Aymar du Chatenet, La Grande histoire du Petit Nicolas Les Archives inédites de Goscinny et Sempé, IMAV éditions, 2022, pp.152-153.
「ルポは冒険」(Aventures journalistiques)
本節では,『プチ・ニコラ』を離れてゴシニとサンペが共同で執筆した,いわば<その他>のお話,つまり報道記事(ルポルタージュ,ルポ)が2篇紹介されています.本ブログでは,イラストの説明を中心とした『プチ・ニコラ』の全話紹介をした後で(1)〜(222),番外編(hors-série)として,二人が揃って制作したお話を紹介しています.これまでに扱ったのは以下のお話です.
『プチ・ニコラ』hors-série(1)-1〜5:« La princesse et le photographe »(1960)
『プチ・ニコラ』hors-série(2):« Roma ou l'aventure automobile »(1962)
『プチ・ニコラ』hors-série(3)-1〜6:« Nicolas vous présente Pilote »(1964)
ブログを執筆した時点では,以上の3篇で終わりかと思いましたが,本書『「プチ・ニコラ」大全』のpp.152-153には,もう一つ,未紹介のお話が掲載されていました.そこで,『大全』紹介は少し中断して,番外編(hors-série)の4番目のお話を読んでみようと思います.
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私の知る限りでは,ここで紹介するお話はこれまでの書籍には再録されたことがありませんので,解読できる範囲で,原文も再現しておきたいと思います.
« Deux hommes(Goscinny et Sempé) au Salon des arts ménagers », Sud-Ouest, 13 mars 1960.
本話の初出は1960年3月13日付け『シュッド・ウェスト』紙であることがわかります.『プチ・ニコラ』が掲載されていたのは『シュッド・ウェスト・ディマンシュ』紙,すなわち日曜版でした.それでは平日の紙面に掲載されたのかと思きや,調べてみたら,その年の3月13日は日曜日.ですから,やはり日曜版に掲載されていました.しかも,この557号にはいつもの『プチ・ニコラ』も掲載されていますから,その週は二人で2本用意したことになります.いやはや,すごい生産力です.しかも以下でわかる通り,「家電市」のルポですから,現地にも行っているので時間も労力も必要.いやはや・・・.
(p.152.1960年3月13日付『シュッド・ウェスト』紙掲載の「ゴシニとサンペ,男二人,家電市へ赴く」)
全文です.イラストは4枚.題名にあるように,ゴシニとサンペが連れ立って,家電市のルポをしているようです.『大全』の説明によると,『シュッと・ウェスト』の編集長アンリ・アムルーが二人を家電市へと送り込んだそうです.今は(2023年),おそらくは家電のない家庭はなく,どこの街にも量販店がある時代ですから,家電市と聞いても,ルポが必要なほど,何がそんなに珍しいのか,なんて訝る人がほとんどでしょう.掃除機,洗濯機,食洗機が並んでいる・・・なんて売り文句に心ときめく人はいないのではないですか?(個人的には,ルンバとか,生ごみ処理機とかには少し惹かれますが).
ところがこれが執筆されたのは「栄光の30年」の時代です.「栄光の30年」とは,フランスの経済学者ジャン・フラスチエの1979年の著作の題名から普及した語で,第二次世界大戦の終戦時からの30年間を指します.日本で言う,高度経済成長期でしょう.七月革命を指す「栄光の三日間」に因んで付けられました.
ところで,小津安二郎監督の『お早よう』は,日本でも1950年代に「三種の神器」(テレビ,洗濯機,冷蔵庫)が普及し始めたころを描いていました.これはもちろん,全世界的な現象で,フランスでも戦後の復興の過程で,様々な電化製品が登場します.とりわけ,家事に従事していた(させられていた?)「主婦の夢は食器洗いをしないこと」(p.153).すなわち,家電の普及は,当たり前のことですが,「女性の地位が大きく変動していた」時期にあたるわけです.もしくは,家電の普及により,女性の地位が向上した?!そんな風にひっくり返して考えてみることもできるかもしれません.冷蔵庫は食品の鮮度を保ち,消費期限を伸ばし,買い物の頻度を下げる.掃除機は,箒と雑巾の手間と時間を省略してくれる.テレビは男女問わず,余暇の過ごし方に変化を与えたでしょう.そして都市では,それらの家電を動かすための大量の電気が必要となり,インフラが整備され・・・.こんな日常生活の変革が良い結果ばかりをもたらしたわけではありませんが,人の生活が格段に便利になったのは間違いありません.そしてそうした「近代化,現代化」を支える魔法の道具の数々.それらを一堂に集め,紹介する場としての「市」(salon)に人の関心が集まらないはずもありません.
ゴシニとサンペはそこへ潜入して,当時にしてみれば誰も見たことのなかったような最新の発明品のルポを仰せつかったわけです.それにしても,ルポをするのが,この二人ですよ〜?!凄い!便利だ!と購買欲を煽り立てる宣伝役を買ってでるはずもありません.どんだけ斜に構えたような皮肉と批判を展開してくれるでしょうか.楽しみで仕方ありません.彼らの批評眼に期待したいと思います.続きは次回以降で.
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