P. D.(インタビュアー):これはユーモアに満ちた本ですね.ちょうどね,これはとてもとても面白い本です.

J.-J. S.(サンペ):作者両名から,ご親切に有難うございます.


 結局,ブイヨンさんを入れて5人の人物紹介の部分以外,全訳してしまいました.つい,面白かったもので.これでまた,『プチ・ニコラ』の読み方が変わりそうな予感がします.


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