top of page

『「プチ・ニコラ」大全』(52)

  • 執筆者の写真: Yasushi Noro
    Yasushi Noro
  • 8月26日
  • 読了時間: 4分

Aymar du Chatenet, La Grande histoire du Petit Nicolas Les Archives inédites de Goscinny et Sempé, IMAV éditions, 2022, p.179-219.

『大全』目次


『プチ・ニコラ』,フランス文学の古典になる .........................179


第7章の続き.


前回(51)の末尾の「(続く)」に続いているわけですが,前回分の執筆が2024年12月21日.ということは・・・,8ヶ月も放置していたんですね.人気ブロガーとかじゃなくてよかった.続けて読んでくれている人がいたら,書いた人,もう死んでるんじゃない?とか,何か事件に巻き込まれたか?とか,ネタが切れたかとか,もう,いろんなことが想像できてしまいますが,今回の場合は,単純に依頼のあった仕事(6月に無事終了)の準備で,とにかく時間がかかったということにつきます.それだけ.本を借りて,何冊も読んで,何ができるか考えて,まとめて,フランス語で書いて・・・と,ネタから方法から,とにかく時間と心の余裕が奪われてしまっていました.不義理もせず,無事済んでよかった.というわけで,その発表を挟んで前後には第一学期,第二学期と授業もあるわ,なんやかやでてんわやんわ(ってどういう日本語なんでしょう?).8月半ばにようやく解放されてから・・・ってもうやめた!とにかく,随分長いこと余裕がなかったということに尽きる.以上.

 で,ようやく売れ始めましたというのが前回の内容なので,今回は続きです.p. 182から.



 『プチ・ニ』はガリマール社の<フォリオ>シリーズに入り,次第に,「児童文学の古典」に分類されるようになりました.ちなみにドノエル社は1951年にガリマール社の系列会社であるZED社に買い取られたそうなので,姉妹会社となるようです.<フォリオ>シリーズに入るということは,日本でいうといわば文庫化.つまり誰でも安く気軽に入手できるようになったということになります.1960年代末の時点で,第一巻は300万部,その他4巻も200万部前後売れており,「文科省推薦」(recommandé par le ministère de l'Éducation nationale)の称号も得て,全国の教員が教育に用いるようになりました.


「あなたの出された本は本当にすごいですよ,ゴシニさん,6年生*は大笑いし,4年生はユーモアの背後に風刺があるのを理解します.教育的効果なんて素振りも見せていないのに,何とすごい教育でしょう!」(教師・女性)(p. 182)

*フランスの小学校は5年間なので,6年生は中学(コレージュ)の1年生に該当する.そこから学年が上がるごとに数字を遡るので(5, 4, 3...),4年生はしたがって中学3年生に該当する.


「私の生徒は概して聞き分けの良い子たちです.目下のところ,最高のご褒美は『プチ・ニコラ』を読むことというのを理解しています.それに,『プチ・ニコラ』を読むことは素晴らしい文章練習ですからなおさらです.というのも,私は生徒たちに正しいフランス語に翻訳させていますから.」(小学校教師・男性)(id.)


 ゴシニに寄せられた賛辞?が引用されています.後者を読んだゴシニは思わず吹き出したとのこと.そりゃそうですね,『プチ・ニコラ』の文章,つまり全文ニコラの語りですから,ニコラが正しいフランス語を使っていないと言っているわけですから.でもともかくも,教育現場から大絶賛を受けているわけです.

 そしてこの頃から「学校の価値の神聖化」とか,「大人の世界の魅力的な風刺」とか,「やんわりほろ苦い皮肉で包んだ社会学的分析」とか,しかつめらしい言葉で形容され始めるのですが,とにかくずばり評判がよくなった,教育界でも大歓迎された,ということでしょう.


「〔登場人物としての〕プチ・ニコラは洞察と観察の感覚を持ち,この小さな兄弟は8年生で,自分より年上の人々の言行を見逃さず,論理的な精神を備えている.劇中の会話は大概かなり適切で,まるで隠したカセットデッキの録音から取り出したようである.」(id.)


 洞察,観察,論理的な思考.大人の言行,言い訳,取り繕いを見逃さず,会話は無駄がなく,本物のよう.私の考える『プチ・ニコラ』の美質・特質がずばり,指摘されています(1965年のデピネットという方のコメント).こうして,「地方紙の単なる気晴らし」から,(全国の?)「批評」によって認められたという図式です.(個人的にはこの図式と,文学の聖化の関係が気になるところですが,それは置いておきましょう).


「ニコラは大人に対して,素朴な視線を差し向けているようでいても,その素朴さはフリにすぎない.現実には,極めて明敏な視線だ.この登場人物は大人を魅了するから,口実を見出す大人もいるだろう.子ども新聞同様,子ども向けの書物を読むのは,その9割が親である,とオノレ・ボステルは『パリ・マッチ』で指摘している.それゆえ,『「プチ・ニコラ」を再読すれば,ゴシニはその想像力と文体に鑑みて,物語の語り手にして戯曲作家であるのは明らかだ』,という者もいる.」(id.)


 どうしてこんなに褒めちぎられているのに,公式の文学史には登場しないんでしょうね?文学の七不思議の一つです.


同ページには『シュッド・ウェスト・ディマンシュ』紙に掲載されたお話のうち,どれを『プチ・ニコラの休み時間』(1962年刊行)に収録するか,ゴシニが考察していた時のメモが掲載されています.↓


ree

 
 
 

コメント


© 2018 par lui-même

contact : yas_edo[a]hotmail.com

bottom of page