Aymar du Chatenet, La Grande histoire du Petit Nicolas Les Archives inédites de Goscinny et Sempé, IMAV éditions, 2022, pp.140-147.
「マンガから文章へ」(De la bande dessinée au récit)
「『ムスチーク』誌に掲載されたマンガにおいて,サンペはすでに,後に登場する人物や場面設定,人の姿勢を描いているが,『シュッド・ウェスト・ディマンシュ』誌でのイラストのほうがより洗練されているのは言うまでもない.文章版『プチ・ニコラ』の内容を予告するようなマンガ版もある.例えば,電動式の電車,パパから自転車のプレゼント,遊園地のバンパーカー(電気豆自動車),床屋さん,ガラス屋さん,映画館,浜辺などなど.これらはゴシニが話を書き直し,サンペが再度イラストをつけることで,まさにこれこれ!とばかりに,『プチ・ニコラ』の特徴となるお話になるのである.(p.140)
本節の説明はこれだけですが,全てを物語っています.媒体を変えただけで,同じ二人組が制作しているのですから,当たり前と言えば当たり前なのですが,同じような設定,同じような展開,同じような構図が出てきます.制作年代だけを考慮するなら,確かに文章版はマンガ版の発展形とも考えられるでしょう.後は,読者の好みというか,どう評価するか,となりそうです.
本書ではとりあえず,マンガ→イラストの類似,あるいはイメージの移行を表す5つの例が挙げられていますが,ここでは2つだけ抜粋しておきましょう.
まずはケンカの場面です.
腕を何本も描くことで,動きを表しています.それから,マンガの方は,固有の表現法というか,勢いを表す線や星が描かれています.宙を舞うメガネもそんな技法の一つです.
(p.140)
次は,パパの休息を表す肘掛け椅子.
椅子の向きなど,構図は異なりますが,強いて言えば同じ設定が確認できるといったところでしょうか.
(p.141)
マンガの方は色刷りでキレイではありますが,確かに必要不可欠ではないのかもしれません.文章版の白黒のイラストの方が,緻密というか,線だけのそっけない表現に,物語の展開が凝縮されたように見えるのですが,これは読み込みすぎかもしれません.いずれにせよ,別物としか言いようがないような.
本節では,『シュッド・ウェスト・ディマンシュ』誌の掲載ページがそのまま転載され,かつイラストの原稿が紹介されています.イラストは,掲載時と同じものですので,オリジナルを見るという意味では興味深いものの,どの『プチ・ニコラ』にも載っていますので,どうぞそちらを見てください.
(15)でやはり紙面を紹介した時に書きましたが,ここでも題名は「ニコラ」のみ.作者としては,右上に2人の名前が出ています.ここで注目したいのは,この紙面全体の「読者の子どもたちの日曜日」という題名です.全体を見ているわけではないのでわかりませんが,おそらく『シュッド・ウェスト・ディマンシュ』誌は大人向けの新聞であったため,日曜版の一コーナーとして,子供欄が設けられていたのではないかと想像しています.ですから,マンガは当時は,子どもの読むもの.場合によっては定期購読していた大人は,通常なら読まなかったものかもしれません.それがだんだんと,マンガに人気が出始め,紙面が広がり,やがては,マンガ専門誌などが誕生するようになるのでしょうが,それはともかく,こうしてみると,『プチ・ニコラ』は大人向け連載であったのか,子ども向けであったのか,俄には判断がつきかけるところです.子ども向け欄なのだから,子ども向けと言えるのかもしれませんが,それでも,(12)で紹介した,連載開始直前の広告を想い出してください.
「あのおじい様さえ・・・おじい様,ほんとは報道にしか興味ないんだけど,なのに『プチ・ニコラの冒険』読んでるよ・・・」(p.121)
これは宣伝文句なので,本当にこの通り,大人の「おじい様さえ」読むことになったかはわかりません.しかし,あの気難しいおじい様さえ,読めるように配慮されていたのは確かなのです.
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「ニコラの年齢はぜんぜん一定しないんだ.僕らは正確なニコラの年齢を書かなかったし,それに,わざとじゃないんだけど,家でのニコラよりも,学校でのニコラの方がいつも,ほんの少しだけ年齢が上の設定になっているのに気がついたんだ.学校ではだいたい10歳くらいで,家では7歳ぐらいかな.いずれにせよ,すごく曖昧で,お話によって,歳が上になることもあれば,逆に下になることもある.」(ゴシニ)(p.145)
なるほど,どうりで・・・.
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