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執筆者の写真Yasushi Noro

『「プチ・ニコラ」大全』(22)

Aymar du Chatenet, La Grande histoire du Petit Nicolas Les Archives inédites de Goscinny et Sempé, IMAV éditions, 2022, p.150.


「『プチ・ニコラ』から『イズノグード』が誕生?」(Naissance d'Iznogoud dans le Petit Nicolas)


 ゴシニが,サンペではなく別の人と組んで大ヒットしたマンガといえば?と書いてしまうと,フランス人なら99.9%が『アステリクス』!と答えるでしょう.確かに『アステリクス』シリーズは,映画にもアニメにもなったし,外国での翻訳もあります.ディズニーランドならぬアステリクス・パークもあるし,二人の作者(ゴシニとユデルゾ)の死後も,他の人が書き継いでいるほどの人気シリーズです.でも,ゴシニが関わって飛ばしたヒットは,それだけではないんです.マンガに限っても,『リュッキー・リュック』もそうだし,ここで名前の挙がった『イズノグード』もその一つです.

 以前にも触れましたが(hors-série(3)-3)『イズノグード』(Iznogoud, 1962-2004)は,ゴシニとジャン・タバリ(Jean Tabary(1930-2011))が共同で制作した大ヒットマンガです.1962年から1977年まで『ピロット』に掲載されていました.題名を英語風に発音すればわかるように(is no good),「カリフにとって代わってカリフに」なりたくって,散々策略をめぐらす腹黒の宰相「イズノグード」を描いたコメディです.

 本節で著者は,この人気シリーズが,実は『プチ・ニコラ』から誕生したと書いています.

 前回お話ししたように,5巻本『プチ・ニコラ』の第3巻は,ヴァカンス中のニコラのお話をまとめたものでした.その「お昼寝」を暑かったお話の中で,ニコラの班の班長さんが,子どもたちを寝かそうと,お昼寝の前に物語をしてくれます.そこで登場するのが,「邪悪な召使い」(un très méchant vizir)でした(48).そこに付されたサンペのイラストは,↓のようなものです.


(本書p.150より)


 著者によれば,1961年8月20日に『シュッド・ウェスト・ディマンシュ』紙に掲載された,この「お昼寝」のお話が『イズノグード』の始まりだというのです.

 『イズノグード』の連載は,1962年1月15日付けの『レコール』(Record) という雑誌から始まったそうです.


(本書p.150から.『レコール』1962年1月15日号掲載分の原稿)


「班長さんのお話から,サンペは『プチ・ニコラ』の中に,子どもたちに混じって,イズノグードの初出となるイラストを描いた.数ヶ月後,ゴシニは班長さんの語った話を思い出し,この発見を利用して,「イズノグード」と名付けた,卑劣な召使いを登場させた.」(p.150)


 著者の奥さんはアンヌ・ゴシニ.つまりゴシニの娘さんなので,生前,お父さんからそんな発生譚を聞いていたのかもしれません.それに,掲載順,そしておそらくは執筆順からいえば,確かに辻褄が合います.「邪悪な召使い」という言葉遣いもそのままなので,疑う理由はないのでしょう.『プチ・ニコラ』に最初の発想らしきものが挿入されているのもそうなのですが.ま,作者の一人(ゴシニ)が共通しているわけですし,『イズノグード』がここから始まった!といいたい気持ちもわかるのですがねぇ.どうなんでしょ?

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