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執筆者の写真Yasushi Noro

『プチ・ニコラ』(217)

« La visite », HIPN., vol.3, pp.87-95.

 visiteはこれまでにも2度,題名に登場している単語です(51), (76) .今回は「訪問」で問題ないでしょう.それにしても,題字の下に置かれた1枚目のイラスト1/5.本当に今回の話のためのイラストだったのでしょうか.文を読み終えた後も,この絵が本話に挿入されたのは不思議でなりません.


カバンを抱えたニコラがどこかへ歩いてゆきます.どこぞのおじさんが反対方向に歩いていて,二人が対照となるように,両者の間には大きな街路樹が置かれています.この風景,例えば,学校が午前中で終わった日とか,お昼を食べに帰ってきたとかならわかります.がしかし,今回はパパとママンの古い友人である,ショーソン老夫妻を訪ねるというお話で,それもパパも一緒ですから,恐らくは平日ではなく日曜日では?う〜ん,謎.

 今回ニコラはパパ,ママンと一緒に,ショーソンさんのお家にお三時のお茶のお呼ばれで<いやいや>行くことになります.冒頭はママンとの対立.映画に行くか,友だちと空き地で遊ぶか,アルセストを呼んでお留守番をすると主張するニコラに対して,ママンはがんとして言うことを聞いてくれません.


それで僕,泣いたんだ.それで言った.「そんなのおかしいじゃないか,だって僕は地理でクラスで8番だったし,ショーソンさんたちのところにお茶なんて飲みに行きたくないし,ショーソンさんちには子どもいないし,ショーソンさんちでは退屈するし,ショーソンさんちでなにしろっていうのさーーー!」(p.90)


 ニコラなりの理屈は通っています.「そんなのおかしいじゃないか」( j'ai dit que c'était pas juste )は,こんな場面でよく出てくる表現ですが,これを見るにつけ,「公正さ」の主張なんて,如何にもフランスらしい感じがして,いつも感心します.「ショーソンさん」「ショーソンさんち」と,一つの文中に4度も出てくると,ニコラのこだわりと,同じことを繰り返す子どもらしい表現が感じられます.確かに子どもがワーワー自己主張する時って,同じようなことを繰り返しますよね,そういえば.

 でも大人はわかってくれない.彼らの結論はすでに,あらかじめあるのです.それじゃ,子どもはいうことを聞かない,わがままだなんて言いますが,その実,子どもの理屈に耳を貸さず横暴なのは大人の方ではないでしょうかねぇ.

 「ショーソンさんたちはメメと同じくらいのおじいちゃん,おばあちゃんなんだ」(Ils sont aussi vieux que mémé.)とありますから,パパやママンよりずっと年上の「友だち」(amis)なのです.年齢が離れていても,「友だち」と表現するのも,日本語と比較してフランス語の特徴です.だって日本語で友だちといえば,同級生やバイト先が同じ人なんかを想い浮かべるでしょう?でもフランス語では仲良くなれば「友だち」なのです.

 老夫妻なので,とにかくあれこれ,めんどくさい.家の中ではやたらと規則があって,自分たちのルールを押し付ける.それじゃ,お客さんも楽しめないでしょう.特にニコラのような,遊びたい盛りの子どもは.


「あれあれ,いやはや,どうぞどうぞお入りなさいな.」と,ショーソンおばあさんが大きな声を出した.まるで僕らに会って驚いたみたいだったよ.でもそんなはずない.だって1週間以上前から,僕ら,招待を受けていたんだから.」(p.92)


 老人特有の大袈裟な表現でしょうか.相変わらずKYニコラには,そんな社交辞令が読み取れない.


それから,ショーソンおじいさんが出てきて,みんなで握手したよ.みんなそれぞれ全員にね.ショーソンおばあさんは僕が大きくなったわねって,ショーソンおじさんはいい本持ってるねーだって.ママンが随分荒れたお天気ですことって言ったら,ショーソンおじいさんとパパが同意して,まったくたまらんですなだって.ショーソンおばあさんが「お茶の用意ができてるわ」と言った.あんまり美味しいお茶じゃなかったな.お茶と焼き菓子とクッキーとジャムが置いてあった.(p.92)


 儀礼的で大袈裟な,型通りの挨拶に,話すことないからお天気の話.さらに話すことないから,すぐにお茶へ.そのお茶がまた,うまくない.ニコラの観察眼と記述にはほとほと感心します.もうすでに退屈している様子が伝わってきますが,ここからが本番.

 まずはお茶のカップが,ショーソンおばあさんの家に代々伝わるリモージュ産のセット(un service de Limoges).「気をつけてね.壊れやすいから.」なんて言われたら,落ち着いて飲んでいられません.パパも同調して,「ニコラ,気をつけなさい」なんて,ダメ押し.ママンはもうおやつは食べたんだから,あっちに座って本でも読んでなさいと,追い出しにかかります.まだ終わってなかったのに・・・.でも,ニコラはちゃんということを聞いて移動します.

 めんどくさいこと,第二弾.


「そっちの肘掛け椅子じゃない方が良いかもしれないわね,ニコラちゃん.」と,ショーソンおばあさんが言った.

ショーソンおじいさんが説明を加えた.「椅子のクッションの部分に破れやすい布を当てているんじゃよ.それでな,わしらも絶対に座らないようにしとるんじゃよ.」(p.93)


 座れないでしょ,これを聞いちゃ.そもそも,座れない・座らない椅子って何?飾りか?!これを聞いたパパは「ニコラ,椅子の方に座りなさい.」.「大人しくしてるんですよ.」と,ママン.もぅ〜めんどくさ!

 ニコラは本を読み始めますが,もう何度も読んだ本だから楽しめない.でも,テーブルの方で話している四人の会話も盛り上がっていないみたい.


パパとママンとショーソンさんたちは相変わらずテーブルの方にいて話していた.時々ね,みんながしーんと黙り込んでしまったかと思うと,今度はみんな同時に話し始めたり.(p.93)


 パパとママンも話すことがなくて苦戦している様子が伝わってきます.つまり,退屈しているのはニコラだけではなさそうです.それでも,ママンたちが来ることを主張したってことは,想像するに,やっぱり勝手な都合,大人の事情というやつでしょうか.

 こんな退屈な会話の様子を観察していたニコラの目に,ガラス棚が映ります.これが<あぁ〜もぅ!」第三弾.ガラスの向こうにはピアノやらなんやら,色々なミニチュアがあったようです.でも即座に禁止令.


「ダメだ,ダメだ.ニコラ!ガラスに近づいちゃいい案.すぐ割れてしまうからな.」(p.93)

「レオポルドは集めているミニチュアの置物を大事にしていてね.コレクションとまではいかないんですけどね.一つ一つ想いでがあるのよ.レオポルドったら,焼き物の羊飼いの人形を壊した家政婦を辞めさせちゃったりして.」(p.93)


 またもや,そう聞いたら・・・.のパターンです.これがイラスト2/5.


 ちょっと見てるだけじゃんかよ.って気がしますが,奥のおじいさんの手が上がって慌てている様子です.ついでに部屋の中を見ると,あ〜如何にも,時が止まった感じの部屋です.よくいえば,趣味良く,アンティークで統一されたお宅.悪くいえば,何の役に立つんだか全く解読不能な,古いものばっかり集めてゴタゴタの老人宅.ま,お口の悪い・・・.

 椅子も,テーブルも,グラスも,花瓶も,戸棚も,壁紙も,写真もカーテンも・・・.そういえばフランスで,たま〜にこういう部屋を見かけました.きっと,伝統的な趣味を継承しているということなんでしょう,多分.

 ちなみに,「ミニチュアの置物」はbibelettesの訳なんですが,手元のいくつかの辞典ではこの語はありませんでした.bibelotが男性名詞で「小さな置物,骨董品」とあります.でも,-etteは指小辞で小さいものを表しますから,容易に想像がつきます.ショーソンおばあさんが,わざわざ「コレクションとまではいかないんですけどね」と言っているので,貴重な収集品ではない.それで少し価値を貶め,親しみやすく可愛らしさの感じが出るbibelettesにしたといったところでしょうか.

 この,ニコラが注意された場所に,イラスト3/5があるのですが,逃げる動作はともかく,イタズラっぽい顔はどうも場面にそぐいません.



仕方なくニコラはまたもや本に戻りイラストを眺めていると,外から消防車の音が聞こえてきました.何だろうと,窓際に寄ってみると.


ママンが大声を出した.「ニコラ,カーテンに気をつけて!」(p.94)


 ニコラの行先にカーテンがあるを見たママンが,ショーソンさんのリアクションを先読みして,叫びます.ということは,ママンもパパも,おそらくは,もうこの時点で,ショーソン家のルールにうんざりしていたということでしょう.ピリピリしています.

 それで今度はカーテンかと思いきや.


「カーテンはいいのよ.」と,ショーソンおばあさんがいった.そうじゃなくて,窓ガラスの方ね.掃除してくれる人が,まぁ,見つからない見つからない.もう,大変なのよ.やっと見つけて来てくれたのはいいけど,今度はあまりに高く請求されて,もうびっくり.」(id.)


 ・・・.もう,窓にも近寄れません.

 ここでイラスト4/5が挿入されていますが,このお話用の絵と想定したとしても,微妙な顔つきです.退屈なんでしょうかねぇ.肘ついて,やることない,みたいな.



 もう何度目でしょうか,ニコラは本に戻りますが,もう何度も読んでいるものだから,退屈で,表紙に爪で引っ掻き傷をつけていました.今度は自分で持ってきた本を引っ掻いているだけですから,何も言われまいと思っていたら,甘い!何度も読んで退屈していると聞いて,ショーソンおばあさんが,何か別の本でもというと,ショーソンおじいさん,答えて曰く「わしの本は,ニコラには面白くなかろう.古くて装丁のしてある本ばかりだからな.」(p.95)

 本まで,カビが生えてます.いや,そこまでは書いてありません.とにかく「古くて装丁のしてある本」(de vieux bouquins reliés)ですから,嗜好はわかりませんが,少なくとも古いもの好みなのは確かで,それも装丁されているのですから,それなりに高価な本であることがわかります.つまり,丁度品や「ミニチュアの置物」と同レベル.古いものは大切に,の精神で集められた骨董の数々.

 そこでようやくパパが遅くなったから帰ろうと.ショーソン夫妻も一応,形式的には引き留めますが,ショーソンおばあさんがすかさずママンのコートを取りに行ったところを見ると,もう帰らせたかったようです.ようやく,二家族の意見が一致しました.ニコラも大喜び.


 僕,帰ると聞いて,すっごく嬉しかったよ.特にさ,パパが約束してくれていたから,映画を見に行けたらな.(id.)


 別れの挨拶もそこそこに,ニコラは一足先に車に乗り,後ろの座席のクッションにジャンプします.もちろん,喜びの表現です.それを見たパパが注意すると,意外や意外・・・.意外にも大人ってのは,子どものこと,よく理解しているのですね.


「こらっ!ニコラ.少し静かにしてなさい!」と,パパ.

 それを聞いてショーソンおばあさんが大きくため息をついて言ったんだ.

「まあまあ,やらせておいてあげなさいな.かわいらしいじゃないの.」

「そんなもんじゃて.」と,ショーソンおじいさん.「あの歳の子どもなんてものはな,思いっきり遊んで,体を動かさんとな.わかってやらんとな.」(p.95)


 大人が子どもの習性を理解していることはわかりました.あの人たちも,昔は子どもだったんだし.それにしても,自分の家離れりゃ,子どもが騒いで,飛んだり跳ねたりしていいってこと〜???どこまで身勝手なんだ!パパもママンもショーソンおじいさんもショーソンおばあさんも.まったく,大人ってやつは.

 最後に,イラスト5/5が置かれていますが,この巻独特の使用法で,どうも,本話用のイラストには見えません.でも,一応.



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