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執筆者の写真Yasushi Noro

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大阪大学で開催されるフランス語フランス文学会2022年度秋季大会において,文芸事象の歴史研究会/PPP 2024の枠組みで野呂が『プロヴァンシアル書簡』について発表をします.以下はレジュメとなります.(le 21 octobre 2022)


『プロヴァンシアル書簡』の作者は誰か?

−− パスカルと『プロヴァンシアル書簡』


野呂 康


 本発表は,ブレーズ・パスカル(1623-1662)の代表作の一つと目される『プロヴァンシアル書簡』(別名『田舎の友への手紙』)と,その作者の関係性について考察することを目的とする.


 近年,パスカルの代表作といえば,多くの人が『パンセ』を想い浮かべる.我が国でも数種の翻訳があり,「クレオパトラの鼻」などの鮮烈なイメージとともに,親しまれている書物である.しかし『パンセ』はパスカルの死後数年を経てから刊行された遺稿であり,パスカルの生前,そして少なくとも死後しばらくの間は(そして発表者の見立てとして,おそらく18世紀に至るまでは),彼の名は寧ろ幾つかの科学的業績か,『プロヴァンシアル書簡』(1656-1657)と結びつけて想起されていたはずである.それにも関わらず,現代において『プロヴァンシアル書簡』はあまり読まれなくなってしまった.フランスでの事情もさほど変わらない.研究者の関心は『パンセ』の編集作業に集中し,『プロヴァンシアル書簡』にはさほど注目が集まらない.要するに19世紀以降,パスカルは「『パンセ』の作家」となったともいえよう.実際のところ,研究と編集の成果を直接反映する校訂版や翻訳が出版されなければ,読者の関心が向かないのも当然であろう.発表者は現在進行中の研究全体の枠組みとして,以上の状況に関わる二つの問題を見出している.

 第一に,現代において『プロヴァンシアル書簡』はなぜ読まれないのか.第二になぜパスカルは「『パンセ』の作家」となったのか.第一の読まれなくなった理由については,歴史的経緯と,歴史記述上の経緯,すなわち現代の研究者の着眼点と方法論の説明が必要となろう.第二の問題については,いわば「『パンセ』の作家」に対して,「『プロヴァンシアル書簡』の作家」という形容を対置するのが,解決とは言わないまでも,考察の糸口となると考えられる.

 以上の問題意識から,本発表では特に「『プロヴァンシアル書簡』の作家」という形容に焦点を絞り,問題提起をしたい.

 実際のところ,成立経緯に目を向ければ,パスカルを「『プロヴァンシアル書簡』の作家」とする捉え方は,現代的な常識を反映した一つの操作と考えられる.テクストと作家名を結びつけるという,文学史と文学研究において半ば常識化された操作につき再考する時ではないか.本発表では,この極めて現代的な表象の問題点を指摘したい.

 発表の手続きとして,まず現代の研究者によるこのテクストの扱いを参照し,その問題点を整理する.次に,現代の作家表象の根拠となる証言を取り上げ考察を加える.最後に,本テクストの特徴を踏まえた読みの可能性を示唆しつつ,今後の研究の方向性を示したい.

(岡山大学准教授)



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