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執筆者の写真Yasushi Noro

『「プチ・ニコラ」大全』(13)

Aymar du Chatenet, La Grande histoire du Petit Nicolas Les Archives inédites de Goscinny et Sempé, IMAV éditions, 2022, pp.122-p.123.


「『シュッド・ウェスト・ディマンシュ』誌上の『プチ・ニコラ』」(Le Petit Nicolas dans Sud Ouest Dimanche)


 『ムスチーク』誌から離れてすぐ,マンガ版『プチ・ニコラ』は『シュッド・ウェスト・ディマンシュ』誌に再度掲載されることになります.同誌については前回書きました.ゴシニとサンペの才能を評価し,1959年から文章版に紙面を提供する雑誌です.つまり文章版の連載開始前に,マンガ版をもう一度掲載したいと依頼したと言うことでしょう.よほど気に入っていたのですね.他社で一度掲載されたマンガを,時をおかずもう一度掲載するなど,普通なら考えられないことですが,ゴシニとサンペは『ムスチーク』誌を去る際に,「例外的に」著作権を維持できたそうです.

 そこで二人は1956年9月から,『シュッド・ウェスト・ディマンシュ』誌上でマンガ版を発表します.ゴシニ・センター(Institut Goscinny)のサイトによると*,『シュッド・ウェスト・ディマンシュ』誌の第376号(1956年9月16日)〜第400号(1957年3月24日)に計23話が掲載されていました.全てすでに発表済みのもので,『ムスチーク』誌では28話掲載されていますから,一部省略されていました.


 しかしそのまま再掲されたわけではありません.まずは見てみましょうか.(p.122)


 紙面の左上に,お馴染みの12コマがあります.これはマンガ版p.21ページに掲載されたお話です.

Sempé-Goscinny(Agostini), Le Petit Nicolas La Bande dessinée originale, IMAV éditions, 2017, p.21.

 初出時から変更点が2つあります.わかりやすいのは,初出時が綺麗な色刷りであったのに対し,本誌では白黒の印刷であることです.次に,(ゴシニの呼び方に倣うと)0コマ目に注目しましょう.(p.123)



 続けて,マンガ版p.21の同じ箇所もみてみましょう.


 つまり0コマ目が置き換えられているのですが,さらに署名が異なりますよね.ここでゴシニは「アゴスチーニ」の偽名を捨てて,本名に戻しているのです.

 色の変更とゴシニの署名,この2点を除けば,全く同じものを印刷しているわけですが,それでも,次のような箇所を見ると,だいぶ印象は異なるのではないでしょうか.9コマ目を比較してみましょう.



(左)マンガ版p.21:(右)『シュッド・・・』1957年1月6日号掲載(p.123)


 パパがよそ見運転をしていて,トラックと正面衝突する直前のコマです.もちろん,同じ原稿(planche)に基づいているので,ただの印象にすぎないのですが,白黒版の方が,ニコラがはっきり眼を見開いている様子がわかります.このほうが衝突寸前の危機意識がよく伝わるような気がします.それで個人的には,白黒版も捨てがたい.

 ともかくも,一度読んだらもう終わりの使い捨て時代の始まる前のこと.著作権の問題はあるのでしょうが,面白いものは何度でも,それに国境を超えて(ベルギー→ボルドー)楽しめる,なんて当たり前の事実を伝えてくれます.それに,彼らの作品がそれだけ求められ,それだけ評価されていたのを証明しているわけで,その意味でも,嬉しい再掲載でした.

 次回からはようやく文章版に入ります.

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