Aymar du Chatenet, La Grande histoire du Petit Nicolas Les Archives inédites de Goscinny et Sempé, IMAV éditions, 2022, p.10-p.65.
少しずつですが,『「プチ・ニコラ」大全 ゴシニとサンペの未刊行資料集』を紹介してゆきたいと思います.書籍の大きさと厚さからすると,ん十回は必要そうですが,それだけ楽しみが続くなぁと良しとしましょう.急いでないし.
さて,前回,『プチ・ニコラ』に直接関わる第4章「『プチ・ニコラ』,最初の一歩」(p.67〜)から紹介しますと書いておきながら,それでも著者たちの生い立ちや,『プチ・ニコラ』に至るまでの活動を,豊富な資料と合わせて眺めていると,『プチ・ニ』と直接の接点がないとしても,あっ,これは後で『プチ・ニ』に挿入されたな,とか,これは構図がそっくりのイラストだとか,このユーモアは間違いなく引き継がれている,とか,色々思い当たるところがあって,バッサリ切り落としてしまうのは勿体ない気もしてきます.二人が出会う前に過ごしたヴァカンスの写真,小さい頃に読んだ雑誌や書物の想い出話,子どもの頃にノートの余白に描いたデッサンなども,どことなく『プチ・ニコラ』を彷彿とさせてしまいます.
デビュー前のサンペは雑誌にイラストを持ち込みますが,なかなか売れず,相当苦労したようです.それでも『シュッド・ウェスト・ディマンシュ』誌の1951年4月29日号に最初のイラストが掲載され,ここから運命が開けたと言います(p.36).その,記念すべき第1作目が↓です(p.36).
唯一の目的は「笑わせること」.もう,最初から見事達成しています.
もう一枚だけ抜粋しておきましょう.
「ゴールし損なったのは誰!?」(p.41)
誰が打ち込んだの!とか,誰が割ったの,誰が蹴ったの?と言われるよりも,ずっと名乗り出やすいかも.それはともかく,子どもたちを見ると,もうすっかり『プチ・ニコラ』でしょう?
イラストがすでに『プチ・ニコラ』を想わせるからといって,サンペだけが作者ではありません.ゴシニだって,↓ほら,この通り(p.50).
「パパ,お隣さんが,割れた窓ガラスのことでパパに会いたいんだって.」
1954年2月28日の文とイラストですから(イラストもゴシニ!),『プチ・ニコラ』連載の直前の作品です.『ボンヌ・ソワレ』という雑誌に掲載されたものです.肘掛け椅子でくつろぐパパ,悪気などなく素知らぬふりで悪さを告白する子ども.やはり『プチ・ニコラ』です.
一コマのイラストとテクストだけではありません.↓のようなマンガまでゴシニ一人でも発表していました(p.51).
題名は「ビボビュ船長」.白髪の元船長のお話です.それにしてもやっぱり変な名前.現役を退いたビボビュ船長は息子のボボビュ氏夫妻と孫のルルと一緒に暮らしています.どうやら船長は現役時代の話や武勇伝を孫にしているようで,ルルはそれを真似ていたずらをしでかす.教育的配慮から,息子のボボビュ氏は父親に昔話をしないようにたびたび注意しています.船長は,それなら家の中でなければ文句あるまいとばかり,公園の噴水に船を浮かべてレクチャーします(「おいで,見習い水兵よ.陸地から遠く離れて訓練続行じゃ.」).そこで水に落ちて,会えなく敗退・・・.最後の4コマのみ訳しておきますね.
「−-みてみて,レオン,ビボビュ船長がお孫さんと一緒よ.すっごく勇敢な船長さんなのよね? −-それに想像力も豊かなんだ.」
「いざ,浸水! −船長,了解です!」
「もやい綱を緩めよ!帆を上げよ!舵を左舷に!」
「海で人が溺れてるよ!」
船長が落ちて水飛沫が上がると,ルル君が口で拭いて必死で進めた帆船が巻き込まれ,あえなく沈没・・・.
偉そうにしている大人が子どもの前で失敗するという『プチ・ニコラ』のパターンが仄見えるだけではありません.7コマ目の肘掛け椅子というアイテムも登場しますし,何より,公園の噴水で帆船を浮かべるアイデアは(174)でも出てきます.
ざっと眺めただけですが,ネタ,アイテム,ユーモア,権威主義の大人・・・『プチ・ニコラ』の発想源,あるいは元ネタはそこらじゅうに転がっているようです.そんなの一つ一つ拾って並べてゆくだけでも,十分楽しめそうです.
まだまだあるのですが,というわけで,p.67に辿り着くまでに,もう相当の時間が過ぎてしまったので,本命は次回から.
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