Aymar du Chatenet, La Grande histoire du Petit Nicolas Les Archives inédites de Goscinny et Sempé, IMAV éditions, 2022, pp.148-149.
「ヴァカンスの時間」(Le Temps des vacances)
『プチ・ニコラ』といえば5冊本.そんな時代が長らく続いたことについては,何度となく書いてきましたが,その第3巻は2年分の夏のヴァカンス(夏休み)のお話を集めた単行本でした*.
*Les vacances du petit Nicolas, Éditions Denoël-Gallimard, 2010, < folio >(初版は1962年の刊行)(小野萬吉訳『プチ・ニコラの夏休み』世界文化社,2020年,<プチ・ニコラシリーズ3>)
既刊本については,以下の書誌を参考にしてください.
本節では,既刊本第3巻の後半部に収録された,ニコラがパパとママンから離れて独り臨海学校へ参加するお話の構想について,説明がなされています.本ブログでは(43)〜(52),そして(222)で紹介したお話です.
ニコラの語りで成立する『プチ・ニコラ』は,必然的にニコラの見聞している日常生活のお話が中心になりますから,学校とそこでの変な名前のクラスメートがよく登場します.でも,本話では学校を離れ,ニコラは単独,コロニ・ド・ヴァカンスに参加するので,いつものメンバーは登場しません.代わりに,一緒に臨海学校を過ごす,夏休みの友だちが必要となります.マメなゴシニですからその辺抜かりなく,やはり変な名前の友だちを揃え,さらにはどんな話にするか,構想を練っていました.それが以下の手書きのメモです.
ルネ・ゴシニ手書きの作業用準備ノート(p.148)
上段
↙︎ ニコラ
ジョナス
アタナーズ 班長:
ポーラン−ママンの元へ帰ると泣く ジェラール・レストゥーフ
ガルベール-彼は陽気(見え消し)(加筆部分は不明)
ベルタン-陽気な仲間
オメール
ウスタッシュ
カリクスト ヤマネコの眼班
クレパン たぶんに良い子 キャンプ・ブルー,浜辺,列車
ナルシス
スペンサー
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まずは,ヴァカンスの仲間たち,そして彼らを束ねる班長さんの名前,そしてニコラの所属する「ヤマネコの眼」班の名前,場所の設定が記されています.『プチ・ニコラ』では,アルセストはいつも何か口にしている太っちょとか,パパがお金持ちのジョフロワのように,必ず全員に形容が付与されていますから,今回も同じ.ポーランは泣き虫で,すぐにパパ,ママンの元に帰りたがる(49), (222)-2.ベルタンは聞かん坊(48).いつものクラスメートよりはキャラづけが弱そうですが,皆それぞれクセがあるように設定されています.
中段
臨海学校の校長先生 ラトーさん 8時起床
会計係 ジュヌーさん 作業 集合,着衣
体操
団結の掛け声:「勇気」 身支度
朝食
鷲班 作業
毛皮猟師班 寝床整理
勇者班 ✅海水浴
ヤマネコの眼班 集合
開拓者班 昼食
合唱
✅お昼寝(班長が邪悪な召使いの話をする)
集合
✅海水浴
夕食
合唱
就寝
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キャスティング(配役)に続いては,班の構成と1日の日程表です.軍隊式に,何時に何をするか,詳細が定められています.もちろん,ニコラたちがそんなものに大人しく従うはずもないのですが.班名,固有名などは印刷されたお話でも,そのままいかされていますし,チェックの入ったところなどは,一つの逸話となっています.
下段
列車で移動 − 到着 − 小屋に入る
1日の予定 − 海水浴
散策
お昼寝
真夜中のゲーム
釣り(スープ・ド・ポワソン)
ベルタンの両親の訪問
下段には到着〜滞在中の出来事が列挙されています.散策,お昼寝等々は,そのままお話に使われています.散策は(47)の「ブラスク岬」への小旅行,お昼寝は(48),真夜中のゲームは(49),釣りは(50),両親が立ち寄るのはベルタンではなくて,クレパンに設定が変わっていましたが(51)でした.ほぼ,準備ノートの順に従って,お話が用意されていったということでしょう,おそらく.
こうして,一連のヴァカンスのお話は1961年7月23日から『シュッド・ウェスト・ディマンシュ』紙上に掲載されたのです.
以下↓は,掲載されなかった(ボツとなった?)イラストのようです.
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