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『「プチ・ニコラ」大全』(48)

執筆者の写真: Yasushi NoroYasushi Noro

Aymar du Chatenet, La Grande histoire du Petit Nicolas Les Archives inédites de Goscinny et Sempé, IMAV éditions, 2022, p.174.


 相変わらず『大全』の紹介をしているわけですが,少しずつ読んで少しずつ翻訳し少しずつまとめては紹介していると,木を見て林か森を見ないようになってしまい,一体なぜこんな記述がここで出てくるの???と疑問に思うこともしばしば.前回が未発表原稿の紹介だっただけに,このページではなぜ突然アステリクスやイズノグードといった,ゴシニが原作でもサンペ以外の人がイラストをつけた作品に触れられているのかと思い,この本の構成と目次を振り返ってみると...


目次

ゴシニとサンペ 優等生と劣等生 .......................... 11

運命の交差 .......................... 33

友情 .......................... 55

『プチ・ニコラ』,最初の一歩 .......................... 67

超ナイスなクラスメートたち .........................119

『プチ・ニコラ』,雑誌『ピロット』でアステリクスと同時掲載 ........................159

『プチ・ニコラ』,フランス文学の古典になる .........................179

永遠のヒーロー .........................221

『プチ・ニコラ』刊行一覧 .........................241

『プチ・ニコラ』関連年表 .........................252

あれから彼らは・・・ .........................253

『プチ・ニコラ』書誌 .........................254

謝辞 .........................255


 今は第6章.だから,『プチ・ニコラ』と同時期の作品を扱うというのが主旨の章でした.それで,本節の題名が「アステリクス,イズノグード,ニコラ・・・小さくて悪賢いヒーロー」なのです.ようやく納得しました.


「アステリクス,イズノグード,ニコラ・・・小さくて悪賢いヒーロー」


『プチ・ニコラ』,アステリクス,イズノグード,それぞれの冒険は異なれど,その実少なからぬ関係がある,なんてことを知っている人は少ないかも?なんて書き出しですから,どんな共通点が?と思いつつ読みました.まぁ,イラストも発信形態も↓のようにだいぶ異なりますが,すべてにゴシニが関わっているわけですから,共通点があっても当たり前と言えば当たり前なんですが.


『アステリクス』はマンガで,イラストはユデルゾが担当.→『大全』(38)など.

『イズノグード』もマンガで,イラストはタバリが担当.→『プチ・ニコラ』hors-série(3)-3, 『大全』(22)など.

『リュッキー・リュック』もやはりマンガで,イラストはモリスが担当.→


 ゴシニはこれらの作品を同時並行で,ときに同日に執筆していました.それでも別々の作品ですし,ストーリーなんかも異なるので,何が共通点かと言うと,例えば,どの物語にも「小さい」ヒーローが登場する点とのことです.


「これら小柄で,興奮でいきりたったり,がなりたてたり,少々頭のイカれた人物たちはみな,ごく単純に読者を笑わせるための存在なんだ.」(René Goscinny, Le Pélerin, 8 juin 1969, cité par l'auteur, p. 174)


 なるほど,大きい人が大きい身振りで興奮したりがなりたてたりしていたら引いてしまいますが,小柄な人なら,ちょっとかわいらしくて笑ってしまうかも.だから,人を微笑ませるための,ゴシニの工夫の一つなんですね.


「ニコラちゃん(=プチ・ニコラ)はまずもって小さな少年なんだ.体が小さいのは,ずる賢さの印なんだけど,何より,才能を駆使して何とかうまいことやるにちがいない人物の印でもある.そんな才能,誰にでも備わっているってものでもないんだ.揉め事があったとして,登場人物の体が大きくて力が自慢というなら,もうすでに問題の一部は解決済みとなってしまう.それに小さい人物のほうが面白おかしいし,読者の同情も得られるんだ.」(« René Goscinny s'explique », entretien avec Bernard Pivot, Lire, 8 mai 1976, cité par l'auteur, p. 174)


 確かに確かに.大きくて強い人なら,どうせ勝つでしょうなんて安心して見ていられますけど,小さいと,どうやって勝てるっていうんだ???とハラハラします.それに,そのどうやって,も気になり始める.やっぱり小さくて小回りがきく人が物語,もしくは喜劇には適切なんでしょうか.

 『大全』の著者はさらに,小さいヒーローには必ずペアとなる相棒がいると指摘しています.ニコラには大喰らいのアルセストが,ダルトン一家(『リュッキー・リュック』)の主役(?)に近い一番ちびの「ジョー」には,一番でかいアヴレルが(「飯は何時だ?」が口癖),アステリクスには言わずと知れた無類の猪好きのオベリクスが,そして一人で悪知恵働かせていつも一人で自滅するイズノグードにさえ,ターキッシュデライト(アラブ風のお菓子だそうです)を頬張るカリフ(王様)がいるというわけです.

 というわけで,キーワードはちっちゃくて,大食漢の友だちがいる!



}ちっちゃくて,悪賢くて,相棒がいる.


「『プチ・ニコラ』のいとこ」


 このページにはもう一つ,節が挿入されています.「『プチ・ニコラ』のいとこ」とは言っても,お話中に登場するニコラのいとこのことではありません(→『プチ・ニコラ』(115), (185)).『プチ・ニコラ』というお話(を比喩化して),そのいとこのような存在,つまり,ゴシニが他の作品に登場させた「学生」を指しています.

 まずは1962年,ゴシニのシナリオにゴットリーブがイラストをつけた『おかしなおかしな資料集』(Dingodossiers)に登場する学生です.以下の創作年の説明と齟齬がありますが,『大全』の著者はきっと執筆年を記したのでしょう.私は読んでいないのですが,なんでも,綴り字ミスの多い,ちょっとぼっとした,できの悪い学生シャプロがニコラのいとこに位置付けられています.


*Dingodossiersはdingue(「頭のおかしい」)とdossiers(「資料,書類,提出物」など)を組み合わせたかばん語で,1963年から1967年まで『ピロット』に掲載されたユーモアマンガです.

情報源はフランス語版wikiさん.

でも英語版のwikiさんのほうが説明は詳しいかも.

マルセル・ゴットリーブ(Marcel Gottlieb, dit Gotlib(1934-2016))は多くのユーモア作品で知られ作家,マンガ家と活躍した人です.

やっぱりwikiさん.


 もう一人のいとこは,ゴシニがキャビュと創作した高校生だそうです.ニコラより少し大きいですね.ちなみに著者はこの高校生を,やはりキャビュとの共作「大人物デュデュシュ」の前身と捉えています.→『プチ・ニコラ』hors-série(3)-5

もうひとつちなみに,キャビュ(Jean Maurice Jules Cabut, dit Cabu(1938-le 7 janvier 2015))は言わずと知れた,あの惨事,1月7日のパリの『シャルリ・エブド』襲撃事件の犠牲者です.


「あいつは有名な学生だったんだよ,キャビュはね.高校を幾つも退学させられてたからね,サンペみたいに,他の学生からすれば,キャビュはなってなくてどうしょうもないやからのお手本さ.それなのに,サンペもキャビュも,何年もおふざけで過ごしても,人生,後になってみれば何とかうまくやれるってのを証明したんだ.だけど,それにはとてつもない才能を持つのと,とんでもない量の仕事をこなすってのが条件だけどね.」(Sud Ouest dimanche, 10 octobre 1965, cité par l'auteur, p. 174)


 ニコラたちもそうですが,「いとこ」さんたち,いわゆる劣等生のほうが人生うまくやれるもんだよってオチがいいですね.私も小さくて,近所のガキの頃から知っている,180を超えた高校生にバカにされますが(そう思い込んでますが),小柄でバカで社会に適応できなくても,人生,スイスイうまくやれたらいいなと励まされる思いです.

 最後にもう一つ,キーワードは劣等生であれ!でも才能が一つと努力が必要.





 
 
 

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