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執筆者の写真Yasushi Noro

『「プチ・ニコラ」大全 ゴシニとサンペの未刊行資料集』の紹介(1)

更新日:2023年3月9日

Aymar du Chatenet, La Grande histoire du Petit Nicolas Les Archives inédites de Goscinny et Sempé, IMAV éditions, 2022, -p.9.


 前回,最後にブログに書いたのが,11月18日.ということは,3ヶ月以上も,ほったらかしていたのですか!?我ながら,自分の怠惰さに呆れてしまいます.でもその間,発表があったり,研究会があったり,論文を執筆したり,授業もあったし,年度末で・・・なんて,いくらでも言い訳を並べることは可能ですが,更新しなかった,という事実は残るわけで.それでようやく,また春休みに少しずつ書きたいかなと,急に思い立ちました.それでまずは頭より身体を使えってなわけで,手の届くところにあるものから始めるのが良いかと考え,前回に紹介した未刊行資料集を紐解いてゆこうとなりました.


Aymar du Chatenet, La Grande histoire du Petit Nicolas Les Archives inédites de Goscinny et Sempé, IMAV éditions, 2022.


 原題はもちろんシャレになっていまして,「小さなニコラ」(『プチ・ニコラ』)の「大いなる物語」.これまで発表されたことのない原稿や,入手困難な雑誌の表紙写真など,これでもか!ってほどたくさんの資料を詰め込んだ一冊です.39.90ユーロ(本日付のレートで1euro=144.37円ですから,ざっと5,760円)は,フランスの一般向け書籍としては安くはないのですが,何せデカい.厚い.重い.それに貴重な未公刊の資料がたくさん掲載されていますから,私的には激安なお買い物で,かなり得した気分です.

 著者のAymar du Chatenet氏については本ブログ(『プチ・ニコラ』(185)で簡単に紹介しましたが,ゴシニの娘であるアンヌ・ゴシニの夫で,発売元のIMAV Éditionsの経営者.2000年代に入ってからの『プチ・ニコラ』再ブームの仕掛け人のようです.『ゴシニ事典』なども監修しています.

*Aymar du Chatenet dir., Le Dictionnaire Goscinny, Jean-Claude Lattès, 2003.

 さて,表紙をめくると表題紙.タイトルの下には半開きの扉の鍵穴から向こうを眺める少年のイラストが置かれています.『プチ・ニコラ』(3)のイラストですが,さぁ読み始めるぞっと,胸をワクワクさせている読者に見立てた心憎い演出です.その先には何が?

 さらにページを繰ると左右見開き2ページでジャーン!連載の開始時から,ニコラの変貌を一目で辿ることのできるイラストが置かれています.

 長い期間連載された漫画ではよくあることですが,開始時と最後のイラストが全然違う.大昔に『ドラえもん』でそう思いましたが,『プチ・ニ』ももちろん,例外ではありません.そりゃ,全部(おそらく)ニコラでしょう.それとは認識できます.上手くなる,というより,こなれてくるのでしょう.

 次は,「すべての子どもの幼年時代の世界」と題されたアンヌ・ゴシニの序文があり,続いて二人の作者を描いたサンペのイラストが挿入されています(pp.6-7).



















左の,雑然とした書類やら絵の具の山に囲まれて電話をかけているのがサンペです.無精髭など気にもせず,資料は散らかし放題.どこに何があるんだか,他の人にしてみれば魔境そのものの書斎で,簡易椅子にお尻だけ乗せて,落ち着きがない様子です.対して,きちんと整理整頓,タイプライターの横の原稿さえピシッと揃えて,書いたばかりの原稿を読み直しているのがゴシニです.温厚な紳士そのもの.面白い対照です.


「『ボヴァリ夫人,それは私だ』のフロベールじゃないが,自分のイラストには少しは自分が入っている.みんなそうだよね.」(サンペ)


「いつだって,誰も皆がボヴァリ夫人なんだ.ほんの少しだけだけどね.ちっちゃなニコラ(プチ・ニコラ),それは私だ,なんてとんでもない.でもね,少しはそうだった.ニコラのクラスメートの誰も彼も,少しは私だったんだ.」(ゴシニ)


 次のページにはやはり二人のコメント(p.8)と目次があります.


「『プチ・ニコラ』は,兎にも角にも友情の歴史だね.ゴシニは僕なしでは絶対に書かなかったろう.でももっと言えばね,僕の方こそゴシニなしでは絶対に描かなかったってことなんだ.僕らは正真正銘,共犯者ってわけさ.」(サンペ)


「『プチ・ニコラ』のお話は,サンペが私に語ってくれた想い出と,それから私自身の想い出が元になっている.下校時に漂うパン・オ・ショコラの匂い,休み時間の空気感,子ども時代のそんな何やかやを,サンペもまた,実にうまく嗅ぎ取ってくれたんだ.」(ゴシニ)


目次

ゴシニとサンペ 優等生と劣等生 .......................... 11

運命の交差 .......................... 33

友情 .......................... 55

『プチ・ニコラ』,最初の一歩 .......................... 67

超ナイスなクラスメートたち .........................119

『プチ・ニコラ』,雑誌『ピロット』でアステリクスと同時掲載 ........................159

『プチ・ニコラ』,フランス文学の古典になる .........................179

永遠のヒーロー .........................221

『プチ・ニコラ』刊行一覧 .........................241

『プチ・ニコラ』関連年表 .........................252

あれから彼らは・・・ .........................253

『プチ・ニコラ』書誌 .........................254

謝辞 .........................255

(掲載されていませんが.図版一覧    .........................256)


 章分けはありませんが,最初の3章は二人の作者の生い立ちと出会いについて書かれています.赤ん坊,子ども時代,学校の集合写真,家族・・・珍しい貴重な写真ばかりです.それ以外にも,『プチ・ニコラ』以外で二人が関わったもの,雑誌に掲載されたサンペのイラストや,ゴシニが企画した言葉のパズルなどが紹介されています.そもそも,サンペは膨大な数のイラストを残していますし,ゴシニも無数の作品に携わっています.両者ともに,わかりやすいところでは,それぞれが相当数の書籍を残していますが,それだけではありません.雑誌に掲載されたり,映画やアニメの脚本があったりと,とにかく膨大な量の仕事がなされているのです.それらを網羅する作業は未だほとんど手付かずで,全貌など誰も把握していないのです.本書のここまでで,わずかとはいえ,そのほんの一端に触れられるだけでも嬉しいですね.

 しかし,本ブログの著者の主眼はあくまで『プチ・ニコラ』.というわけで,第4章にあたる「『プチ・ニコラ』,最初の一歩」(p.67〜)から,次回,紹介してゆこうと思います.本日はコレマデ.力尽きました・・・.

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